世界 が 変わった訳じゃない


モノクロだった世界が

色鮮やかに見えるとしたら


それは

きっと




今日 貴方が 

もういちど 産まれたからだ









beautiful world 2







「テメー何撮ってやがるっ!」



怒鳴られるなんて経験は、いつぶりだろう。
数年ぶりに押したシャッターと10数年ぶりに聞く自分だけに向けられた本気の怒鳴り声、久しぶりすぎる感覚ばかりで頭がついてこない。
求めていたものは、こんなに傍にあったのに、逃げて逃げて閉じこもっていた自分には全てが眩しすぎる。
こんな風に、自分だけに向けられる強い視線はいつぶりだろうかと、怒りに満ちた顔でズカズカと歩いて来る男を見ながら思い返す。
だが、次に叫ばれた言葉に愕然とする事になる。



「この、ロリコンっ!!!ネガよこしやがれ!」



は?



あまりにあまりな言葉に、銀時は言葉が出ない。
ろりこん?
ろりこんってアレだよね、幼女的なアレに欲情とかしちゃったりするアレだよね?
欲情っていう意味なら、ある意味欲情なのかもしれないけれど、少なくとも、目の前の男は幼女ではない。



「ろりこん?」



俺はろりこんじゃないと思いつつも、あまりにあまりな事態に、口を吐いて出たのは、ありきたりなオウム返しだった。



「…ロリコンじゃねぇのか?てめぇ今、俺の生徒ら撮ってただろう?」


生徒?はて?

彼の周囲に目をやれば、スモッグを着た少年少女(と呼ぶには幼い子供たち)が複数。
ここにきて頭が冷静になってくる。
平日の昼前に児童公園のベンチで寝ながらカメラを構える。
うん、それは変態だな。
構えたカメラの先にあるのが無邪気に遊ぶ幼児たち。
うん、それはロリコンだな。



「あー…いや、うん。状況だけ見るとそうなるよね…」



ブツブツ呟く銀時を訝しげに男が見つめてくる。
いやいや、自分にやましいところは何もない。
仮にネガを現像されたところで、写っているのは、空を見上げる目の前の男だけだ。
いざとなったら、何とでもなるだろうと腹を括り、男を見返す。


「別にあんたの生徒たち?を撮ってた訳じゃないよ」


「じゃあ、何撮ってたんだ」


「あんた」


「は?」


嘘は1つも言っていないのに、訝しげに見つめてくる男の眉間にはより一層皺が寄る。
この世界が美しいのだと
当たり前の日常こそが美しいのだと
笑って
ひのあたる場所で
おどるように
わらって
空を見上げる
その姿が本当に綺麗だったのだと
伝えたいけれど、それを伝えるときっと本当の変質者扱いになるだろうと思い、それ以上の想いを口にする事が出来なかった。
だって、どうしてかは分からないけれど、目の前の彼にそういう嫌悪感のあるような扱いをされたくなかったのだ。




「……本当に、撮ってないんだな?」




気まずそうに、小さな声で聞かれたので思わず「いや、あんたの事は撮ったよ?」と答えてしまう。
「ばかっ…生徒らの事だ」
あぁ、ね。
それは絶対に撮っていない。




「じゃあ、いい」




そう呟くと彼は、ベンチの銀時の 横に 座った ―



「てめーは撮ってないんだな。分かった信じる」



目線を合わせもせずに、無邪気に遊ぶ子供たちを見つめながら、いっそ清々しいまでの潔さで言い切る
その姿に目を奪われる。
ネガを見せろと、募る事も出来たはずだ。
だって、さっき会ったばかりな上に疑念を抱いている相手を、どうしてそこまで真っ白な顔で信じると言い切れるのか。
こいつは、強いのだ。
そして、生き様がまっすぐで美しいのだ。


だから、あんなに自然に指が動いたのかと、理由はストンと胸に落ちてきた。




「ありがと」




信じてくれてありがとう。
信じさせてくれてありがとう。
信じる気持ちを思い出させてくれてありがとう。
もう一度、もう一度、撮る事を許してくれてありがとう。
本当はたくさん、言いたい事があったけれど
初対面の男にそんな事を言われても、気持ち悪いだろうから
口を噤んだ。




ベンチから立ち上がり、『悪かったな』と言い、行ってしまおうとする彼を
引き留めたいのに、言葉が出てこない。
ここで引き留めなきゃ、きっとこれから先、二人の人生が交わることなんてない。



「あ」


そう、笑って振り向く顔に、撃ち抜かれた。



「まぁ…でも、そんな良いカメラで撮られた写真なら、見てみてぇかもな」



青空と、笑った君と、なびく白いシャツと
言葉の意味はちゃんと分かっていたのに



「…別に、そんな良いカメラじゃないよ」


出てくるのは、意地張った天邪鬼な言葉ばかりで
そんな自分が嫌になる。





「ばーか…」





素直じゃないな・と言われているのが分かるほどの笑顔。
その後に続く、小さな言葉に



『大事なんだろ、そのカメラ』



そうだ。
大事だった。


あの最後の あの日の ネガが入った ままの カメラ。


捨てる事も壊す事も出来ず
逃げているのに、手放せもせずに
ただ、傷を磨き、抱きしめて眠る事しか出来なった
大事すぎたのだ

過去の傷も
過去の自分も
あの場所も
全てが



捨てられないなら、抱えて走るしかないのに
抱えたまま 走れなくなっていた


でも、きっとそんなものどうでもよかったのだ



大事で、大好きで

素直に そう言えばよかったんだ










「じゃあさっ…!写真!見せに行くからっ!」









「だから、連絡先教えてよ」











繋がった線を切りたくないから、思わず叫んでいた。
キョトンとした顔も可愛いかもなんて、きっと頭が腐ってる証拠だ。
今度こそ間違えない。
琴線に触れた全てを 拾い集めて

もう一度、笑うんだ



そして

今度こそ


忘れ物を取りに行くんだ

















もういちど うまれなおして

ただ しあわせだと

わらえるなら







next.....


水=なきゃ死ぬ。
カメラマン坂田にとってカメラ=水。写真を撮る=水。
だから撮れなくなってもカメラを手放せなかった。
頭で考えるより、素直な身体で動けば良いんだよ。

っていうか、書いてたら十四郎が何故か保育園の先生になってた件について。
何故なんだぜ?

いつか続き書きたいです…




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