食生活バランスガイド。

承太郎が大学病院に乗り込んできてから一週間。結果として連絡先を交換しあったという事にはなったが、別に今までとお互いに対する態度が大きく変わったという事はなかった。と時雨は思っている
もしも何か変わった事があったとしたら、それは時雨の承太郎に対する緊張が解けてきた事と、承太郎が時雨に割とどうでもいい話をしてくるようになった事だろうか。考えようによっては患者と医師の程よい信頼関係が生まれていると言えなくは無いだろう。
今週の診療もスムーズに終わった。最初に承太郎が診療室の無影灯にぶら下がるエイのぬいぐるみを見た時には一瞬驚いた顔をして、こういうのは持ち物につけるもんだろう。と怪訝そうな顔をしていたが、ゆらゆら揺れるぬいぐるみを指でつつくと、まぁこれも悪く無いか、と呟いた。






何時ものように吸い寄せられるようにコンビニに向かう。
大学病院で感じた疲労感はどうやら疲労感ではなく発熱か何かの予兆だったようで、ここの所ずっと、少しだけ熱い。位の微熱が続いてる。いよいよ産まれると昨日入院した義理のお姉さんと、それについていく兄も流石に生まれ次第仕事に戻るから一週間はゆっくり体を休める時間を作れと、申し訳なさそうにスケジュールを空けてくれた。
時雨には少しだけ自己暗示という特技があって、どこからひねったり怪我をしたり痛む時、目を閉じて集中すると傷口があったかく感じて、早く治ったように感じる。
今回ももちろん何度か自己暗示をかけてみるものの、このぬるま湯に浸かったような微妙な体調の悪化には、あまり意味は無いようだ。
少しはビタミンでも取るかと、棚の一番上に置かれたエナジードリンクに手を伸ばすと、自分が取るよりも先に誰かの手がそれをヒョイっととりあげてしまう
顔を上げると、少し不機嫌そうな承太郎が立っていた。

「相変わらずこんな所ですませてんのか」
「正直…今もこれからも自分のために自炊する元気はないかな…」
「毎日菓子パンばっかり食ってんのはどういう事かと思ったら本当に唯の偏食だったとはね。」
「失礼な。ちゃんとバランスガイドに沿って栄養分は取ってるつもりよ」

安く上がったとして大して美味くもない自炊をするくらいなら、私は頑張って働いてコンビニと外食。最近やって無い中食もやり続けるだろう。
承太郎はやれやれだぜ。と溜息をつくと、時雨の持っていたパンを奪い取り、適当な棚に置くと、しっかりと二の腕を掴まれる。
この一連の流れるような作業には覚えがあるぞ

「あーっ!ちょっと承太郎君!?」
「黙ってついてきな。アンタそろそろまともなもん食わねぇとヤバイぜ」

二の腕をチョイスしたのは振り解くというアクションを起こさせ無いようにするためか。逃す気は無いらしい。体調も相まって途中から完全に無抵抗で引きずられた時雨がたどり着いたのは、空条邸の前だった。

「えっ……とあれれ承太郎君?」

ずんずん中に進んでいく。もしや承太郎君の帰宅に付き合わされただけどか。そんなわけないか。
ガラリと玄関を開けると、ホリィさんの可愛らしい声と、肉じゃがのいい匂いが立ち込めている。思わず喉がなると、エプロンで手を拭きながらやってきたホリィさんは少し驚いた顔をして承太郎を見た後、何かを察したのかニッコリと笑った

「クソみてぇな食生活を送ってやがるから連れてきた。暫く時雨にも何か出してやってくれ」
「はぁーい、時雨先生!上がってください、すぐ準備しますね」

一体何を察したのかるんるんと戻っていく彼女に、すぐに帰りますと言い損ねたが、承太郎はそんなことに構わず、時雨が食事の席に着くまで二の腕をつかんだままだった。







結論からいうと、ものすごく美味しかった。品数しっかりして、あっさりと味つけられた和え物や、よく煮てるのに煮崩れを一切起こしていない肉じゃがは、唾液腺が痛くなるくらい美味しく感じだ。会話は大半がそわそわと嬉しそうなホリィと時雨がしているだけで、承太郎は終始無言で咀嚼していた。

「ご馳走様でした…凄くおいしかったです」
「よかったぁ!時雨先生美味しそうに食べてくれるから、私もうれしくなっちゃった!」
「これがまともな人間の食いもんだって実感したか?」

食後に相撲を見ながらお茶を飲んでいた承太郎が会話にわって入ってくる。ホリィさんは承太郎ったらそんなにママの御飯が美味しいと思っててくれたのね!と嬉しそうに食器を運んでいるが、承太郎には聞こえてい無いようだ

「うん。美味しかった。どこに連れてかれるのかと思ったけど、連れてきてくれてありがとう。なんか元気でたよ」
「そいつはよかった。おいアマ、コイツは見ての通りヤベェ顔色をしてる上に偏食で栄養失調だ。熱もで通しのようだし暫くうちに泊める」
「本当に!賑やかになるわねぇ!時雨先生明日は何食べたい?承太郎は何も言ってくれ無いから少し作りがいがないのよね」

お座敷にお布団敷かなきゃ!と人が増えた事が嬉しいのか、楽しそうに笑うホリィさんに、布団を出すのなら俺がやっておくぜ。と承太郎がまた時雨の二の腕をつかむ。
そのまま引きずられながら、迷惑をかけてしまっているが、嬉しそうなホリィの顔が、その髪色も相まって、幼い頃死んだ母親を思い出させて、明日もここにいたいと思ってしまったのも事実である。

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