「翔……、明日、早いから」
「ん、ごめん……我慢できない」

 獰猛な獣のような、雄の顔をした翔の顔を下から見上げて、形ばかりの拒絶の言葉を零した。それでも、恋人のこんな顔を見せられて平常心でいられるほどオレも貞淑な人間ではない。
 ちゅ、とリップ音を立てて角度を変えながら何度も唇を重ねられる。明らかに発情した瞳と視線がかち合う。舌を吸い上げられて甘ったるい吐息が鼻から抜けた。

「明日、レコーディングだろ」
「……なんでもしてくれるって言ったの、誰だよ」

 ようやく唇を離されて非難がましく──もっとも、その声は情欲に濡れていて説得力など微塵もありはしなかったが──言ってやると、思いの外少し怒ったような声色で帰ってきた言葉に、ぷっと吹き出した。

「なに、お前、昼にお前のデザート取ったこと、まだ怒ってんの」

 可愛いやつ、と首に手を回した。不貞腐れたような表情の翔の唇に、今度は自分からキスをする。
 今日の昼、撮影の合間に差し入れで貰ったシュークリームをこいつがトイレに行っているときに食べてしまったのだ。甘党のこいつはそれを楽しみにしていたらしくて、なんでもするから許してくれ、と謝りはしたけれど。そんな言葉を一々覚えてるなんてとも思ったが、翔は高校の頃から案外執念深いのだということを忘れていた。

「ん……ッふ、……あ、」

 やいのやいのと俺がこいつをからかっている間に、指を尻の谷間まで撫で下ろして来て、不意に入口を指先で擽られて声が漏れた。いつの間にかローションに塗れた指先がぬぷぬぷと悪戯に侵入を繰り返し、思わず腰を揺らす。途端、ずぶりと奥まで指をいれられて高い声が零れた。というか、今日の此奴はやけに早急だ。まあそういう余裕のないところもたまらなく興奮するのだけれど。

「ん、ぁッ……あ、」

 そのままもう一本指を増やされたのがわかる。くぱ、と尻の穴を広げられたのがわかって、やめろと翔の肩を叩いた。冷たい外気が粘膜に触れて、ぞわりと鳥肌が立つ。ひくひくしてる、と言葉をかけられて先程よりも強い力で叩く。もちろん強いと言っても性欲で蕩かされた身体では知れたものだけれど。それもなんだか悔しくて、ばか、と睨んだつもりが翔は満足そうに笑うだけで、余計に腹が立つ。

「ッあっしょ、お……ッ」
「此処触られると、可愛い顔するよね」

 ぐちゅり、と一度内壁を探るように擦られた後に迷いなく触られたのは前立腺で、翔に教えられた快楽に目を細めた。リズミカルにそこを擦られると、それに合わせて漏れる声が翔に遊ばれているようで興奮する。ときどきちんこを扱かれると忘れかけていた男の快楽を思い出させられるような気がして、自分が翔の女に堕とされつつあるのを否応にも自覚してしまう。

「ん……っ」

 ぐっと指を引き抜かれて、ベッドサイドから何かを取り出した翔に視線だけを向けた。錠剤を出す時のような音が聞こえて、頭の中でそれがなにか理解する前にそれを尻の中に押し込まれる。

「なに、……ん」
「ファンからプレゼントされた媚薬だよ、私に使ってください、って」

 そのファンもどうなんだ、ていうか翔はオレの彼氏だしヤリモクの馬鹿女に引っかかったりしねえよって思ったのは置いておいて。中でその錠剤を掴んだらしい翔の指が、前立腺にそれを押し付けてくる。しゅわしゅわと溶けていく感覚がそこから伝わってきて、これもしかしてラムネとかじゃねえのか、と声をかける前に、ぐわっと熱の波のようなものが襲いかかってきて、思わず翔の腕にしがみついた。

「ぁ……ッ、し、しょお……ッやべえ、これ、」

 熱くて堪らない。目の前が眩んでちかちかする。訳の分からない感覚に翔の名前を呼ぶことしか出来なくなった。鼓膜を彼奴の低い笑い声が震わせて、本物なの、これ、とパッケージを手に取る姿にすらそれどころじゃないと怒鳴る気力はない。

「は……ぁ、ッあつ、い……ッ、」
「那智、汗すごいよ」

 額を指先で拭われて、その感覚すらぞわぞわと快感を呼び起こす。錠剤という前立腺とこいつの指を隔てる壁がなくなって、ゆっくりとそこを触られる感覚が指で触られているだけだとは思えないほどに気持ちが良くて、馬鹿みたいに女のような喘ぎ声が口から漏れた。

「あ、ぁッ……く、ぅっ、ん、あ!」
「声抑えようとしないで、って」

 なけなしの意地を張ろうとしたのが裏目に出たのか、強く前立腺を擦られてばちばちと脳の回路がショートを起こしそうになった。不意に鮮明に写ったオレを見下ろす此奴の顔がどうしようもなく欲情しているのがわかってナカが収縮するのが自分でもわかる。だって、ファンの前じゃ僕は家じゃ作曲するかAVを見るかくらいしかすることないんで、なんて人畜無害そうな顔をしておいて、実際のところはメンバーの男を犯しているのだから、興奮しないはずがない。オレしか知らない此奴の顔。

「は……ぁ、うっ、あ、あ、」

 縦横無尽に、遠慮のない指先に犯される。オレのことを知り尽くしたそれがイイところを擦る度に泣きそうになるほど気持ちがよくて、

「ん……我慢できない」

 熱く囁かれた言葉に、オレだって我慢できない、心の中で呟いた。普段はロックなメロディーや優しいメロディーに乗せて、かつ情熱的に歌い上げる程よく低くて、女が子宮に響くと騒ぐのがわかるような声が、オレへの欲望だけを紡ぐだなんて。他のファンがどんなに焦がれても得られないそれをオレが一心に受けているのだということが、たまらなく興奮する。
 首筋に強く吸い付かれて、キスマークをつけられるのすらも気持ちいい。指がぬるりと抜けて、ぽっかりと空いたそこに早く熱いモノをいれてほしくて堪らなくなる。もどかしくて、今すぐに指で掻き回したい衝動を必死に抑えたけれど、かちゃかちゃとベルトのバックルを外す音にすら興奮してしまうのは流石にどうしようもなかった。

「あ……ッばか、じらすなって……」
「……その顔、すっげえ可愛い」

 ぬるりと亀頭を穴に擦り付けられ、無意識に腰を揺らしてしまう。可愛い、なんて普段は言われないしもちろんファンにかっこいいと騒がられる方が気分がいいはずなのに、慈しむような声色に可愛いと言われてちんこを勃起させてしまうのは何故なんだろう、とどこか悔しいような気もする。なんだか、こいつ好みに作り替えられているような気がして。

「あ、ッう、くる、ッ……は、あ、あ、ぁ……っ、」

 予告無しに俺の中へと入り込んできた熱いそれに、まともな言葉を発することも叶わなくなった。手形がついてしまうんじゃないかと思うほど強く腰を掴まれて、強すぎるほどの快楽から逃げ場などなく、身体で受け止める他無くなる。
 ていうかこいつ、ゴムつけてない、と一瞬頭をよぎったが、唐突に一気に亀頭を奥まで押しこまれて頭が真っ白になった。陰毛がケツに当たってんのがわかって、その感覚すらぞわぞわと背筋から微弱な快感を呼び起こす。

「ん、ッあっい、いきなりぃ……っ、」

 ゆっくりなピストンではあるが、気持ちよくないはずもなく。ぎゅっと枕の端を掴んで、体の内側を犯される感覚に耐えようとして、真っ白になるほど力の込められた指先を恋人繋ぎにされて、ダメだよ、と笑われる。明日のレコーディングの曲、ギターソロ多いでしょ、なんて。お前が盛ってきたくせに、とは言えるはずもなく、腰の動きに合わせてちんこを扱かれるともう我慢なんてできなかった。生理的な涙がじわりと滲む。

「あ、あッあ、あ、ッん、」
「ん……好き、那智、」

 低くて甘い声で愛を囁かれる。とてつもない多幸感と快楽に脳みそがどろどろに溶かされていくような気がした。金を払って此奴の声を聞きに来るやつだっているのに、オレが独り占めしているというその事実がひどく興奮した。

「ん……ッ、ぁっ、く、んう……ッ、」

 結合部から漏れでる水音は鼓膜までもを犯してきて、身体が余すことなく犯されていく。

「ま、まっ……あっ、はや、いぃっ、」
「待たない」

 ゆっくりだった腰のリズムが唐突にぱんぱんと早められて、待ってくれと必死で紡いだ言葉は意地悪い声色に封じ込められる。荒くなった翔の息が肌を這っていく感覚がぞくぞくと背筋を駆け上り、オレに覆い被さってきて首筋を噛まれる痛みも全て気持ちよさに変換されていくのがわかった。

「ひ、ッん、んぅ……ッしょお、ッ、」

 背中に手を回して相手の身体をもっと、と引き寄せる。ふわりと香ったのは、オレとお揃いの香水の匂い。少しだけ汗の混じった匂いはライブ後のそれと同じで、いつもオレがどれだけドキドキさせられているのか此奴は気付いてないんだろうとすこしだけ腹が立った。

「ん、ッあ、っ! ま、ッてぇ、ほんとに、ッ!」
「……無理だって、何回、言わせるの、」

 どんどんと絶頂に押し上げられていく感覚に、やめてくれと言葉を発する余裕も剥ぎ取られていく。もうなにもかもが分からなくなりそうになって、自分が自分ではなくなるような感覚に背中に回した手に思わず力が入った。翔の余裕のない声があまりにも色っぽくて、舌の回らない口で必死に好きだと紡ぐ。

「……俺も、すき」
「ぁ……ッだめ、っあ、あ……ッ!」

 尿道を精液が通っていく感覚と、中に翔の精液が吐き出される感覚になにがなんだか訳が分からなくなる。比喩ではなく死ぬほど気持ちよくて、奥へ精液を流し込むように、ゆっくりと小刻みに腰を揺らされるのは絶頂直後の身体には毒になるほどの快楽だった。

「……那智、ちんこ弄らなくてもイける身体になっちゃったの?」
「ば、か……ッうるさい、」

 何度かキスを交わしたあとに、漸く身体を離した翔が悪戯っぽく笑って、額に張り付いた前髪をかき上げながら言ってきた言葉に顔を背けた。かわい、と小さく呟くように言った翔の、中に入ったままのそれが質量を増したのがわかって、引こうとした身体を引き寄せられて甘い声がこぼれる。

「すけべ……ッ、絶倫、ばか、」
「ねえ、余計俺のこと興奮させるってわかって言ってる、それ」

 馬鹿なのはどっちだよ、と普段より少し荒い口調にぞくぞくとえも知れぬ快感が湧き上がるのを感じる。普段は優しくて俺を気遣ったようなセックスをするこの男の本性を垣間見た気がして気分が良くなったので、腰に足を絡ませて上目遣いに見上げてやった。





狼さんに食べられたい



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(戸惑えば戸惑うほど、それは愛しているということなの。)
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