ろくさんの足袋の話




灰に汚す白の




冬の夕暮れは鹿威し。
先程まで茜色に染まっていた部屋の中は薄暗く、障子の向こうでは通りの店じまいの音が響く。
休みの癖に熱心に書類仕事に勤しんでいた恋人を屯所から半ば無理矢理連れ出し、二人でギャイギャイ言い合いながら昼間だというのに一杯引っ掛けてほろ酔い気分。そのまま日が沈む前に雪崩れ込んだ茶屋。
酔って箍が外れ、何時もと違うご機嫌な様子でクツクツと笑う愛しい身体を、朱色の悪趣味な布団の上に押し倒した。ひんやりとした布団の冷たさから逃げる様に銀時の胸元へ潜り込んで「あったけぇ」と呟かれてしまえば、募るのは愛おしさと欲情。抱き締めて、布団と触れ合い冷えた背中を温めるように、擦る。

「土方…」

外では素直に呼べない名前を万感の想いを込めて囁くと、そっと背に腕が回され土方が銀時を抱き返してくる。可愛い仕草に胸を鷲掴みにされ、悔しくてその細い身体を強く抱きしめ返した。

「銀時、苦しい」
「オメーが可愛い事すっから…」

人に所為にするんじゃねぇよと眉間に寄せる皺すらも可愛くて、銀時は破顔しながらそこに口付ける。擽ったそうに身を捩るけれども、土方は逃げようとしなかった。

久しぶりの土方の非番。
二人で会えたのも久しぶり。
その上、二人っきりの空間。
恥も外聞も意地も全部捨て置いて良い程に、互いに触れられる事が嬉しいのはお互い様だった。

「好きだ…」

小さく絞り出すような声で告げれば、背に回された手がぎゅっと銀時の着流しを掴む。分かってるというように、手を滑らせ項から後頭部への髪を撫でれば、腕の中で土方が気恥ずかしそうに口元を緩めるを感じた。

「抱くよ」

身体を起し、横たわる土方の上で膝立ちのまま、身体を下げる。行き場を失った手を所在無さ気に、自身の胸元でぎゅっと握りしめる姿に笑みを漏らして、黒い着流しの裾を割った。
ふわりと触れる程度に内腿をなぞり、膝裏、脹脛へと指を滑らせると土方の肌が粟立ち皮膚が張り詰めるように強張る。足首まで来たところで、杯を傾けるように足首を手の平で、ゆっくりと持ち上げた。

衣擦れの音がし、持ち上がる足は酒で朱に染まっていて、真っ白な足袋のコントラストに目を奪われる。

「白足袋って…すげぇ、背徳感…」

手の平の上、足指の先に、足袋の上から口付け、指を一本一本確かめるように口で食む。
視線を上げれば、真っ赤に頬を染め、言葉もなく呆然と見つめる土方の顔。
羞恥に満ちたその表情に、背筋を這ったのは間違いなく快感で。

「全部、舐めてやるよ…」

ちゅぱっと吸い上げれば、白足袋に唾液が染み渡り、真っ白なそこを灰色に汚した。
(あぁ、こうやって、俺に全部汚されちまえばいい)
過るのは獰猛な感情。
けれど、優しくしたい気持ちも本当で。

弁解するように

「酷くしたら、ごめんね?」

と、銀時は心の底から嬉しそうに嗤った。





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