カーネーション(加藤清正)






「きーよーまーさーっ!!」


「・・・げ」






どたどたどた、

いつもは穏やかな大坂城。

ゆっくりとときが流れる昼下がり、そこに似つかわしくない大きな足音が廊下から聞こえた。

しかもその音は確かにこちらに向かってきているではないか。


清正と呼ばれた男は、聞こえてくる足音にため息をつきながら、自ら襖を開けてやろうと重い腰を上げるのであった。



「ちょっと!またお母様とお話したでしょう!」

「次の戦について少し話しただけだ」

「だったらお父様とお話すればいいでしょう?お父様が総大将なんだもの!きっとお母様と話したくてしょうがなかったんでしょう!」

「ちっ、ちげーよ」

「お母様は私のお母様なの!あんたが気安くお話していいわけなんかじゃないんだから!!」

「ったく!次の戦はおねね様が鍵なんだよ!!」

「そんなの前も聞いた!結局はお母様のお側にいたいだけじゃない!!」

「そんな不純な動機はおねね様に抱いてない!!」



各々が怒声を散らすのは「お母様」「おねね様」のこと。

相手がねねに対して何か気にくわないことをした場合、飽きもせず喧嘩をするのだった。

たいていは清正がねねに話しかけているのを燐が発見し、母に何しているのだと喧嘩をふっかけている。

ねねはそんな二人を見て、仲が良いなどと笑ってみているらしいが。



「今度こそ許さないんだからね」

「んだよ、やんのか」

「そーよ!決まってるじゃない」

「よし、表出ろ」

「命令すんな、行くよ」



そんな二人の解決法はただひとつ。



予め用意しておいた真剣を抜き、刃を交じらせることだった。

振袖姿だろうが白襦袢だろうが袴姿だろうがおかまいなし。まるで戦場のように互いの急所を狙い、刃を振るう姿は清々しいほどに遠慮がない。

刃が交じり合う音が城内に響く度に、またかまたかと野次馬が次々と縁側に集まってくる。中には、今日はどちらが勝つかなどと賭けはじめる者もいる。

原因(?)となっているねねはと言うと、秀吉と共にどちらも頑張れなどと応援する始末である。


数分も経てばあっという間に野次馬で縁側は埋め尽くされるほどになっていた。



「やめ!そこまで!!」



いつの間にか審判付きになっていた真剣勝負。

今回の勝者はどうやら清正だったらしく、燐の刀は少し離れたところへ飛ばされていた。

清正は悔しそうにしている燐を一笑いすると、自分が飛ばした刀を取りに歩みを進めた。

それを見たねねがやっと腰を上げると、彼女は真っ先に燐の元へ向かった。



「・・・お母様」

「燐、よく頑張ったね」

「ありがとうございます」

「また強くなっていて、びっくりしたよ」

「鍛錬は怠りませんから」

「ふふっ。さあ、仲直りしよっか」


仲直り、その言葉にぶすっとしていると燐に影がかかった。


影の正体は清正。

右手には燐の刀が握られており、こちらに差し出されていた。

本当ならありがとうと言って、その刀を受け取れば良いのだが如何せん喧嘩の後だから何だか気まずい。というか自尊心が傷付きそうだ。



「行くぞ」

「・・・」


「城下行かないのか」

「・・・行く」


「いつも、負けた方が饅頭おごる約束だろ」

「うん、行こう」



相変わらず拗ねたような顔は変わらないものの、清正の手から刀を受け取り、そのまま後ろを付いて歩く燐。


ねねはそんな二人の姿を見て、嬉しそうに笑うのであった。





「まったく、不器用な二人だねえ」






また口喧嘩か何かをしているのだろう。

怒声がこちらまで聞こえてくる。



けれども遠くからでもわかるくらい

穏やかな表情を浮かべている二人。






その二人を見送ると、

ねねは夕餉の準備にかかるのであった。



きっとまた喧嘩してお腹をすかせて

帰って来てくれるのだろうから。









end


(母への愛)

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