モモ(毛利元就)
ばしゃぁあん!!
ああ、落ちたのか
気付いたときにはもう海に落ちていた。
ぶく、ぶく・・・ぶく
あんなにも水面が遠い、ように感じる。
これで鎧とか兜とか付けてたら最悪だったな、なんて冷静に思いついているけれど、現在私、海に沈んでいます。
水面が日に照らされてすごく綺麗。
あ、別に入水自殺しようとかそういうわけじゃなくって、本当に体が動きません。
そうそう、怪我しているんだった。
海の青に混じって、私の赤黒い血が流れ出ている(ように見える)
あーあ、私死んじゃうのかー。
まだ、戦の途中だってのに。
早く浮き上がって、
船に登って、
敵をぶった切って、
・・・・・・大殿に勝利を捧げるんだってのに。
今日はたくさん敵を倒して、早めに切り上げる予定だったのに。不覚ってやつ。
ああ、大殿。いや元就さん。
不出来な妻で申し訳ないなあ。
夫を残して先立ってしまうだなんて。
最後にもう一回、お会いしたかったなあ。
ばしゃん、
ばしゃん
時折聞こえる何かが水面を叩く音は、私みたいに落ちたのかな。
まあ、ある程度やっつけたら海に落としちゃった方が楽だもんなー・・・ははは。
・・・あれ、なんだろう。
どんどん視界が暗くなっていく。
そんなに深くまで沈んだっけ。
あれ、なんだろう。
「起きたかい」
「・・・大殿がいる」
・・・・・・ふむ、暖かい。
あまりの心地よさに目を閉じたままでいると、いつものあの聞き慣れた声が聞こえた。
「ここは天国ですか」
「私を殺さないでくれるかな」
「え、じゃあ生きてるんですか私」
「そうだよ」
確かに辺りを見渡せば、いつもの部屋だった。
私が着ていた服と武器は隅っこに干されていて、代わりに襦袢を着ていた。
さっきまで海の中にいたのに、どうしていつもの場所に戻ってきているんだろう。
「輝元に感謝しなきゃね」
「輝元様が助けてくださったんですか」
「君が落とされるところを輝元が丁度見ていたんだよ。そこでたまたま近くにいた私に泣いて教えてくれたわけさ」
「・・・あー、想像つきますね。あれ?じゃあ助けてくださったのは」
「私だよ」
へー、大殿が私を助けてくださったんですかー。
すごい、大殿って泳げたんですね。
「・・・・・・・は?」
「いやあ、輝元から聞いたときに気が動転してしまってね。気が付いたら海に飛び込んでいたよ」
「いやいや、あなた総大将でしょう」
「君の前ではただの夫だよ」
あ、きゅんとした。
「・・・・・・じゃなくってですね!もしあなたも溺れたらどうするんですか」
「勿論私一人では海に飛び込んでいないよ。その後輝元たちも飛び込んだみたいだし」
「だったら最初から将達に任せればよかったじゃないですか!泳ぎが得意な者もいます」
「でも呼ぶまでに時間がかかるだろう」
「そういう問題じゃあ・・・っ」
「君を失いたくなかったんだ、わかってくれ」
ああ、もう。
何が失いたくなかった、よ
何がわかってくれ、よ。
「・・・元就さんの、馬鹿」
「君がいなくなる位ならいくらでも馬鹿になるさ」
「お馬鹿さん」
「そうかもね」
「でも、大好きです」
「うん、私も君が好きだよ」
結局は丸め込まれてしまう私は
あなたにすっかり溺れてしまっている
海よりも深く、深く。
end
(あなたのとりこです。)
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