のっぽちゃんは放っておけない


あぁ、あの岸辺露伴さんって、本当に岸辺露伴先生なんだぁ。なんて思ったのは休日の昼にコンビニで今週のジャンプを立ち読みしていた時だった。
コンビニにしては珍しく少女漫画雑誌を置くこのオーソンで、今日は珍しく少女漫画雑誌がなかったのでジャンプを手に取った次第だ。
こういう時にしかそもそもジャンプ自体を読まないので、基本的にギャグ漫画以外は眺める感じになる。そうしてパラパラ雑誌をめくっていて、あの岸辺露伴先生の漫画を見かけて納得した。
そういえばカフェで漫画の話をしていたな。あれが打ち合わせというものなのか。
雑誌巻末の作者コメントの欄には『先日山登りで可愛い生き物を見つけました。近々家で飼います。』とだけ書いてあった。
野鳥とかって勝手に飼って良いんだろうか。
頭の中で時々山で見かけるリスとか、メジロとかを想像しながらコンビニを出る。
今日は前回岸辺露伴先生の登場でなんとなく解散になってしまった集まりのリベンジをしようということになり、仗助くんの家でみんなでゲームをするのだ。

(あ…………あの特徴的なスタイルは…)

もう殆ど仗助の家につきかけた時に、最近の妙な引きの強さがそうさせるのか、向かいから歩いてきた岸辺露伴に気がついた。
思わず足を止めた自分と同じように相手も足を止める。
立ち止った自分に対しジリジリと距離を詰める彼は通り過ぎていくのかと思いきや、自分の前に体がつきそうなくらい近づいて止まった。


「……アホの仗助はいつの間に家の前にトーテムポールなんて置いたんだ?……至近距離で見られるなんていい機会だ。スケッチしておこう」
「それ…女の子にここまで近づいてわざわざ言うことじゃないと思いますけど…


挨拶でもしておくかと口を開いたと同時に、相手からの先制攻撃がとんできた。
もうなんなんだろうこの人。こんなに人から直接からかわれたことがないから、むしろビックリしてる。
五センチ以上差のある身長で至近距離の彼を見ると、目線は当然彼を上から見下ろす形になる。自分の息がかかってしまいそうなほどの近くにずいずい顔を寄せてきた彼の、長い睫毛に自分の吐息が当たってしまう気がして、慌てて上体を逸らした。


「……先生、何してらっしゃるんですか?」
「君の方こそ何をしてるんだい?休日の昼間にわざわざこのあたりをウロウロして」


わかった。光合成だろう。
と言った彼には自分が何に見えてるんのか……
ため息をつきながら、ここに用事なんです。
とひとさし指を仗助宅に向けると、彼があからさまに顔を歪めた。山で喧嘩していたから、仗助君とは仲は良くないのかな。とは思っていたけれどここまでとは思わなかった。



「………ここはアホの仗助の家だぞ。」
「アホって……はい、まぁ今日は一緒に遊ぶ約束をしてるので」
「はぁ!?馬鹿じゃないのか君は!?」
「馬鹿……って、仗助君は先生が思ってるほど悪い人じゃないですよ」
「………悪い人ね。あんなセンスのかけらもない類猿人と遊んでタノシィのか?どうせ低俗な遊びで時間を無駄にするだけだろ」
「なっ……!別に良いでしょう!仗助は大事な友達なんですから、あんまり悪く言われると流石に怒りますよ!」



自分にしては珍しく声を荒げて露伴先生から視線をそらした。仗助君ちの玄関の前に立ち、インターフォンに指をかけた時に後ろで何かが倒れる音がした。
振り返って道路に倒れこんでいる露伴先生を見て心臓が止まりそうになった


「ちょっと…!?大丈夫なんですか!」
「べ…別に平気だよ。まだちょっと頭が痛むだけさ」
「そんな…でも倒れるなんて大丈夫じゃないですよ?立てますか?…いや、また肩かしますよ。つかまってください」


このまま放っておいて、道で死んでたなんてシャレにならない。人が倒れる瞬間なんて初めて見たから心臓のドキドキがまだ止まらない。
半ば無理矢理彼の腕を肩に回して、支えながら起こしてやると、心なしか露伴先生の頬が赤く、スースーと息が荒い。


「辛いですか?もっと寄りかかっていいんですよ?遠慮しないでください!」
「……………本当にいいのかい?」
「はい!もちろんです!」


途端に重さが増して、首筋に生ぬるい息が当たる。
肩に頭を乗せるようにしているせいか。髪が首に当たってくすぐったいのだ。


「……えっと、家までおくります。それでいいですか?」


幾分か間が空いてから、コクンと頭を揺らしたのを確認して歩き出す。仗助君にはとりあえず、後で連絡を入れて、送ったらすぐにここに戻ってこよう。












こいつ。お花みたいにいい匂いがする。
胸いっぱいに息を吸い込むと、のっぽちゃんが使っているシャンプーだろうか。甘い匂いがしてきて、短い癖にフワフワ柔らかい髪が顔にかかって心地良い。
心なしか自然に息が荒くなってきた。

ここまで仲良くなったのなら、休日に一緒に過ごすのも良いだろと思って、自宅を出たのっぽちゃんを追いかけたのは今朝のことだ。途中コンビニに寄ったのっぽちゃんはジャンプを立ち読みしている。間違いなく僕の漫画を読んだ上に雑誌の巻末コメントまでチェックしている!!これはやっぱり僕の熱烈なファンに違いない。
コンビニの外からでも、陳列棚を超えている頭が移動する様は背伸びしたミーヤキャットみたいだ。夢中で双眼鏡を覗いていると、彼女がコンビニを出て移動し始める。
しばらく行ったところで、向かいから出会って、うちに遊びに来るように誘うというのはどうだろう?
そうしてドキドキしながら彼女を誘おうとしていたのに、のっぽちゃんはアッサリあのアホの仗助と、アホの仗助のクソみたいにチンケな家で遊ぶというじゃないか!
思わず鳥肌が立ったね。でも僕は、ここしばらく見つめていて彼女がやっぱり底抜けにお人好しだって知ってる。
道路で倒れたフリをすれば、彼女はどうしたって放ってはおけないのだ


「………大丈夫ですか?随分息が荒いですけど…」
「大丈夫だ…!気にしないでくれ」


要は結果オーライだ。
なんだかんだ言って彼女と休日を過ごすことに変わりはない。

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