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ワタシが属していた実験グループは、研究部門でも特に予算が投下されていたようだ。
データを確認・破壊しているが相当量があって時間が掛かる。その間にNo.696は施設内の廃人とかした子供達に引導を渡す。ワタシが引き起こしたエラーのせいで自我を失った子供が沢山居た。でも、此処にいる子供は外の世界では居てはいけない存在ばかり。自分は生きているくせに、死を強要するなんて、ワタシも大概あの大人達と変わらない。

ワタシの個体標識番号は、ワタシより以前に同じ実験を受けた人間の数を示す。殆どの個体は、精神体を身体から引き剥がす時点で生体反応を失っていた。僅かに生き抜いた個体も××の世界に放り込んだ時点で自我を保てなくなって崩壊。生身の肉体だけが息をしている。

彼の個体標識番号は、彼と同じような種類の実験体の数を示している。
彼の方もまた大概の個体は自我喪失による生命活動の停止。子供の亡骸だけが積み上がっていた。

他の実験グループには、個体そのものの名前とやらがあるらしい。
ワタシの主観としては、超常現象シリーズは個体数が多いから番号を与えられた。ドッキングシリーズは実験自体も実験的であり、短期間・低コストが目標だった為か、親が与えた個体名が使用されている。

そもそと親とはなんだろうか。
此処の施設にいた子供は、親に売られたか孤児院で引き取られた者ばかり。社会的に居なくなったとしても気付かれないような、そんな存在だ。
家族とは守りあっていく血縁的な関係であるというのが世界の認識らしいが、果たして本当にそうなのだろうか。


−−−


「良かった!ちゃんと来てくれたね!!」
「うるさい」
「え!?」

修学旅行初日の集合場所、ワタシは担任のせいで新幹線のホーム。
荷物を抱えたまま茅野が飛び付いてきたので、横に二歩ずれた。ワタシがいた空間に虚しく突っ込む茅野を尻目に、本校者の人間を見回す。
AからDまではグリーン車、Eは一般車両という乗り分けで、本校者時代の知り合いが馬鹿な顔をして乗り込むのを見送った。グリーン車にはたしか電源があったが、そもそもワタシにそれは必要ない。
携帯に充電が有ろうが無かろうが、ワタシには関係ないから。


−−−


本来なら6人で構成される修学旅行の行動班は、ワタシが入ったことにょって7人になった。
班員は、茅野と潮田、赤羽とクラスメイトの3人。名前は知らない。新幹線での場合、席は班ごとに乗るが7人では3人がけ2列でも座席数が足りない。残り1人は副担任である烏間先生や、英語科担任のイリーナ先生の隣に行くことになる。
そして、この場合、それはワタシにこそ相応しいだろう。

「あの、蒼井さん………」
「何?」
「もし良かったらこっち来ない?トランプするんだけど………」
「いい。キミ達だけで楽しんでなよ」

正直に言って、この旅は辛いことばかりだ。
新幹線なんて乗ったことない。そこまで親しくもない人間との外泊も、彼らが持ち寄った娯楽道具でさえ。経験の無いものばかりで、目移りしてしまう。
興味を持つことも“興味(エラー)”をキルすることも、すべてすべて疲れる。
人間らしく振る舞わなければならない時間が増える。新しい環境の中で、××からの声と人間の言葉を区別しなくてはいけない。
そのストレスは既にキャパシティの限界値に近い。既に回路の使用頻度の高さに熱を持ち始めた頭が重く、その為に引き起こされる頭痛が煩わしくて仕方がない。

「………そっか」
「しばらくは話しかけないで」

ワタシの言葉に慎ましやかに頷いてから、髪の長い女子生徒−神崎−が席に戻っていった。
隣りでパソコンを操作する烏間先生がコチラを見た。何か言いたげに見てきたにしては、何も言わずに目線を画面に戻した先生。この人は自らの領域を越えようとしないから楽だ。
すぐ側でやり取りされる××達の言葉を子守唄に瞼を閉じる。

今のワタシには、速やかな脳内安静が必要だった。



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