*かなり暗め
*名前変換無し







別れ話をした。つい数時間前。
なのに私達はこうして一緒に居て。
まるで何も無かったかのように。

そう、多分、『何も無かった』んだ。
元々始まりは勢い任せだった。
好きと口から出てしまった言葉はもう戻す事は出来なくて。
キスをすればそのまま止められるものなど何も無かった。

そもそも別れ話というのは正しくは無いのかもしれない。
告白をして、キスをして、セックスもしたけれど私達は付き合っていたのかと言えば違うのかもしれない。
それ程までにきっと私達の関係は儚く脆いものだった。


でも。

でも好きだった。

どこがと言われればきっと在り来たりな言葉しか出てこない。
優しかったとか。
子供っぽいところとか。
すぐに拗ねるところ。
すぐに喜ぶところ。
黒い感情をぶつけられる事もその全てが愛おしかった。

この気持ちに嘘は無い。
一過性のものだったなんて思っていない。

この人の近い存在になれていた少しの間、確かに私は幸せを感じていたのだ。



数日前、電話で、友達が良いと言われた。
いつも陽気で人懐っこいように見えて実際のところ何だか壁を感じさせる慈郎が電話という手段を取ったのに妙に納得した覚えがある。
そのとき私は異常に取り乱してしまった。
慈朗には自分の良いところ、綺麗なところしか見せたくないと思っていた筈なのにみっともなく縋りついた。
もしかしたら私はとてもしたたかで、今まで見せなかった醜い部分を見せれば慈朗の心が揺らいでどうにかなると思っていたのかもしれない。
今冷静に考えれば、きっと慈朗はあの時もう既に心を決めていて、私に電話してきたときには手遅れだったのに。

翌日少し冷静になった私は取り敢えず会って話したいとだけ言った。
昨日まではどうにか修復しなければとそれだけしか考えていなかった頭は、もう既に決別の心づもりをしようとしていた。
これ以上自分の心が傷つくのが怖かった。
これ以上慈朗に醜い自分を見せるのが怖かった。
結局自分の全てを見せるのが怖かった時点で私は慈朗に不誠実であったし、成るべくしてなった結果だったんだと思う。


「寒い、ね。」
「うん。」

会って、初めは他愛の無い話をして。
ご飯を食べてから本題に入った。
「気持ちは変わらないよね?」「うん。」「分かった。」
上手く笑えていたと思う。
この間泣き散らかしたせいもあってかなり構えていたような慈朗は、案外あっさり受け入れた私に拍子抜けしたようだった。

その後はふらふらしたり、普通に遊んだ。
その間中、ふとした拍子に感じる慈朗の温もりが辛くて、たまに触れ合う体温が余りに熱過ぎて、その度に波立つ気持ちに気付かないように、気付かれないように、必死だった。

もう諦めた筈なのに浅ましくも何処かでまだ希望を持たずにはいられなかった私はもっと一緒に居たくて終電を逃した。
そこで、前に私が行きたいと言っていた夜景の見える場所に行こうと言ったのは慈朗の方だった。

夜中だからなのかこの冬一番の寒さの厳しい日だったからなのか、デートスポットの筈のそこは思ったよりも全く人が少なかった。
幸せそうなカップルをとてもじゃないが見れる気分ではなった私にとっては好都合だった。

「うっわ、超綺麗だCー。」

雑誌で見たのよりも人から聞いた話よりも夜景は凄かった。
一面、家や商業施設の明かりで煌めいていた。
都心の方のビル群とはまた違う明かり。
煌びやかというよりはどこか温かみを含んだ光に、気付けば私は泣いていた。
感動した訳じゃ無かった。
どうしようもないくらい自分がちっぽけな気がしてきた。
この壮大な景色の中で、私の中に溜まっていく一方だったどす黒い感情が、恥ずかしくなった。
気付きたくなかった堰き止めていた筈の感情が涙と一緒に溢れて止まらない。


好きだった。
好きだった。
今でも好き。
でもどうシュミレーションしても私と慈朗とは上手くいかない。
慈朗に幸せになって欲しい。
それが出来る相手が自分であればいいのに、いや、自分が良い。
でも違うんだ。

諦めきれなくてごめんなさい。
どうしても好きなんだ。
ああ、折角今日一日、上手く笑えてた筈なのに。

幸せになって欲しいのは本心な筈なのに、私が邪魔をしている。


慈朗が何も言わずにぽんぽんとゆっくり叩いてくれている背中がやけに熱かった。


好きになってごめんだなんて、言いたくないよ



end.







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