☆まだまだ子供のあたしたち

 
 
 突然ですが、アイリスが泣きそうです。

 心配するキバゴやカイリューにピカチュウたち。
 けれど、大丈夫だから、と笑ったアイリスは泣こうとしない。

「……なあ、デント」
「なに? サトシ」
 ポケモンたちを撫でているアイリスを見ながら、サトシが腕を組む。
「泣いても良い奴が泣かない場合は、どうしたら良いんだろうな?」
「別に無理に泣かせることはないと思うよサトシ」
 そうサトシの隣でデントが答える。目線はアイリスに向けたまま顎に指を持ってくる。
「でも、そうだね。たまにはセンチメンタルにならないと、体が泣くことを忘れちゃうんじゃないかな」
 どうしてくれようか、と二人がアイリスを見続ける。

「よし、とりあえず泣かせれば良いんだな!」
 肩に力の入ったサトシが一歩踏み出す。
 ちょっとちょっと、そんな力んで何するつもりだい? デントがサトシを止めた。あまりにも食って掛かる勢いだったため、思わず、女の子に駄目だよその態度は! 深呼吸しなさい、と説教を始めそうになった。
「なんだよ、デント! 泣かないアイツがいけないんだろ? だったらさぁ」
「それだと、元々のベースとは関係のない涙を流すことになるだけだよ。もっとソフトに! ハートフルなテイストで接しないと……。そう、元気付けるくらいが丁度良いんじゃないかな。泣いて笑う方がすっきりするだろ?」
「そうか! さすがデントだぜ!」
「そうと決まったら、僕はアイリスの好きそうなデザートでも作ろうかな」
「好きな……あ、デント! 串刺しだ!」
「え? 串刺しって、木の実の?」
「アイリスが元気でる食いもんってアレだろ?」
「うん、良いね。じゃあ、木の実を探しに行かないと」
 早く食べさせてあげよう、二人が行動を開始しようとした、そのとき、
「どうしたの? 二人とも何処か行くの?」
 アイリスが二人の間に割り込んできた。
「ああ、今からアイリスの好きな木の実を探しに行くんだ!」
「おい、サトシ!」
「あたしの好きな?」
 特に秘密にしていたわけではないが、サトシは失敗したと言いたげに舌を出す。
 デントは軽く息を吐き、アイリスは座って待っててよ、と笑顔で誘導する。
「え、ちょっと! ねえ、なんであたしのために木の実を探しに行くの?」
 切り倒された木に座りながらアイリスが聞く。
 サトシとデントは互いの顔を見合わせたあと、
「アイリスに泣いて笑ってほしいから」と同時に同じことを言った。


 さっさと木の実探しに行ってしまった二人。
 残されたアイリスとアイリスの手持ちポケモンたちは、しーんとして何もせず森の中を見ていた。
「……こ、子供なんだから」
 ぽつり、とアイリスが呟く。
「勝手に決めたりして。あたし一人にして。木の実ならあたしの方が探すの上手いのに、ほんっっと子供! なんで泣かなくちゃいけないのよ。そのあと笑えって、無茶苦茶にも程が…………」
 アイリスの周りに集まるキバゴたち。
 ぎゅっと握られた褐色の拳に涙がぱたぱたと落ちる。
 眉は開いて、泣いている自身に唖然とする。
「あ、れ? あれれ? おかしいな、ごめんね皆、大丈夫だから……目にゴミでも入っちゃったかな」
 ぐしぐしと手で涙をふくアイリス。しかし、カイリューがその手を止めた。アイリスがゆっくりと顔を上げると、首を横に軽く振るカイリュー。
 キバゴやドリュウズにエモンガもまた、アイリスの手に触れ、何かをそれぞれが言っている。
 再び涙を絞らせ、アイリスは声を出して泣き出した。
 口を開けて、大きく開けて、目は閉じているのに涙は流れていった。

 やがて、戻ってきたサトシとデントは、赤くなったアイリスの目を見て慌てた。デントが直ぐに冷やすように、とサトシに濡れたタオルを手渡す。氷タイプのポケモンがいないから何度もタオルを濡らさなくてはいけなくて、サトシが一生懸命にタオルを絞ってはアイリスの瞼に恐る恐るとあてる。
 離れたところでは、デントが串に洗った木の実をぶっ刺し、こんなもんかな? と首を傾げていた。そんな二人が可笑しくて、優しくて、アイリスは含み笑いでは我慢できず、大声で笑った。
 目を丸くさせるサトシとデントだが、そのうち一緒に笑い出したという。



(泣いて笑ったらお腹が空いた)
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