「せーんぱい、そんな顔しないで」

 オレ、先輩のそういう顔見たら興奮しちゃうんで、と笑う後輩の顔はあくまでもいつも通りで、逆にそれが恐ろしかった。

「司、お前っ何考えて、や、……やめ、」
「ここまでされてわかんない訳無いっしょ?」

 ぬるぬるとローションにまみれた指が尻の谷間をなぞる。そりゃあ、健全な男子高校生だから性知識のひとつやふたつはあるし、男同士がケツでセックスするということも知っているけれど、今の状況を信じたくなくてわかりきった言葉を吐いてしまう。

「まさかとは思いますけど、先輩って女の子にモテる顔してんのに、童貞とか?」
「……ッ、や、やめろ、ッ……やだ、」

 図星をつかれて、言葉に詰まったところで無理矢理穴を割開いて指が侵入してくる。俺の態度に自分の言葉が本当だということを確信したのか、司が優しくしますからねえ、と小さい子にするように俺の頭を撫でた。年下にそんな扱いをされていることにも、そもそも男に犯されようとしていることが悔しくて涙がこぼれそうになるのを唇を噛んで堪える。

「じゃあさ、先輩は童貞より先に処女を卒業しちゃうわけだ」

 そんな俺を知ってか知らずか、それ、普通に女じゃないですか、と言葉を続けてけらけらと快活に笑った目の前の男の瞳は楽しそうに細められている。そんなに俺は司に嫌われることをしただろうか、と尻からくる不快感に眉を顰めながら考える。ここまでするほど嫌われていた覚えはないし、なんなら昨日だって部活帰りにご飯を食べに行ったのに。

「……ん、……く、ぬけ、ッきもちわる、」
「そーいうのも好きですけど、少しはかわいいコト言ってくれてもいいのに」

 ま、処女だし仕方ないか、とぐちぐちとわざと音を立てて中を掻き回される。内蔵を犯されるような気持ち悪さ。身体に力が入って強ばったのが、がちゃりと鳴った俺の腕に嵌められた手枷の音でわかったらしい司が俺と目を合わせて小さく笑う。プライドが邪魔をして口には出さないが、自分で触らない場所を他人に開拓されて好き勝手に弄ばれるのが怖くて、心臓の動きがどくどくと早まるのが自分でもわかった。

「ひ、……ッい、あ!?」
「あらら、どうしたんですかー先輩?」

 反射的に腰を引こうとする。ぞくぞく、とオナニーをしている時のように腰に甘い快感が走って、わけがわからなくて思わず目を瞑った。可笑しそうに俺に問う司を咎める余裕は無い。何度も同じところを指先に捕えられて、自分のものとは思えない、というよりも思いたくないような高い声が零れる。

「あ、ッ……、ん! つ、ッ……、つかさ、あ、」
「気持ちいいなら、ちゃんと教えてくださいね」

 オレ、先輩には気持ちよくなってもらいたいんで。なんて健気な後輩だろうかと現実逃避をしたくなる。それでも、俺が今縋ることが出来るのも助けを求めることが出来るのも、俺を辱めようとするこの男しかいないのだ。じわりと涙が滲んだのを目敏く気付いた司が、さらにその指を増やして中を掻き回す動きを激しくする。

「ァ、あ、あっ、や、やだぁ、」
「えー、じゃあ気持ちよくないってことですか?」

 最初に触られたところがトリガーだったかのように、気持ち悪かったはずの内壁全てが性感帯のように脳に快楽をぶつけてくる。こんなの嫌だ、と生理的なものか感情的なものかわからない涙がついに零れてしまった。男であることを否定されるような気がして、じわじわと快楽に蕩かされつつある自分が怖い。

「ね、気持ちいいか気持ちよくないかだけ教えてください、先輩」
「きもちよくないッ、から……! あ、ぁッ、ん、く、ぅ……っ、」

 本当は気持ちよくて仕方が無いけれど、認めてしまったらもう戻れなくなってしまいそうで咄嗟に嘘をつく。ふうん、と語尾上がりに言うその口調が俺の嘘を見抜いているのは明らかだったが、形ばかりの拒絶を零すことしか俺にはできなかった。

「ァ……っそれ、だめ、ぇッ!」

 中で暴れていた指を唐突に激しく抜き差しされて、ぐぽぐぽと卑猥な音が自分から漏れるのが恥ずかしくて、それでも快楽に抗えない身体が反応してしまうのは止められない。反射的に足を閉じようとしたところを無理矢理内股を押さえつけられて、それすらも叶わなくなる。入口からその奥の中まで犯されていく感覚に思考が濁っていくようだった。

「先輩、こっち見てください」
「ぅ……、え?」

 中を犯していた指が引き抜かれ、息を整えようと空気を貪っていると楽しそうな声色に意識を引き戻される。

「え……、っ、入らないっ、入らないって!」

 ズボンと下着を下ろした司に腰を抱えられて、尻の谷間や入口にぬるぬると擦り付けられる。それは明らかに平均サイズよりは大きくて、首を振って腰を引こうと力を入れるが指で犯されて力の抜けた身体は簡単に抑え込まれてしまった。にやにやと意地の悪い笑みを浮かべた司が、大丈夫ですよお、と無責任に笑う。

「先っぽだけで良いんで、挿れさせてください」
「うそ、ッそれ、ぁ、あ、あ、だめ……ッ」

 そういうのは、生で挿れたい男の常套句だって聞いたことがある、と言う暇もなく、俺の承諾なしに腰を進めてくる。しかもこいつ、ゴムもしないなんて。避妊はしろって保健の授業で習わなかったのか。いや、妊娠はしないけど、そういう問題ではない。
 明らかに指とは違う質量に、息が上手くできなくなる。ひっと喉がなった。亀頭が無理矢理尻の穴を無理に広げて侵入してこようとしてくるのを止めようとする術はない。

「やァ……ッ! やだ、あっ……う、ん……っ」

 ぐぷ、と亀頭がすっぽりと入っても尚その腰の動きを止めようとしない司を押し退けたいのに、頭上でベッドに拘束された腕は動かない。痛いはずなのに気持ちいい感覚に頭が混乱した。

「やだァ、ッごめ、んっ、あ、あ、ぁッ、あやまる、あやまるからぁ、」
「アンタ、なんも悪いことしてないでしょ?」

 だからさ、何も考えないで善がってなよ。その言葉を合図にするように、ぐちゅんと一番奥まで貫かれて声にならない声が漏れた。目の前がちかちかして、何もわからなくなる。こいつの言葉遣いを注意する余裕はもちろんない。気持ちよくて、訳が分からなくて、意味の無い謝罪の言葉が唇からこぼれ出る。大体、謝って欲しいのはこっちの方なのに。

「ん゛ッ、や、あ、おくッ、それ、いじょうはむり、むりらってぇっ、」
「はは、教えてあげる、ここのヨさ」
「や、ぁ゛ッあ、あ……ッ!?」

 もう気持ちが良くて口が回らなくなる。明らかに入ってはいけないところまで入ってこようとしている司を必死に止めようとしても、へらへらと笑うこの男は動きを止める素振りを微塵も見せない。
 ぐちゅん、と一番奥と思い込んでいた場所より更に奥まで亀頭が嵌る。途端に、今までとは比にならない、人生で初めての快楽の波に意識や思考回路が全て流されていくような気がした。

「S字結腸、って言うんですよ、ここ」
「あ、あぁッ、ッん、う、あ゛……、」

 女で言うポルチオみたいな、アンタもAVでくらい見たことあるでしょ、と休みなくそのS字結腸、という場所を容赦なしに犯されると、もうまともな言葉を紡ぐことなんてできなくて、意味の無い文字ばかりが溢れ出る。

「アンタのことが好きな女の子、たくさんいるのに勿体無いっすね」
「あ、あッう、く……ぁッ、も、らめ、ッらぇ、」

 メスの顔しちゃってさあ、と笑われて尻臀を軽く叩かれる。それすらも気持ちいいなんて、自分の身体がこいつに作り替えられていくのが分かって、もう戻れないような気さえしてきた。何でこんなにも身体が敏感で気持ちがいいのか、俺の何が憎くてこの男は俺をここまで辱めるのかもわからない。何もかもが。

「ん、ひ……ぃ゛ッ、なん、なんかく、ぅッ……!」
「……なに、まさかちんこ触んないでイッちゃうの?」

 少しだけ驚いたような声がどこか遠くに聞こえた。ぱんぱんという腰のリズムが早くなって、荒くなった息遣いに鼓膜が犯される。待って欲しいのに、止まるどころかむしろ早くなる律動に涙で前が見えなくて、意識が飛びそうになるのが怖くて手のひらに爪を立てた。些細な痛みなんて快楽に押し潰されてどこかに消えていく。

「……ッ」
「ぁッ、あ゛……あ、ッん、う、ぁ……は、」

 目の前が比喩ではなく真っ白になり、息ができない、というよりも息の仕方がわからなくなった。司が少し息を詰まらせる。どくどくと、中に精液が吐き出されるのが否が応にもわかってしまう。なのに、その感覚が気持ちいい。1番上まで押し上げられて、その先へ行ってしまったようなふわふわと漂う意識の中、もうこの男に抵抗する気力なんか湧き上がってこなくて。ゆっくりと尿道から押し出される精液の感覚が気持ちよくてたまらない。

「……初めてのアナルセックスでところてんとか、素質があるのを通り越して淫乱じゃん」

 尿道口を親指で擽られても零れるのは甘ったるい嬌声だった。ウブなふりして実はビッチとか?、と問われたのにはかろうじて首をふる。そんな訳が無い。こんな風に犯されたことがあってたまるか。くすくすと笑う司の声に耳が溶かされるような感覚に陥る。

「ほんとに好きだなあ、アンタのこと」
「……え」

 慈しむような手つきで俺の髪を指で梳きながら零された言葉に先程の俺を辱める響きは無く、素っ頓狂な声が漏れた。それを咎めるように小さく腰を揺らされて、鼻にかかった声が溢れ出る。

「まさかオレがアンタを嫌いだから無理やり犯してると思ったワケ?」

 閉じ込めて壊しちゃいたいくらいには好きだよ、──××さん。低くて甘い声で紡がれた俺の名前は、恐ろしいほどに甘美で、まるで禁断の果実のような危うい響きを含んでいた。





Only you



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