ヒマワリ(毛利元就)







あなたは太陽。




お日様みたいな笑顔で、


みんなお日様の方を向いて、


みんなもお日様みたいな笑顔になるの





私もお日様が大好き。




お日様にはなれないけれど、


お日様は私すらも照らしてくれて、


私もきっと笑顔になっているの






「燐、そこにいるかい」

「はい」


私の、みんなのお日様。

そんなお日様でもお年はめされるようで、歴史家になるとかなんとかでお日様はつい先日御隠居なされた。


「おつかい頼まれてくれるかい」

「はい、何でも」

「これを蔵にしまってきてほしいんだ。そのついでにこれらを持ってきてほしいんだ。いいかな」

「御意」


そんなお日様の気まぐれなのか。

隠居なのだけれど、どういうわけか私は今までのように御庭番になったまま。

御庭番と言っても、給仕から洗濯から雑用まで。さらに言うと隠居先だから、滅多に敵はおろか来訪者すらない。


ようするに女中さんとそんなに大差ないようになってしまったわけで。



「ああ、そうだ。燐」

「はい」

「それが終わったら一緒に餡蜜食べようよ」

「いいですね、楽しみにしております」

「気をつけて行っておいで」

「はい」


腰やら腕やらあちらこちらに隠し持っている暗器たちも滅多に使われることもなく、一応手入れは行っているので以前よりすごく綺麗になった。

そのまま暗器たちをお蔵入りさせてもいいんじゃないかというくらい平和だ。

・・・まあ一応、何かあったときのために携帯しているけれど。何もないけれど。


ご飯を作って、私と彼のぶんのお洗濯をして、お庭の枯葉を掃除して、お部屋の掃除をして、彼と一緒に甘味を食べる毎日。


・・・・・・本来の職業なんだっけ。



しかし、ここに来てから私は笑うようになったように思う。

いや、忍が笑うのってどうなのっていうところなんだけれど、本当に笑うようになってというか表情が出せるようになった。

きっとそれも全部彼のおかげと言うべきなんだろうか。


「元就様、こちらで全部です」

「すまなかったね、重かっただろう」

「いいえ、この程度重くなどありません」

「ありがとうね。じゃあお茶にしよう」

「私がお点てしましょうか」

「いや、今日は私がやろう」



ああ、なんて美しい方なんだろう。



彼だって戦場を駆け巡り、数多の敵を薙ぎ払って今を確立しているというのに、茶を点てる手は太くごつごつしているけれど綺麗で、伏し目がちに閉じられたお顔だって傷一つない。



それに比べて自分はどうだ。


お姫様などではないのだからと化粧の一つもせず、あちらこちら走り回っていたから肌は白くもなく、手も体もあちこち古傷だらけ。

生傷はなくなったけれど、古傷なんて消えやしないからお世辞にも綺麗だなんて言えない。



「燐、顔をお上げ」

「・・・は、すみません。物思いに耽っておりました」

「いや、それはかまわないのだけれどね、自分をあまり蔑んではいけないよ」

「え、そんな」

「そんなことあるだろう?」

「・・・・・・どうしてそのようにお思いになったのですか」

「君がいつもその考えをしているとき、たいてい唇を噛みしめているからだよ。それに必ず私の手や顔を眺めているだろうから、もしかしたらって思ってね」


どうかな?なんて優しく尋ねてくるけれど、きっと彼のなかでは確証があるのだろう。

第一、彼の推察は当たっているのだから。



「だったら何だと言うのです」

「そんな風に思わなくても良いのにって思うよ」

「そんなこと出来ません。私は忍ですからあなたを守るためなら何でもします。お命を頂戴したことなど数え切れないほどこなしてきました。人であること、ましてや女などとうの昔に捨てています。我々忍は主の物なのです」

「忍は物ではないよ、れっきとした人だ」

「・・・今さら、戻れません」

「戻れるさ。おいで、良い物をあげる」



ああもう喋りすぎてしまった。


忍は物、それも消耗品だ。主をお守りするためだけに生きて、主を守るためなら喜んで命を呈する。

そうやって教えられてきたし、そうやって生きてきた。


だから、私が元就様に憧れるのも嫉妬するのも甚だ可笑しいことで。

そんな考えは捨てないといけない、そんな甘さが主を危険に陥れる、刃を突き立てられる。


ただ黙々と与えられた仕事を完遂すればいいだけなのに。


なのに。



どうしてこの人はそれを良しとしないのだろう。




「元就様?」

「ああ、こっちだよ」



元就様に付いて辿り着いた先は、さっきまで私が書物を取りに行った蔵だった。

大量の書物や、季節外れのお召し物、お台所に置けなかった日用品まで何でも置いてある。

彼が真っ直ぐに向かったのは、一つの桐の箱。

それを何も躊躇することなく開けると、彼は何かを私にかけた。



「これは、」

「女性用の羽織だよ」

「いや、見ればわかりますけれど、一体」


「ほら、とても似合う」

「・・・っ」

「君は美しい」


落ち着いた色の布に、細かな刺繍が施されたそれはとても煌びやかで美しかった。

私が動きやすいようにと適当に見繕った小袖とは大違い。



そう。


まるで、お姫様が着るような。



「君は女の子だよ、普通の女の子だ」

「そんなっ、私は」

「少なくとも私にとっては可愛らしい女の子だよ」



むしろ私の前だけであってほしいけれどね、なんてふと笑うといつもの笑顔になった。


ちょっと暗いここでもすぐにわかるような、お日様のような笑顔。





「さて、お姫様」




今度は私に、茶を点てていただけますか。





「・・・よ、喜んで」





あなたは太陽。




お日様みたいな笑顔で、


みんなお日様の方を向いて、



みんなもお日様みたいな笑顔になるの



私も、お日様みたいな笑顔になるの







「でも、やっぱりその姿は私の前だけにしてね」


「やっぱり似合いませんよね、すみません」




「違うよ、君があまりに美しいんだ」









end


(あなただけを見つめます。)

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