勇者≠ヘ昏く微笑む。

「ん、ッん、ふ、ぅ……ッ!」
「そんな泣きそうなカオするなよ」

 優しい声色になるように努める。俺の下でまるで蝶かなにかの標本のように鎖に繋がれた男を見下ろして、優越感に浸るのは流石に抑えられなかったが。強気な吊り目の瞳が、涙に蕩かされて許しを乞う色を帯びるのが堪らなく愛おしかった。

「オレの指、イイくせに……ンな嫌がるフリしても、煽るだけだってわかんねえかな」
「や、ァ……ッ、おま、え、ッおかし……ッ、」
「……おかしい? ……何処がだよ。好きなコとの間に子供作りてえのは当然だろ」

 呪文を唱えようとした唇に自らの唇を重ねて紡がれるはずだった言葉を殺した。啄むようなバードキスを繰り返し、ちゅ、とリップ音を立てて唇を吸う。第一、こいつを縛める鎖には封魔の術を込めているから俺に抵抗できやしないのだけれども。それでも、形式ばかりの封魔の呪文をそうっと耳元で呟いてやった。それにすら反応する身体に思わず含み笑いを漏らして、ぐちゅりと深くまで指を突き入れる。バタ足をするように内壁を擦り、時々前立腺までもを指で擦り上げた。

「ふ、ッあ……ァっや、だっ、やぁ、んな、ところでっ、」
「……こんな所だから、セックスしてるんだけどな」

 こんな所で。こいつの言いたいことは、痛いほどにわかる。何故ならば此処は魔王の城の一室、紫色の薄いレースの天蓋に隠された豪勢なベッドの上。もしも此処に魔王の部下なんぞが乱入すれば、オレはともかくとしても防具を剥がれてあられもなく鳴いているこいつなんて八つ裂きがいいところだ。──乱入すれば、の話ではあるが。低く返されたオレの返答に、意味がわからないと言った風の顔をしたこいつには気付かないふりをした。遅かれ早かれ、気付くものを態々急ぐ必要も無いだろう。

「こんなんで泣きそーな顔してて大丈夫か? これから俺のも受け入れンのに」
「も、やだ……ッや、あっ、おねが、いっ、やめ、ッ、」

 哀願を零す唇は微かに震えている。まさか長い間二人で旅をしてきた男に、最後の最後で犯されるなんて誰が想像するだろう。今じゃあ剣一振りで殺せるような魔物だって、傷まみれになって戦ったのを思い出す。森の中で野宿したことだって一度や二度ではないし、魔物の肉を食らったのだって。打倒魔王を掲げた旅がこんな風に終わるなんて、こいつの心中は察するに余りある。
 中に入れた指を増やしながら、快楽に打ち震える肢体を見つめ、そのまま視線を下へと走らせる。緩やかに勃起したそれの先から零れる蜜を指で掬い、ぬるぬるの指でくちゅくちゅとゆっくりと扱きあげた。びくん、と跳ねる身体の動きは無駄な抵抗でしかない。腰をくねらせて逃げようとするこいつの逞しい太腿を膝で押さえつけ、扱くスピードを上げながら中に入れた指も不規則に動かしていく。後ろを弄られるのは気持ちのいいことで、ギンギンにちんこをおったててしまうくらいにはイイのだと無理矢理身体に教えこめばいい。

「は、ッあっだ、め……ッ、むり、っでる、ッいく、」
「はは、意外と早漏なんだな。もっかいくらいイッとくか?」

 早々に切羽詰まった声を出して絶頂を迎えることを訴えてきたジャンの声は少しだけ掠れていて艶かしい。
 くっと背中が軽く反って、ぴんと爪先までが伸びて硬直する。勿論その間も手は止めずにこいつのイキ顔を眺めた。半開きになった唇の端から垂れる涎が、天蓋の隙間から入り込む光に反射して鈍く光る。

「や、ッだめ、ッあ……! むり、ッだ、あっろぜ、ッて、とめてくれ、ぇっ、」
「ンな暴れんなって、もっかい精液ぴゅーぴゅーしたらちんこ突っ込んでやるから」

 紡がれた俺の愛称に思わず笑い声が漏れてしまう。こんな事をされてもオレのことをまだ相棒だと認識しているのかと思うと、あまりにも健気で。絶頂直後の責めに身体が跳ねるが、構わずに2度目の絶頂まで追い立てるように今出されたばかりの精液も指に絡めて擦りあげる。イッたばかりの敏感な体への責めはキくのか、がちゃがちゃと喧しく鎖が鳴って、それすらも俺の耳には心地良かった。オレの手でこんなにも乱れるのがひどく愉快で、指先を思い切り前立腺に突き立てる。

「ん、ッあ、あっ、あ、あ、」
「喋れないくらいイイなんて可愛いよな、お前も」

 絞り出されたような切ない喘ぎ声がずくりと下腹に疼いた。がくがくと不規則な痙攣を繰り返す身体を自分の身体で抑えつけて快楽の逃げ場を無くしてやる。暴れる感覚が直にオレの身体まで伝わってきて、オレの身体まで昂って興奮が煽られるような気がした。

「ッ……は、ァ、っ……は、」

 ジャンが緩い絶頂を迎えたのか、指が締め付けられるのがわかってちいさく笑い声が零れた。ローションと腸液でぬめる指を引き抜いて、唇をなぞる。微かに眉を顰めて、翡翠石を埋め込んだような瞳がこちらを向いた。明らかな嫌悪感と、少しの戸惑いの色と視線が交わる。乱れて早くなった呼吸が彼の内心を現していた。
 腰巻の布をするりと解いて、下半身を顕にしていく。恐る恐ると言ったように向けられるジャンの視線ですら性欲に繋がるだなんて、俺も大概サドなのかもしれない、と内心一人で笑ってしまった。

「……は、……ロゼ、それ、」

 かっと開かれた双眸。こぼれ落ちてしまいそうな宝石を掬うように乾きかけた涙を親指で拭いながら、ぶちりと鎖を引きちぎってやった。こいつがどんなに暴れても外れなかったそれ。無力な人間とはなんと可愛らしいものか。抑えきれない笑みは、にたりと唇を彩る。
 現れたのは、まさに人外というべき性器。自分で言ってしまうのもあれだが、言ってしまって差し支えないだろう。事実、オレは人間ではないのだし。

「……やぁっと気付いたか?」

 倒すべき魔王様は、オレだよ。そうっと囁いた言葉に、力ない溜息がジャンの唇を割る。
 変化の術でオレの魔族らしい部分を隠すのは大変だった、とまるで旅での苦労した思い出を語るように明るい声色で告げても、ジャンは何も言おうとはしなかった。赤黒くそそり立ったオレのモノから、先走りが垂れる。興奮が止まない。今すぐにぶち込んで泣かせてやりたい衝動を抑えて、ベッドに沈むこいつの身体を抱き上げてオレの膝を跨がせ、膝立ちの状態にさせた。ケツに当てられたそれの感覚に、ふるりと震えた身体は、しかし逃げる力もないのか、諦めたのか定かではなかったがそこから動こうとはしない。

「ジャン、オレは子供が出来たらちゃんと責任を取ってお前を番にしてやるから」
「な、にを……、」
「婚前交渉がイヤだとかはもう今更だろ? 既成事実を作っちまえばこっちのモンだし」
「男じゃ、子供は無理だろう」

 震えた声が動揺を表している。まあ流石に、そこまで咎めるほどオレも鬼畜ではない。腰を掴んだまま、ゆっくりとケツの穴に先走りでぬめるちんこを押し付けながら、至極真っ当なジャンの言葉には返さずに剛直を一気に押し入れた。不意の挿入に、がくんと大きく体が跳ねて背が反るのをどこか冷静に見つめる。腰を手形がつくほどに掴み、1ミリたりとも隙間ができないように深くまで繋がっていく。だらだらと血が流れる結合部を指で触り、血を掬いとって舐めると甘ったるいような鉄の味がした。声すら出せない痛みと快楽から救ってやろう、と回復呪文を唱える。薄皮が張り、みるみるうちに回復していくそこの感覚を指で味わった。限界まで引き伸ばされたケツの穴の淵は皺ひとつないのがわかる。
 狭すぎる腸内に押し入り、腹がぼこりと膨らむのを妊娠の予行練習だなんて考えてから、無意識に笑みが浮かぶ。絶頂に浸り、反る身体を無理矢理引き寄せて耳元に唇を寄せて耳朶を啄んだ。それから、低く呪文を囁いていく。挿入の余韻に耽る身体はそれだけでも快感をひろっていた。これがどんなものかなど知らないで絶頂に浸るジャンは愚かで、そこがまた愛おしかった。

「あ、ッか、は……、は、ぁ、〜〜〜〜ッ!?」
「ほうら……見てみろ、どんどんお前の腹に浮かんでくる」

 仄かな柘榴色の光を放つ淫紋。女なら子宮があるであろう下腹部に浮かんでくる、それ。ぐちゅん、と一度ギリギリまで引き抜いてからもう一度深くまで突き入れると、その光が色濃くなる。

「もうこれで、お前はオレの子を孕める体になったっつーワケだ」

 蔦が複雑に絡まり合い、しかし真ん中はぱっくりと何かを誘い込む捕食者のように開かれた、まるで女性器のような淫紋を見下ろして、絶望したような顔をしたジャンの腰をさらに強く掴んで、爪が皮膚を破り血がうっすらと滲むのすら気にせずに抽挿を開始した。

「あ、っあ゛っや、ァっし、ぬッしぬ、くるし、いっ、」
「そんなことがあればすぐに蘇生呪文を唱えてやるって、」

 死、など幾度も経験したものではないか。旅の途中で、血みどろのジャンを蘇生させたことを思い出したが、目の前の淫猥に踊る姿にそんなことは一瞬で忘れてしまう。ロゼ、と紡がれる名前が鼓膜を震わせた。甘ったるい響きは性欲を増長させる媚薬でしかない。
 抜かれて、入れられるたびにぽこぽことへこんだり膨らんだりする腹はどこか滑稽で面白い。ぬちゅぬちゅと響く水音と、ぱんぱんとオレとジャンの肌がぶつかり合う音がそれすらもいやらしくさせていく。

「あッ、ひ、ぃっやら、ァっ、やぁ、」
「お前ってそういう素直じゃないとこあるよな、っと」
「ん、ッんぅ!? あ、っあ、あッ、」

 ごり、と音がしてしまうのではないかと思ってしまうほどに強く前立腺を潰してやる。悩ましく上がる喘ぎ声が耳に心地よい。自分の二の腕あたりにばきばきと片鱗を見せる鱗を視界の端に捕らえて、変化の呪文をそっと唱えてからジャンの首筋に顔を埋めた。尖った八重歯を動脈に突き立てて、その度に怯えからか強ばる身体を揺さぶりながら、まさか本当に肌を突き破ることなぞする訳ないだろうにと心中笑う。小さなことにも反応する身体を面白がって遊ぶオレも中々悪いヤツだ──といっても、魔族の王に君臨しながらそう言うのもおかしな話だが──と思う。

「子供は女のコが良いよな?」
「あ、っあ゛、〜〜ッん、ん、や、あ、ッ!」
「お前に似たら美人になると思うなあ、……ま、沢山子作りすればいい訳だけど」

 いまいち噛み合わない会話にくすりと小さく笑い、程よく筋肉の付いた身体を突き上げる。俺の肩にしがみついて縋るような態勢になっているのがそそる。先程よりも距離が近いせいか、声がより鮮明に耳に届いて目を細めた。

「ん、ッあっあ、っん゛、ッや、!」

 ぐるん、と焦点の合わない瞳が上を向いた。どぷ、と薄くなった精液が身体の間にびちゃりと出される。それが終わって、ぷしゃあと透明の液体が噴き出した。ひとつひとつの挙動すべてが喰らい尽くしてしまいたいほどに愛くるしい。
 程なくして、射精感が込み上げてくる。この精子で、こいつは母親になるのだと考えるだけでぞくぞくした。

「……妃として迎えてやろう」

 とうの昔に理性を飛ばしてしまったのであろう男の耳元に言葉を吹き込んで、どぷどぷと人間より遥かに多い精液を中に注ぎ込んでいく。ナカに出される感覚にふるりと震える身体は雌と言っても差し支えないだろう、と不似合いな雄の象徴を指で弾いた。



 光を増す腹の淫紋に勇者≠ヘ、満足そうに微笑んだ。





Amadeus



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(戸惑えば戸惑うほど、それは愛しているということなの。)
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