バラ(立花宗茂)











※裏







「もし、お武家様」






花薫る、色街。


人々の欲望が集まるそこは、汚らわしくも煌びやかで。


ひとときの夢を求めて、日々たくさんの人が現れては何処かへ消えてゆく。


そこにはたくさんの艶やかな女達がおり、男達は甘味に集る蟻のようにそれらに群がる。



しかし、此処はそんなところではない。

血が迸る、戦場だ。


なのに、ぽつんと一人の艶やかな女が荒れ果てた大地の上にたたずんでいた。



「お武家様、私を買っておくれ」

「君は、御陣女郎か」

「ええ。花街の娘どもとは違いますが、こうして戦があると女郎として働いております。第一私には帰る廓がございませぬゆえ」

「ひとりで此処へか」

「ええ・・・・・・さ、あとのお喋りは私を買ってからにしてもらいましょう。どうです?お武家様、私を買ってはくれませんか?」

「ふ、良いだろう」



どういうわけか、彼女の艶やかな着物にも、持っている唐傘にも血どころか埃ひとつ付着していなかった。


多少は疑問に思ったが、戦場に現れる御陣女郎だ、きっと護身術や逃れるための術を身につけているのかもしれない、と男はたいして気に留めなかった。



「お武家様、私は燐にございます」

「俺は、高橋宗茂だ」

「宗茂さん、よしなに」



彼女の瞳を見つめ武家の男もとい宗茂は、女郎の手をとった。

飲み込まれてしまいそうな己の欲望に笑みを浮かべながら。


宗茂に手を引かれながら、とんだ上客を見つけたもんだと燐は隠れて笑みを浮かべた。



「すまないな、陣中に余計なものは持って来られないんだ」

「構いませぬよ、十分です」



連れてこられた先は、おそらく本陣であろう野営地。


戦の合間の野営にもかかわらず、廃寺に連れてこられたことに燐は、この者は高橋家の子だと確信を得た。たしか立花のところに婿になるとかならないとか。

今までの客は雑魚寝は勿論、野宿であったから足軽や一般兵だったんだろう。



「おいで、俺以外に人はいない」

「では、失礼いたします」



廃寺を利用させてもらったんだろう、多少は痛んでいるが雨風は凌げるし、いやな話だが行為に及んでも周りに聞かれる心配もない。


燐は心のどこかでほっとした。この仕事上、こそこそと行為に及んだこともあるし、集団の接待をさせられたこともある。


お金をもらえる以上あまり文句は言えないが、やはり見られたり聞かれたりして気分がいいものではない。

そういう趣向があれば別だが、生憎燐はそのような趣向は持ち合わせていなかった。



「もしかしたら罰当たりなのかもしれないな」

「寺ですものね、どうでしょう」


宗茂は強引に引き寄せ、燐の胸元をはだけさせた。

艶やかな着物を肩から落とすと白く豊満な胸がこぼれてきて、宗茂は自分の奥に熱を帯びるのを感じた。



「、性急」

「すまないな、余裕がない」


どの口が言うんだ、と燐は心の中でごちた。

余裕がないと言っているものの、宗茂の表情はいたって涼しげなのである。

欲望に満ちた男の顔、というよりはさっきから変わらず飄々とした顔のまま。



「ねえ、私って魅力ない?」

「そんなことないさ」

「もっと貴方の欲望を孕んだ顔が見たいわ」


撫でるような声で燐が誘うと、一瞬考えたような顔をした宗茂。

その顔に首を傾げていると、途端太ももに熱いものが触れた。


「っあ」

「これでもそんなことが言えるか?」

「・・・熱い、素敵」


燐の着物から伸びた細くしなやかな足に押し付けられる熱い欲望の塊。

とても大きく熱い其れに、燐は満足そうに息を吐いた。



「とても君に欲情しているさ」

「ふふ、嬉しい」


視線が混じり合ったと思うと、どちらからともなく唇が触れあった。

とろりと溶けてしまいそうな深い口付けに燐は口角をあげると、お返しとばかりに舌を深く絡めた。

絡め合う其処からは、くちゅりと卑猥な水音と共に掬いきれなかった唾液が零れた。



「激しいのですね」

「君があまりに俺を煽るから」



たまらないな、


宗茂のその呟きは衣擦れの音にかき消された。


流れるように細く白い腹を撫でると、燐はくすぐったそうに身を捩る。


「ふふ」

「くすぐったいか」

「ええ、とっても」

「欲が掻き立てられるな」

「どうぞお好きに」


きっとこの男は大金をくれるだろうから、少しは好きにさせてやろう。

それに女の扱いにも長けているようだから、手荒な真似などはきっとしない。


もしされたら引き裂いてやろう、その間に逃げ出せばいい。



「君も随分性急だな」

「うふふ、待ち遠しくって」


宗茂が下へと手を伸ばし、秘所に触れると其処はとろりと溢れんばかりの欲で満ちていた。

その姿に厭らしさと艶やかさを感じた宗茂は、己の長い指を其処に沈ませた。

動かす度にぐちゅりと卑猥な音、耳元では甘美な女の声。


廃寺に響く音はどれも厭らしく、陣中であることすらも忘れてしまいそうであった。



「っあ、ああっ」

「ひどく、濡れているな」

「あっ、気持ちいいですもの」



掻き回される其処は、嬉しそうにきゅうきゅうと宗茂の骨張った指を飲み込んだ。

離さぬと言わんばかりに締め付け、これでもかと言うほどに快感を貪っているではないか。

これほどまでに快感に溺れてしまっているのは久方ぶりかもしれない。



「ねえ、宗茂さん」

「どうした」

「もう、頂戴・・っ?欲しいの」



そう言うや否や、すっかり濡れてひくひくと動く厭らしい其処に熱い塊が宛がわれた。

まだ入ってきてもいないのに、中から待ち望んでいたかのように欲望が溢れだしてくる。


とろりと流れてきた其れに緩く腰を振ると、ぐちぐちと厭らしい音がまた響いた。



「随分と大きいのですね」

「君の其処も随分と喜んでいるな」

「ええ、待ち望んでいたもの」

「すまないな」


入り口で滑らせることに満足したのか、宗茂は少しずつ其れを侵入させた。

大きな其れを飲み込むように侵入を許していく。


「ああ・・・」

「狭い、な」


ゆるゆると腰を振ると、絡みつくように締め上げる其処に宗茂は思わず声を漏らした。

自分から自然と漏れる声に失笑してしまいたくなるほど、彼女の其処は離すまいと食らいついてくる。


時折、立てられる背中の痛みも、快感の材料の他にならなかった。


「ああっ、あ、は」

「もっと、激しくするか」

「はあっ、あっ、頂戴ぃ」


肌と肌がぶつかり合うほどに激しく打つと、結合部分から溢れる水音が部屋中に響いた。

それに伴い、床からぎしぎしと軋むような音も聞こえ始めた。


外は恐らく寒く静寂なのであろう。

それなのに、暑い。

そのあまりに対照的な情景もまた、厭らしいと興奮させた。



「は、美しいな」

「あっ、ああ」

「名を、呼んでくれないか」

「む、ね茂さんっ、宗茂さん」

「もっと欲してくれ」

「あああっ、あう」


腰を掴まれたと思ったら、いつの間にか目前に床の木目が見えた。

その一瞬の出来事に惚けていると、背後からまた激しい刺激が襲いかかってくる。



これでは御陣女郎失格になってしまう。

それほど快感の波に溺れてしまいそうになった。



「背も美しい」

「ひぁ、ああっ」

「痕がよく目立つ白い肌だ」


ぬるりと舐められたかと思うと、ちくりちくり痛みが走った。

けれども、その数がわからなくなるほど突き刺さる其れは、快感から逃れることを許してくれそうもない。


頭が真っ白になってしまいそうだと、必死に快感に耐えていると顎を掬われ深く口付けが落とされた。

食べられてしまうほど激しい其れは、逃げ惑う燐の舌を捕らえ、蛇が巻き付くように離れない。



口端から漏れる宗茂の吐息にすら、腰が震えてしまうほど快感に喜んでしまっているのか。

燐は、次々と与えられる快感に戸惑いを隠せなくなっていた。



「宗茂、さんっ、もうお許しを」

「何故だ?こんなにも此処は喜んでいるだろう」

「もう、おかしくっ、ああ」

「堕ちてしまえばいい」

「あああっ、其処はっ」

「もっと、深く」

「ひあああっ、あぁあ」





―――俺だけに。




朦朧と快感を貪られるなか、


最奥に熱い飛沫を感じた。









それ以来、彼女の姿を目にした者はいない。


あの廃寺には散りばめられた小判と


美しい簪等の装飾小物




男の姿もなければ、女の姿もなかった。











「もう、お許しを・・・っ」


「もう離さないさ、俺に堕ちるまで」












情欲で塗り固められた其の枷に


嘘と愛を一粒ずつ


彼は其の欲に何を求めるのか。



end

(私を射止めて。)

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