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一週間が始まった。弦一郎と共に学校へ到着すると、もうそこは土曜日瀬楽のクラスから帰って来た幸村くんが言っていた“楽しい事”の会場が出来上がっていた。運動場の真ん中辺りでレインコートを着た仁王立ちの瀬楽と一歩後ろで、ニコニコ腹黒笑顔で傘を差して佇む幸村くん達の前には、生憎の雨の中で傘も差さず立っている3人の女子が居た。結構な距離が離れているが私や弦一郎には問題なく瀬楽の声が聞こえていた

「制服から出る場所以外はさぞかし綺麗な青い斑点がついているんでしょうね?」

「…」

「ホントだったら今こんな事になって居なかったとか思っていたの?ばっかじゃない、あたしがどれだけファンクラブの一員として活動して来たか下っ端のあんた達は知らないでしょうけどね」

「…」

「あたしが抜けた後もローテンション組んで班ごとに活動しているならば、次何をあんた達が行うか何て分かり切ってんだよこっちは!!」

「…」

「だってあれ作ったのあたしだし、知っているのは幹部だけだけどね」

「!?」

「それにー、城海達があたしに仕掛ける訳がない!彼女達はあたしの恐ろしさを、一番分かっているからね。伊達にずっと一緒に居てないのよ?天空寺からはどうせ様子見って言われたのにこんな事してるから、彼女達はあんた達を助けない。これも図星でしょ?」

知っていた。瀬楽達ファンクラブ幹部4人は幼馴染とまではいかないけれどもそれに近い存在で、一番互いに分かりあっているから、瀬楽が抜けた危険性に城海、天空寺はいち早く対応した。しかし、そんな事も知らない下っ端ファンクラブは、私と同じ様に瀬楽を虐め様として先週の様に全員返り討ちに遭ったのだ。天空寺が纏めているファンクラブだが、別に彼女はファンクラブメンバーを護る気はない。一回でも自分の意に反する行動を取ったメンバーを助ける様な行動はしない。まぁ、流石に木曜日の時は自分達にも被害が、出ると思い行動した様だが。まぁ、彼女が行動した事は、ファンクラブ幹部がその件に関しては無関係と言う事を周りに伝える事だけ。その他は別に何もしていない。天空寺は実に分かり易い人間である、自分に利益のある者の傍に付く。ファンクラブだってそうだ。学校全体を纏める為に会長職をやっている、先生達からの信頼を得る事だけが彼女の目的。それを知っているのは瀬楽、城海、野山だけだろう。創立者達のみが知っている裏話って所だろう

「あんた達はファンクラブの事をなーんにも知らない。知らないで勝手に参加して、さぞ、正しい事をしているって思ってるんだろうけど…それ違うから。まぁ、ファンクラブがどう言う物なのか知らない時点であんた達には資格はないんだけどね。おっと!これ以上は話してはいけない事だね。それで、どうしたら許して貰えるかって話だけど至極簡単だよ」

「…」

「この場で土下座しろ。そして誓え、今後一切自分達はあたしや斬奈に嫌がらせをしないって、ね。そうしたら許してあげる」

「!?」

「…っ!」

「早くしてよ、出来ないならいいよ?これから毎日。家で昨日の様な地獄が永遠にずっと続くだけだから。この土下座で、あんた達の一生が決まるんだよ?そう考えたら安いでしょ?」

ちょうど登校時間と重なった事もあって、たくさんの野次馬が集まり始めていた。2−Cから天空寺と城海も様子を伺っていた、彼女達は見ているだけで動こうともしない。それは完全に彼女達が、この3人を見放した事を意味している。雨脚が強くなった為、弦一郎に促され玄関へ退避し、瀬楽達へ聞き耳を立てる

「…わ、私達3人は、今後。陸離瀬楽と槇火紫斬奈へ」

「やり直し。テメェ等私達と対等とか思ってんの?“様”ぐらい付けろや」

「…っ!私達3人は今後。陸離瀬楽様と槇火紫斬奈様への嫌がらせを一切しません!!」

「…うーん。まぁ、あたしはOKかな。はい、幸村くんバトンタッチ」

「ありがとう、瀬楽。ようやく俺の番か…」

「!?」ビクッ

「あれ?瀬楽だけで終わるとか思ったの??お前達は俺の教科書を、ボロボロにしたって言う事実があるんだけど?それも全てあれだけで許されるとでも思ったの??」

「ち、違うの幸村くん!あれには訳が…!!」

「“訳”ってあれでしょ?あの教科書が槇火紫さんのかと思ったとか言う奴でしょ?それで俺が納得するとでも?」

「っ!」

いつもよりも低い幸村くんの声は、とても聞きなれない声だった。隣に居る弦一郎の表情が、青くなったのを見て分かった事がある。あぁ、怒りで吹っ切れるとあんな表情になるのか…と。昔も一度だけ今の表情の弦一郎を見た。あの時はそれほど気には留めて居なかったが、そうか、あれはこの表情の幸村くんを見た時なのか。と1人で変な納得をした。遠くに居る弦一郎がこんなんなら、直下でこれを受けている彼女達はさぞ脅えて居るのだろうな。と視線を戻せば、あからさまぐらいにガタガタ と震えているではないか。10月後半の寒さなのかそれとも魔王様の逆鱗に対しての恐怖なのかは分からないが。凄い震え方をしてらっしゃる

「俺、別に怖がらせてはいないんだけど。そのあからさまに恐怖してます って、態度がますますムカつくんだけど。まぁ、時間内からさっさと終わらせようか」

「…」

「本当の土下座ってね、こうやるんだよ」

ベシャ!

「顔を地面に付けるのが本当の土下座。“今日一日このままここで土下座しろ”って朝思ってたんだけど。2限目から雪に変わるって話だから。1限目の間ここで土下座してて、その後学校来ないでね」

そう言い終えた幸村くんは彼女達に見向きもせずに、こちらに向かって歩いて来た。3人は地面に顔を付けたまま放置だ。去り際に瀬楽が一言

「“その後学校来ないでね”って言うのは“転校しろ”って言う意味だからね」

そう言ってやった。満足そうに校庭から玄関に帰還した2人は、とても笑顔で笑っていた。3人は律儀にも言われた通りにしている、普通だったらさっさと帰りそうなものなのに。いや、こっちが普通なのか?分からなくなって来た。結構生徒達には衝撃的な映像となってしまった、今回の土下座事件。そりゃあそうだろう…テニス部部長が校庭で土下座している女子の頭を踏んだ事に衝撃を覚えない人は居ない筈だ


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