☆曖昧模糊
レストランは女性の方が大半ですが、男性の方も来られます。 男女、といったカップルで。 「私のことが嫌いになったの?」 サトシとアイリスとの旅も終わって、僕は再びレストランに戻ってきた。 「ねえ、聞いてるの? 私の話し。また違うこと考えてるでしょ」 戻って来てから、僕は仕事に集中出来ていない。ジムリーダーは降りた為、気が抜けているといえばそうかもしれない。 「こんなにも夢中にさせといて、恋人になろうって言ったら態度が変わる。本当、噂通りの人ね」 ポッドとコーンには、心配ばかりさせて。 迷惑ばかり、かけている。 集中しなければ、と分かってはいるのだけれど、彼女のことを思い出す。 「さようなら!」 テーブルを叩く音が店内に響いた。 ハッとデントが顔を上げた。 男女のカップルが口論を始め、他のお客様がざわめく。 いけない、会話は聞こえていたのに……。 けれど、女性の方はそのまま出て行ってしまった。
「デント、最近どうしたんだ?」 休憩室、ポッドが入って来た。 「……駄目だね、しっかりしないとって分かってはいるんだけど」 「では、コーンたちに話してはくれませんか?」 ポッドに続き、コーンも入って来た。 二人は休憩室にある椅子に座り、デントにも座るように合図する。 「…………サトシたちと旅をして、コーンやポッドといるみたいに楽しかった。それに、さよならではないってことはヒカリって子のおかげで知っていたんだ。だから、寂しくなったら会いに行けば良いって」 「会いたくなったんですね?」とコーン。 「会いに行けば良いんじゃねえの?」とポッド。 「……一週間前に、行ったんだ。……でも、また会いたくなっちゃってて」 「だから、会えば良いだろ?」首を傾げるポッド。 「ああ、えっと。毎日、会いたくなるんだ」 「毎日、ですか」 「うん。仕事中も集中できないくらいあの子のことばかり、」 「あの子、ですか?」 「あの子、だけか?」 「……あれ? そうだよね。……おかしいな、どうしてアイリスのことばかり」 アイリス! と二人が声を上げて身を乗り出した。 どうしたんだろうか。僕は分からないことばかりで、目を合わせて頷き合う二人に口を歪めていると、店の扉が開く音がした。 カランカラン、と鈴の音。 誰だろう、店は営業終了したというのに。 椅子から立ち上がり、店内へと向かった。
明かりも点いていない。静かな店内。 そこに立っていたのは、 「…………アイリス?」 なんと、会いたかった彼女だった。 「デント! 遊びに来ちゃった。三日間はサンヨウシティにいるから、よろしくね」 愛嬌笑いするアイリス。 遠いところから来てくれるなんて、しかも、三日間も会えるんだ。嬉しいな。 荷物があるってことは、泊まるところは今から決めるんだね? 一緒に探させてよ。いや、その前に、 「よく来たねアイリス。何か食べるかい?」 「良いの? 久しぶりにデントの料理が食べたかったのよね!」 「嬉しいな。待ってて、直ぐに作るから」 アイリスを席に座らせて、荷物を預かった。店内に明かりをつけ、アイリスを見る。確かに居る。アイリスが居る。 ああ、体がふわふわと軽い。 ほくほくと温もりに満たされた気分で厨房へ向かう。 すると、ポッドとコーンが方笑みを浮かべて見ていた。 え、なに。どうしたのその顔。 僕は二人の表情が、どういう意味でなのか、このときは分からなかった。
離れていると落ち着かない。 惹かれ合う男女の話し。 130103
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