アサガオ(島左近)





常夜の城に儚い光がぽつりぽつり。

其れに群がるは夜光虫。


光はそれぞれの色に輝き、

それぞれを香を纏い、


夜光虫をおびき寄せる、




常夜の城は崩れない。

光と虫がいる限り。




「いったい何です?その詩は」

「花街を皮肉った唄です、ずいぶん昔からあるそうですよ」

「へえ」


色町のはずれ、其処に彼女はいた。


「つまらん詩ですみません」

「いや、珍しいものを聴かせて貰いましたよ」

「外の方は知らないでしょうからね」


色町の女にしてはやけに質素な飾りで。

それが一層、彼女を引き立たせているのではないかと思ったのはつい最近のこと。


蓋を開けてみれば、話は興味深い、芸事は何をやらせても美しい、器量も良い。

一塊の色町の女にしておくには勿体ないほどだ。


「さて、今回の情報は」

「青葉の生態は如何です」

「青葉・・・伊達、か」

「面白い情報ですが、ちとお高いですよ」

「買いましょう」


色町で情報を貰うことは多い。

意外と口固い奴らも、ここでは緩くなっていることが多いからである。


が、この女の情報量は桁が違う。

質が良い情報で、かつ量も多彩。

どうやって聞き込んでいるのか教えてはくれないようだが。


「にしても、こんな情報を良く手に入れましたね」

「うふふ、これも生業ですから」

「さて、褒美としましょう?」



期待に満ちた瞳を向けられれば、こちらだって悪い気はしない。それも美しい女ならば尚更。

妖しく濡れる口を食い尽くすように奪ってやれば、光悦とした吐息を漏らす。

その声にだって、悪い気はしない。


脱がす動作すらまどろっこしくなってしまうほど、興奮しきっている自分に、褒美を与えられるのはどちらだと自嘲した。


「左近、様ぁ」

「ああそうでしたね」


重く厚い着物に隠された華奢な体を抱くと、嬉しそうに首に白魚のような腕を回される。

焦らすように腕を絡められる動作が、挑戦的に細められた瞳が、すべてが厭らしく愛おしい。


「もう、こんなに大きく」

「そりゃああんたを欲していますからね」


勿論嘘なんかじゃない。

さっきから痛いほどに膨張しきっているし、息だってだらしないくらいに漏れ出してくる。

いっそのこと、その邪魔な着物をはぎ取ってしまって己を突き立ててしまいたい。

どんなに嫌がっても痛がっても、本能のままに深く深く突き進んでしまいたい。

そんなこと結局はしないのだけれど。


悦ばせようと溢れるそこをもっと乱して、豊満な胸を愛でて、愛を囁く代わりに口付けを落として。

もっと乱れて欲してほしいと、強請るのだ。



「ああ、綺麗ですよ。燐」

「もっとして・・・っ」



簡素な着物に似合わない、華やかで美しい顔を歪ませて、愛してほしいと叫んでしまえ。

もっと乱してくれと強請ってしまえ。



「ああっ、激しい・・・っ」

「激しいの、お好きでしょ」

「んんんっ、あ」

「もっと激しく?そうですか」

「っやああっ」

「なら、期待に応えてやりましょ・・・ね?」



ああ、叶うのなら。


このまま、欲望のままに愛して、

どこか誰も知らないところへ連れ去って。



俺のものだと証を刻んでしまいたい。




「左近、っ様ぁ・・・っ」

「・・・っく」




けれども、彼女が許さない。


俺の唇に指を当てるあんたが。

瞳を閉じて、俺を映さないあんたが。





涙を零して、愛を告げないあんたが。


俺の黒い欲望を好しとしないのだから。






所詮、俺は光に群がる夜光虫でしかなく


彼女は光の一つでしかない。





巨大な常夜の城の一角でしかない、小さな話。





end


(はかない恋)

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