好きと言えない 絡み合う視線は
確かに そこにあるのに
ただ その一言が言えない
本当は
二人とも
分かっていたはずなのに
happy end.
━━━━━━━━━━━━━
弥生。
桜の頃。
学ランを着る最後の日に。
最期の日に。
「…坂田先生」
普段の「銀八」と呼ぶ その声と違う響きに 銀八は足を止める。
眠た気な目のままで振り返ると、土方が立っていた。
学ランの前ボタンの多くは無くなり、腕には多くの花束を抱えている。
「それは、ちょっと…凄いな」
少女漫画にでも出てきそうなモテ具合。
在学中から彼を想う女子生徒は多かったようだが、表立って動けなかった分、この最後の日に押し寄せてきたのだろう。
「まぁ、今日が最後ですから…」
今更な敬語。
それを指摘する事も、咎める事もしない。
『ちゃんと名前で呼べよ』と睦言で告げたのは、いつだっただろう。
あぁ、あれは2年の春だったと銀八は一人思い出す。
3年。
15の少年が18の青年になる、一番鮮やかな時期。
その四季折々の彼の姿と、重ねた二人の時間。
それも全て今日が最後。
決めていた訳では無い。
約束もしていない。
それでも、分かりすぎる二人だからこそ。
互いに何も言えやしなかった。
この3年。
くだらない事で喧嘩し、笑い合い、泣いて、時には本当に罵倒し憎んだ事もあった。
最後のほうは互いが互いを想うだけでは済まなく、この恋を逃がさなければ 互いを本当に壊してしまう。
そんな気がしていた。
3年の夏、受験まで距離を置いたほうが良いと言ったのは、どちらからだったのか。
距離を置いても心は離れる事はない。
そう分かっていた。
心は離れなかった。
ただ、その距離が戻る事が無かっただけだ。
「3年間、お前は真面目でこんなあほみたいな担任の俺には 出来すぎた生徒だったよ…土方君」
強く風が吹き、互いに目を顰めながら見つめ合う。
舞い散る桜吹雪の中で
笑ったのか、それとも泣いていたのか 記憶を辿っても思いだせない。
伝えたかったはずのことばは、言葉にならず
「3年間、お世話になりました」
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
10年前の、あの日の事を今、鮮明に思い出す。
相変わらずな銀髪と、眠た気な目。
少し目じりに皺が出てきたと感じるのは重ねた年の所為だろう。
「土方くん、ひさしぶり」
「坂田先生、お久しぶりです」
黒い礼服姿の土方と、白い礼服姿の銀八。
視線を絡ませるのが、気恥ずかしい。
まさか、自分の勤め先の部下の女性が、銀八と結婚するなんて思いもしなかった。
ぜひ出席して下さいと渡された、招待状にあった名前に、どれだけ驚いた事か。
痛む胸が無いのは、ただ素直に「あぁ、幸せでいてくれているのだ」と安堵したからだ。
自分の指にも光る、プラチナのリング。
10年は短いようで長い。
思い出は風化しないし、記憶は消える事はないし、想いは色あせない。
けれど、それでも大事なものが増えた。
きっと今の自分はとても幸せで、それをお互いに分かっているからこそ
こうやって、はにかむように笑うながら向き合えるのだろう。
「銀八!――ちゃんが呼んでるって」
友人が呼ぶ声に「今いく!」と答えて、銀八が土方に向き合う。
二人だけに聴こえるだけの小さな声で。
「十四郎、会えてうれしかった」
10年前のあの日に呼ぶ事をやめた呼び方。
意外なその呟きに一瞬の瞠目と、喜び。
「ぎんぱち」
懐かしい呼び方で土方が笑う。
「俺、本当にあんたの事が好きだったよ」
今でも
今でもきっと
否
これからもきっと
ずっとずっと好きで 忘れられなくて
想い想われ続けるのだと思う
「あぁ、知ってるよ。俺もだ」
大好きで
大事で
本当は唯一で
分かっているようで
分かっていない
触れ合う事もないけれど
ただただ、幸せにと願う
幸せにね、笑っていてね
そんな想いを何度も繰り返して
終わりは無い
━━━━━━━━━━━━━━━━━
一部歌詞拝借:
歌詞⇒http://music.goo.ne.jp/lyric/LYRUTND28075/index.html
曲⇒http://www.youtube.com/watch?v=gDZSeyKGO7Y
誰かに依存して生きていかないと辛い時もあるし
誰でも良い訳じゃないけれど、絶対にあなたじゃないと駄目な訳でもない
人生を歩むっていうのは、きっとそういうこと。
でも、本当に唯一で大好きで、きっとこれからも大好きなんだと思う。
ただ、想うだけの愛もある。
幸せにね、笑っていてね
そんな想いを何度も繰り返して
またいつか 久しぶり と笑い合えると良いね。
笑った顔を見ると きっと 攫いたくなって 困るよね。
だから 遠くから 見ていることにするよ
そんなかんじの ぱっつちSSでした。
←
TOP