☆リクエストもの


 台風が近付いていると、ニュースや新聞で大騒ぎしていた。嫌だな、吹雪士朗は曇ってきた空を見上げ、回ってきたボールをつま先で軽く、蹴りあげた。



 ◎⇒


 しまった。
 教室に忘れ物をした。吹雪は部室で着替えた後、廊下を走らない、という貼り紙を通り過ぎ、教室へとたどり着いた。誰もいない暗い教室が不気味な中、机の中からノートを取り出し鞄へとしまった。さあ、急いで帰ろうか。いつ雨が降りだすか分からないからね。

 廊下を出ると、豪炎寺が向こうから歩いてきた。あれ、豪炎寺君も忘れ物?ひらひらと手をふり、彼に近づく。そこで、外から何かのうめき声のような風の音がし、立ち止まる。

 ゴオオと凄い風が吹き、窓を叩く音がした。その強風が、どこか雪崩に似ていて、吹雪は頭をかかえしゃがみこみ、ガタガタと震えだした。豪炎寺は素早く吹雪の肩をつかみ、大丈夫だ、と連呼した。

「嫌だ、雪崩が、雪崩がっ!」

「雪崩じゃない、大丈夫だ」

「ひ、一人ぼっちは嫌だっ」

「一人じゃない、今は俺がいる」

 だから、安心しろ。
 ゆっくりと顔を上げ、彼を見ると、真っ直ぐな瞳で頷いてくれた。落ち着いてきたが、風がふくたび、反射的に体がびくついた。ごめんね、と謝り立ち上がると、彼はしゃがみこみ、後ろに向かって、吹雪に向かって手を伸ばしてきた。

「な、なに?」

「おぶってやる」

「え、いいよ!大丈夫…」

「いいから、乗れ」

「・・・・・・・」

 吹雪は言われるがままに豪炎寺の背中に頼った。おんぶなんて、久しぶりにされた。温かい背中に安心しながら、目を閉じた。一人じゃないんだね、とそう感じたとき、自然と涙が流れ出た。

「豪炎寺くん、」

「・・・・・・・」

「ありがと、」

「・・・・・・ああ」



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