☆ドレスなんて破って逃避行するわ!

唇蝕様にて言葉を借りました。
[じゃじゃ馬姫とお伽話の世界で7題]にて


 急なお話しですが、あたしに婚約者がいたようです。ええ、全然知りませんでした。オババ様からもそんな話し聞いていなかったし。でも、目の前にいる高貴な少年は言ったの。あたし達は婚約者だ、って。
 サトシもデントもあたしも声を上げて驚く。
 信じられない、言っている間に、あたしとキバゴはリムジンに乗せられてサトシたちから引き離された。これって誘拐じゃないの!?

 ようこそアイリス様。黒と白の服に包まれた人たちが頭を下げる。
 無理やり連れて来られて、無理やりフリフリとしたドレスを着せられて、生地の気持ちいいソファに座らせられて、キバゴは膝の上に抱っこさせるよう説教されて……あたしが怒らないとでも?
 高貴な少年は横に座り、そっとあたしの手をとって握る。
 ソウリュウ学園にて出会っている、そう言う高貴な少年。そこで出会い、けれど関わらないまま成長し、噂でシャガさんとあたしがバトルしたこと、その他の噂を聞いて、婚約したいと思ったとか。なんだ、良かった。婚約したんじゃなくて、したいのほうね。安心した。
 だったら、あたしが此処にいる必要はないじゃない。
 もう返事は決まったも同然。お断りよ。

 あたし、仲間のところへ帰らなきゃ。そう言うと、高貴な少年は苛立った表情で、ドラゴンマスターになりたいなら、あの二人とは縁を切るべきだと言う。男と旅だなんて、才能が消える、そう言った少年に、あたしは違うと否定した。
 サトシとデントを悪く言うなんて。ううん、そうやって自分自身のことしか考えていないなんて、ほんっと子供ね。見てみなさいよあたしを。サトシとデントと旅をして、あたしは見付けたものがたくさんあるんだから。
 こんな服、あたしには必要ない。
 少年は出て行こうとするあたしを止めようと、ドレスを掴む。あんな奴ら、足手まといになるだけだ、そう叫んで。
「っっサトシとデントを悪く言わないで!」
 びりいい、と布が破けていく音。
 糸が足をくすぐろうと気にせず、部屋を出て行く。
 あーあ、この服、きっと高いだろうな。
 でも、関係ない。キバゴもそう思うでしょ?
 サトシとデントが待ってる。そのためなら、借金しても指名手配されたって、何度でも、ドレスなんて破って逃避行するわ!



(そんなもの着て収まる女じゃないのよ!)
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