懐かしいものが沢山あるんだ
夏の雲とか
冷たい雨とか
秋の風の匂いとか
傘に当たる雨の音とか
銀のマークの原付の
後部シートの振動とか
春の土の柔らかさとか
放課後のひんやりした空気とか
黒板消しの匂いとか
試合前の血が冷えていく感じとか
夕立ちのアスファルトの匂いとか
夜中のコンビニの安心する感じとか
そういうものを
俺はずっと…
一緒に感じていたいって
思っていたんだ
Separation
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土方十四郎はまぁ、腐れ縁と言って良い、俺の幼馴染だった。
家が隣だったことと、同じ年だったこと。
腐れ縁の理由なんてそんなもんだ。隣の家なのだから学校に行くのも帰るのも一緒。
小学校の頃から10年間続けられてきた、当たり前の日常。
高校に入学して、俺は原付の免許を取った。中学より少しだけ遠い学校に通うのに、これは存外便利だった。もちろん原付だから二人乗りなんてご法度だけど、警察の目を掻い潜ってこっそり二人乗りで通学をしていた。
雨が降れば、小さなバス停の屋根の下で原付を停めて、二人で下らない話をする。
俺はジャンプが好きなのに、あいつは水曜日に出るマガジンが好きで…
毎週感想を言い合っては、少し喧嘩もしたりした。
でも、生まれた時から傍に居る存在だから、少しの喧嘩なんかは当たり前すぎて。
次の日には、朝が弱い俺をたたき起こすために、眉間に皺を寄せたあいつが部屋に乗り込んできたりしたんだ。
2039年、火星に向かった探索チームが異星人の遺跡を発見した。
そして探索チームは異星生命により全滅。
現在は、その異星生命タルシアン調査のために国連宇宙軍戦艦リシテア、レダ、ヒマリア、エララの4隻が建造され選抜メンバーが集められていた。
各戦艦にはトレーサーと呼ばれる戦闘機が配備されているらしい。
詳しい事はよく分からなかった。
ただ、自分達が産まれた時代には異星生命との戦いが課されていた。
ただ、それだけの事だった。
選抜メンバーは全世界で1000名以上。
確立で言えば、自分が選ばれるなんて遠い世界の出来事。
同じ高校の生徒の中から選ばれた事すら衝撃だった。
その時は、本当に考えもしなかったんだ。
いつもの放課後の帰り道。
トレーサーの飛ぶ雲の跡が茜色の空にとても綺麗で…
世界はずっと、このまま何事も無く続くのだと思っていた。
「銀時…」
毎日、一緒に帰った帰り道。
呼びなれた名前。
原付の後部座席と横乗りするお前の背中は心地よくて…
このままずっと続けば良いと、本当にそう思っていたんだ。
「俺…あれに乗るんだ…」
視界が真っ白になった。
送り届けた先で、言葉を交わす事もなく俺達は別れた。
もともと、付き合っていた訳でも無い。
けれど、友達と呼ぶには、あまりにも存在が大きすぎた。
言われてみれば土方は頭も良かったし、運動も出来たほうだった。
でもやっぱり…国連軍だなんて、バカみたいな話だ。
その年の冬、土方は地球を後にした。
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