「夜琉」
「会長、……え、と」
「可愛いね、怯えた顔しちゃって……わたしにお仕置きされたいんじゃなかったの?」

 ひらひらと支出と収入の合わない書類を遊ばせて、下に落とす。わたしにかまって欲しいのはわかるけれど、仕事をわざとミスするのはいただけない。だから、少しだけこの子のお望み通りに、躾≠してあげようと思う。

「さて、ちゃんとごめんなさいできるまで、わたしが直々に躾てあげるね、わんちゃん」





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「あ、あ、あ……ッらめ、れすぅ……っ」
「とろとろのお顔、可愛いよ。媚び媚びの、負け犬の顔……」

 豪勢なロココ調のベッドには似つかわしくない裸体。足首と太ももを革のベルトで纏めて、さらに足首同士を鉄のバーでつなぐ。加えて腕を後ろ手に、手首から二の腕までこれも黒革のアームバインダーで戒めてしまえば可愛いわたしの玩具の完成だ。天蓋に隠されたわたしとこの子だけの、秘密の空間。
 舌足らずに形ばかりの拒絶の言葉を吐き出す夜琉の顔はだらしなく快楽に蕩けていて可愛らしい。最初お尻を使おうとしたらびっくりしたのか少しだけ泣きそうになっていたけれど、それでもわたしにされることならなんでも喜んでしまうのだから流石だと思った。わたしの所有物に、相応しい。

「あ、ッあ! かいちょ、お……ッそこ、らめ、ッおかひく、なるぅ、」
「あはは、亀頭こちょこちょされるの好き?」

 片手で竿を握り、もう片方の手で真っ赤な亀頭をこちょこちょとくすぐる。びく、と腰が震えてひときわ高い声が上がった。
 栗色のふわふわの巻き毛が彼のおでこに汗でくっついているのを軽くかきあげる。わたしが手を止めたことで、ここぞとばかりに息を整えようと上下する胸に手を滑らせて乳首を軽く抓る。敏感にされた身体が小さく跳ねた。火照った顔、潤む瞳と小さく空いた口の端から伝う涎。女の子を抱くよりも、わたしに可愛がられる方がこの男にはずっと向いている。

「ねえ、夜琉、女の子とセックスしたりするの? このよわよわなおちんちんで」
「ひ、……ッ!?」
「それに、こんな女の子みたいなおまんこもあるのに」

 声にならないほど気持ちがいいらしい。はくはくとお魚さんみたいに空気を求める口、いつも飄々とした夜琉らしくなくて、でもそれがわたしにとっては酷く愛おしかった。とうにゆるゆるになった尻に指をいれて前立腺をごりごりと強めに擦ってやると、背を反らして抵抗らしくない抵抗をするのも。
 指を引き抜いて、スカートをたくしあげる。真っ黒なペニスバンドは勃起したそれそっくりで、にやつく口元を抑えられはしなかった。コンドームをベッドサイドの棚から取り出し、口で開けるとそれをゆっくりと取り出した。ピンク色の薄いそれを被せていく。それに向けられたうっとりとした視線は確かに夜琉のもので、ほんとうに男とセックスをしたことがないのかと疑ってしまいたくなった。

「これ、リアルじゃない? こんなのでナカを掻き回されたら、どんなに気持ちいいだろうね」
「……は、あ……っ、かいちょお……っ、ほしい、」
「──わたしの名前は?」

 そんな肩書よりも、わたしの名前を呼んで服従を誓うなら、犯してあげる。直接、ね。どうする、と顎を指先で掬い上げて目を合わせた。作り物の性器を真っ赤に熟れた穴に擦り付けて、蕩けた蜂蜜色の瞳を見つめる。

「あやめ、さまぁ……っ、」
「……イイ、ね、それ。たまらない、ぞくぞくしちゃう」

 縋るように向けられた視線。そうして、彼の口から紡がれるわたしの名前はひどく甘美な調べだった。ぬるぬると先っぽに擦りつけながら、入口で遊ばせていたそれをゆっくりと進めていく。あ、あ、と意味にならない声を出して快感に酔う夜琉の顔を見つめながら、足を拘束していたバーを外してベッドの端に放った。
 わたしと同じ位置に彫ったという右肩の、そして同じ柄の──薔薇のタトゥーを指先で縁取るようになぞる。それだけで感じたように身体を震わせた夜琉に、えっちいね、と軽く耳朶を吸い上げた。

「ああ、そういえば、」

 忘れてたけど、これって一応夜琉へのお仕置きだったんだよね、と微笑み、彼の中に馴染むまで待っていたそれを一気に引き抜き、腰を打ち付ける。ぱんぱんとリズム良く腰を揺らし、先程教えこんだ前立腺の快楽を叩き込んでいく。

「ひ、っん、あ、あっあ、あっ、ッの、みそ……ッとけひゃ、うぅ、」
「感じるのもいいけど、ちゃあんとごめんなさいもしようね?」

 ぐちゅ、ぱん、と水音とわたしと夜琉の肌がぶつかる音が響く。下品な喘ぎ声が耳に心地よい。

「なんで夜琉は躾られてるんだっけ?」
「おれ、っ、かいちょお、に……ッ!?」
「違う、わたしの名前を呼べって言ったよね?」
 
 低い声で会長じゃないでしょう、と呟き、尻臀を打ち据える。それだけでナカの物を締め付けて感じているらしい夜琉は、がくがくと体を震わせて視線をふわふわと彷徨わせた。その後に猫撫で声を出して気持ちよすぎて馬鹿になっちゃったのかなあ、と乳首をくすぐり、彼が話すことができるように腰を止めてやる。

「あ、ッく……、おれ、っあやめさまに、おしおき……ッされたくて、わざと、しごと……ッみす、しましたぁ、」
「うん、それって駄目な事だよね? ……だから、ちょっとだけ辛いことしようね」

 時々腰を小さく揺らして否応にも中のそれを実感させながら、必死に言葉を紡ぐ夜琉を見ていると思わず口元が綻ぶ。

「あ、っなに、……!?」

 わたしの髪を結んでいた赤いリボンを解いて、夜琉のおちんちんの根元を少しキツめに蝶々結びにしてやった。戸惑ったようにわたしを見ていた夜琉は、その快楽でどろどろになった頭で漸くわたしのしたことを理解したらしい。

「夜琉がおまんこでイけるようになるまで、……女の子になるまでわたしが躾てあげるからね」
「む、ッり……ぃっ、あ、あ、」

 ちゅう、と勃起した乳首に吸い付き、口の中に含んだそれをピアスの付いた舌先で舐め上げる。無理、と紡ぐその口調は甘ったるくて、無理だなんて嘘でしょうと耳元で笑う。わたしのためなら、なんだってできるくせに。

「タトゥーの次は、わたしとおそろいのピアスでも開けようか? ……わたしが開けてあげてもいいよ」

 犬のように突き出された舌先を指先で撫で、そのまま咥内を指の腹で味わうように犯す。わざとゆっくりと舌を出して唇を舐め、ピアスを見せつけてやる。ニードルでこの舌を貫いて、わたしと同じピアスをつけさせたなら、なんて背徳的で芳しいだろう。

「夜琉の首に合わせた特注の首輪っていうのもいい、ね……ッ」
「ひ、ッんう、あ、っ、あ! あ、ッそこ、きもちい、」

 夜琉の唾液で濡れた指を首筋に滑らせ、そのまま筋肉のついた引き締まった腰を掴んで角度を変えて中を穿った。腹筋のラインに合わせて汗が伝うのがどうしようもなくいやらしい。

「あッ、ん、っらめ、ッらめぇ、でる、っ!」
「残念だねえ、夜琉くんの精子はずうっとここでお留守番だよ」

 固くいきり立ったそれを握って扱きながら、射精するという言葉に思わず笑ってしまった。ぱんぱんに張った睾丸を指先で弄る。夜琉の精子がここでグツグツになっているのだと思うといじらしくて、しかしこのリボンを解く気など毛頭ないので、せめて夜琉が早く女の子になれるように中を突くスピードと力を強める。

「ん゛ッ、あ、あ、おく、ッ! ひ、っん、うっ、なんか、く、るうっ……!」

 切羽詰まったような声がわたしの鼓膜を震わせた。わたしがこの男を支配しているのだと愉悦に口角が上がる。無意識かわたしから逃れようとする身体を抑えつけた。

「……イっちゃいそう?」
「あ、ッおれ、ッおんなのこになっちゃ……ッあ、あ、あ!」

 なんて可愛いんだろう。絶対にもう離してあげない、と心の中で呟いた。たしかに夜琉は男にしては可愛らしい顔立ちをしているけれど、程よく筋肉のついた肢体と股間で滾る性器は明らかに男のそれだ。アンバランスなエロスってこういうことなのかもしれない、と夜琉の瞳から零れる生理的な涙を指先で掬いながら考える。

「あ、ッらめ、ッあ、あ、ッ!」
「夜琉、……いいこ≠セね、ちゃんとわたしの言いつけを守ろうとして、ほんとうに可愛い」

 大きく背をそらせてびくびくと身体を痙攣させる夜琉を見つめながら、腰の動きは止めずに内壁を擦り上げ犯していく。ぐぷりとローションが泡立つほどの律動は夜琉の理性を奪うのには十分すぎたようで、ぐるんと黒目が上を向いた。

「ッ……は、あ゛……ッ」

 媚びるような甘ったるい声より、こういう限界を告げるような野太い声の方が興奮する。
 勢いよくベッドに身体を沈みこませた夜琉の中から、腰を引いて腸液かローションか、いやらしく光を反射するそれのベルトを外す。

「お、れ……っ、いいこっていわれて、しぬほどきもちよかった……、」

 言葉に、思わず口角が上がった。わたしの言葉がトリガーになるほど、この男はわたしが好きで好きでたまらないというその事実が死ぬほど興奮した。肩で息をして酸素を貪るその口を自らの唇で塞ぐ。啄むような軽いキスをひとつ落として、そのまま首筋を舐め下ろし、愛おしいこの男の首筋に噛み付いた。





女王は唇に愉悦を乗せる



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(戸惑えば戸惑うほど、それは愛しているということなの。)
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