☆キスから始まる両思い
あるホテルに泊まったサトシたち一行。 寝間着に着替え、とっとと寝てしまったサトシをアイリスとデントが見て笑う。 ベットは三つに並んでいて、左からデント、アイリス、サトシとなっている。真ん中のベットに座るアイリスは、既に布団に入っているキバゴが寝ているのを確認して、一日の疲れを消すかのように背伸びをした。 隣のベットにデントはいない。 デントはテーブルの前に立ち、紅茶を飲みながら本を開いていた。 黙ったまま、アイリスはその姿を見つめる。 「……キバゴも寝たのかい?」 「うん。デントは? まだ寝ないの?」 「最新刊のミステリー小説なんだ。切りが良いところで止めるよ」 今日、大きな本屋に行った。そのときにデントは本を買っていた。 ミステリー小説とは、デントらしいといえばデントらしい。 他にも買いたそうにしていたが、荷物になるからと諦めていた。 たった一冊、買った本に夢中になっているデントは、何処か笑っている様子で、アイリスは心嬉しい温もりに満たされる。子供っぽいのに、デントが楽しいとアイリスも楽しい気持ちになった。 (ゆったりとした気分のせいか、眠くなってきたのに……まだデントを眺めていたいなんて)
「デント。本を読むなら座って読んだら?」 「ああ、そうだね」 紅茶を飲み、本は手放さず、読んだまま端っこのベットへと歩をゆっくりと進める。 とっととベットへ行け、とアイリスは口に出さずに思った。 「あたしも寝るわね」 まだベットにつかず、本のページをめくるデントに言うと、やっと本から目を離した。 ほとんどアイリスのすぐ傍に立っている。 「電気はもう少し点けてても良いかい?」 「サトシたちも気にしていないし、全然大丈夫よ」 寝る前に喉を潤せておこう。 鞄からペットボトルを取り出そうと立ち上がる。 近くなったことがいけなかったのか、雰囲気に酔ってしまったのか、デントの顔が近いことが危険だったのかは分からない。当然だと思い、目を閉じたのが原因だったかもしれない。 おやすみ、と唇にキスされた。 「…………、」 「…………、」 アイリスもデントも違和感なく、無意識にした行動だった。けれど、二人は恋人同士ではない。なのに、キスをした。挨拶だと言い訳したとしても、キスはキス。 一考を要する事態となった。 (ど、どういうこと!? いま、あたし、デントとキスを……!!) 鼻が近い。固まったまま見つめ合う二人。 好き、と告白するべきだろうか。アイリスが沈黙に困っていると、デントの眼差しが真剣になった。 沈黙からデントが動く。 軽いリップ音がし、離れて見つめ合ってから再び重なった唇は、アイリスを戸惑わせるばかり。 いろいろ聞きたいことや言いたいことがあるのに、デントのキスに夢中になっていく。 優しくて、唇だけではなく、額や頬に手の温もりと共に唇が触れる。 「んむっ。……デント、くすぐった、」 そのまま眠ってしまいそうになる。とろりと溶けていく感覚。 想いが全部、キスで伝わっていると思うと震えていた。 戸惑って、気持ち良くて、夢中になって、もっともっとと。 そして、気が付かなかったが、デントが持っていた本は床に落ちていた。
(抵抗がないから、止まらないんだけど……良いの? アイリス。まだ触れていても良いかい?) 121230
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