短編 | ナノ
――好きです



目の前で湯気でも出そうなくらい真っ赤な顔をして、一生懸命に気持ちを伝えてくれた綱吉くんに胸がときめかないわけがなかった

朝学校に着くと友達に詰め寄られた

「ナマエ、一年生のあの沢田に告られたって本当なの!?」

『う、うん』

自分の席についている私にあまりの剣幕で身を乗り出してくる彼女に自然と身を引きながらも頷く
というより、なんでそのことを知ってるんだろう

「なんて返事したの?まさかOKなんてしてないよね!?」

『え?…したよ?』

「何で!?」

『何でって…』

そんなにおかしいことなのかな
だって綱吉くん、優しいし
恋人になったら大切にしてくれそうなのに

「好きだったの?」

『うん…?』

前から好きだったけど、恋愛とは結び付いていなかった
でも、綱吉くんが好きと言ってくれた時、確かに私はときめいた
嬉しかった
…それに、

『…綱吉くん、真っ赤になって可愛かったんだもん…』

「あんた…可愛いって…」

呆れたと言わんばかりに溜め息をつかれた

「ナマエはほわわんとしてるから、もっと大人な人が似合うと思ってたのに。よりによって年下くんかぁ…」

ブブブ、とポケットの中のケータイが振動した

「沢田?」

『うん。お昼一緒に食べませんかって。えへへ、なんかこういうの嬉しいねぇ』

「……そんな喜んで…いいのかなぁそんな理由で」

『え?』

返事を打つのに気をとられてきちんと聞き取れなかったので聞き返すと、何でもないと言われる
何でもないことはないとおもうけど、まぁいいか
少し考えてから屋上で食べよう、と送ってケータイを閉じる
そろそろ授業が始まる時間だった





屋上へ続く階段も、今日はいつもと違って億劫に感じない
とんとんとん、と軽い足取りで階段をのぼって、重い扉を開ける
途端に強く風が吹き込んできてあわててスカートを押さえ、扉の隙間に身を滑らせる

「ナマエ先輩、こっちです!」

先に来ていた綱吉くんに駆け寄る

『待たせてごめんね綱吉く…きゃあっ』

何もないところなのに転びそうになる
痛いとか危ないとかよりも恥ずかしい、と思った

「ナマエ先輩っ!」

とん、と優しく支えられる

『わ、ごめんね綱吉くんっ!』

慌てて顔をあげると、想像以上の至近距離に綱吉くんの顔があって思わず固まってしまう
見詰めあうような体勢になってしまった

『あ、えと…綱吉くん?』

肩を抱かれたままでどうしようもないので声をかけてみる

「…………あ!すみません、俺っ」

ばっと離れたけれど、何となく気恥ずかしい空気が流れる

『…えっと、お昼、食べよっか』

二人で座ってお弁当をつつきながら他愛ない話をする
少し照れながら、笑顔を浮かべて話す綱吉くんにつられて私も自然と笑顔になった
お弁当を食べ終えると綱吉くんが何やら眉を寄せて百面相していた

『…綱吉くん?』

「…あの、ナマエ先輩」

『うん?』


真剣な眼差しにさらされて何となく背筋を正す
端から見たら変な二人に見えてるかもしれない

「変なこと訊いても、いいですか?」

『うん』

「昨日は俺、舞い上がっちゃって全然考えてなかったんですけど…。ナマエ先輩は、何で俺なんかと付き合ってくれるんですか?」

『へ?』

「だって、先輩人気者ですし俺じゃなくても、好きだって言ってくれるひとなんかいっぱいいたんじゃないかな…って…」

私は人気者なんかじゃないと思うけど、確かに告白されたことは初めてじゃなかった
他の人は断ったのに、どうしてかって言われたら、理由はあるのかもしれないけど自分じゃよくわからないっていうのが本音だった
ただ単に、綱吉くんにときめいたから
なんて言ったら失礼なのかな

「どんな理由でもいいんで教えて欲しいです」

まっすぐな目に見詰められたら、嘘をついたり誤魔化したりするほうがよっぽど失礼なんじゃないかという気がした

『………綱吉くんのことは、本当は恋愛対象としてみてなかったの。でも、告白された時に、ドキドキして。そんなのはじめてだったし、綱吉くんなら好きになれるかな、って…思って…』

段々尻すぼみになっていく
なんだか途端に申し訳なく感じた

『…ご、ごめんね?』

「何で謝るんですか?」

『え?』

「だってナマエ先輩は悪いことなんかしてないじゃないですか。騙したわけでもないですし」

『そう、なのかな…?』

「俺はフラれると思ってたから嫌われてなかったってだけで凄く嬉しかったんです。それに、ドキドキしてくれたんでしょう?」

こくりと頷くと綱吉くんにそっと手を握られた
途端に胸が高鳴る
顔が熱くなっていく

「だったら、ちゃんと好きになってもらえるように、俺…がんばります」

『綱吉くん…』

ふわり、優しく微笑んで
私の手を包む手に力を込めて
綱吉くんは口を開いた

「待っててください、

きっと夢中にさせるから

(トクン、と)
(胸が高鳴ったのは気のせいなんかじゃなくて)
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