「少女Xちゃんってさー…、絶対不思議ちゃんだと思うんだよね」

「またその話?」

「うおぉっ!?」


俺がポツリと誰にともなくそう言うと、後ろからふわふわの声が聞こえた

あまりにも不意だったため、驚いて持っていたコーラの瓶を落とすかと思った


「マルコくんは、よくその話をするのね」


無表情に首を傾げるその子、少女Xちゃんは我が白秋高校アメフト部のマネージャーだ

そして、俺が密かに想いを寄せている子である


「こっちはビックリしたっちゅう話だよ」

「ごめんね」


その表情はほんの少ししか変わらないが、微かにすまなさそうにも見える。気がする


「ねぇ、どうして私は不思議なの?」

「え゙っ、それは……」

「?」


首をこてんと傾げてこちらを見てくる彼女は、とてつもなく可愛い

そう、とてつもなく可愛いのだ

こう…加護欲に掻きたてられるというかなんというか


だ・け・ど・これを覆すほどの中身を持った人間だという事を一体何人が知っているだろうか

まぁアメフト部の連中は知ってると思うが、恐らくただのクラスメート辺りは難しいっちゅう話

だって、学校では口数の少ないおとなしい子、で通っているから


「マルコくん?」

「あ、あぁ。どこが不思議かって話でしょ?」

「うん」


果たして言っても良いのか

いや、本人は全く気にしていない(というかそれが当たり前だと思っている)から問題は無い…か…?

まぁ本人が聞きたいって言い出したんだし、ねぇ…


「例えば―」


ほら、少女Xちゃんってよく変わった話題を持ちかけてくるじゃない

どんな?

チューリップは好きじゃないけど、ラフレシアは格好いいとか言うじゃん

なんで?ラフレシアかっこいいよ?

じゃあどこがかっこいいわけ?

あの威風堂々とした風体とか、誰にも負けない屈強な姿

それ、この前まったく同じこと峨王にも言ってたよね?

うん。だってそう思ってるから

じゃあチューリップの何がいけないんだ?

チューリップなんてくそくらえ

ちょっとちょっと女の子なんだから汚い言葉ダメ!!

相手はしょせんチューリップだよ

ちょ、チューリップに対する扱いが…

アレは誰かに見てもらわなきゃ生きていけない花だからいや

……そうなの

うん。弱い花は媚びるから嫌い

まぁ、要はそういうところがね。違うんだっちゅう話

ふーん。そういうものなの?

うん

他には?

他?まだ聞きたいの?

うん

じゃあ。この前、グラウンドでキリギリスが死んでたじゃない

うん。グラスホッパーさんね。あれ、可哀想だったよね

なんで言い直したのかっちゅう話

グラスホッパーさん。

うん、そうね。グラスホッパーさんね。それで少女Xちゃんさ、可哀想ってお墓立てたじゃん

うん。何も無かったから、卒塔婆代わりに鉛筆刺してお供え物にチョコを一つあげた

良い子。でもさ、その日の練習の後にコオロギが部室に出たでしょ?

うん

その時少女Xちゃん、何したか覚えてる?

マルコくんのジッポライターで燃やしたよ

それだよ。ていうかあの時どうして俺のジッポライター使ったの?

そこにあったから。ああいうのは早急に絶やさなきゃ

でも次からは燃やさないでね。あれ飛び跳ねてどっか引火するかとヒヤヒヤしたから

でも、手っ取り早かったでしょ?

燃やしたっていうのも問題だっちゅう話なんだけどね、一番気になるのはキリギリスとコオロギの扱いの違いって何なのっちゅう話

グラスホッパーさん

そうね。グラスホッパーさんね

だってね、グラスホッパーさんはバッタと似てるから憎めないやつなの

コオロギは?

ゴキブリみたいでしょ?私、ゴキブリだけはだめなの。絶対

…なんか、今少女Xちゃんがすごく普通の子の意見を言ったような気がする

マルコくんは失礼な事言ったよ

ごめんごめん。だって、ラフレシアが格好いいなら、ゴキブリも煌いて見えるんじゃって思ったから

あのハードロック系のテカリは駄目なの

そういうもん?

そういうもん


そこで会話が一旦途切れた

俺はふと少女Xちゃんを見る

どこともなく遠くを見ているその横顔に、思わず見とれた

あぁ、この横顔


「たまらなく愛しいってこういうのかね」


ぽつりと口をついて出たそのセリフに、我ながらキザだと思った

すると少女Xちゃんがこっちを振り向き、口を開く


「マルコくんってさ」

「うん?」


じっと俺の目を見つめてくる少女Xちゃん

そんなに見つめられると照れるかなーなんて思いながら見つめ返す

向こうが少しでも照れてくれたら嬉しいなとか思いながら


「マルコくんも、ラフレシアやグラスホッパーさんを愛しいって思うの?」

「は?」


見当違いなそのセリフに、俺は思わず素っ頓狂な声を上げる

これは、照れるとか以前の話だ


「違うの?だってさっき、愛しいって言った」


違うの?

もう一度そう聞いてきた彼女は、どこか残念そうで

だからつい、言ってしまった


「いやいや、本当は俺も好きだっちゅう話。ら、ラフレシアって格好いいなって前から思ってたんだよねー!な、だから少女Xちゃんにラフレシアの生態とかもっと色々と詳しく教えてほしいなー…なーんて…」


苦し紛れのその言葉は、どうやらしっかりと少女Xちゃんの胸にしまわれたらしい

彼女はうんと大きく一度頷くと、上げられた顔は今までになく輝いているように見えた


「今度…一緒に花屋『マンドラゴラ』、行こう」

「う、うん、そうね…とっても楽しみだっちゅう話だよ……」


これはデートだ。そうに違いない

そう思わなきゃ、伊達男としての何かが崩れそうだと思った




目標、鎮圧ならず
(これは相当手強いっちゅう話だよ)
(マルコくん、どうして目頭押さえてるの?)
(ん?これは俺のダムを決壊させない為の応急処置だよ)
(手伝ってあげる)
(え、ちょ、それ目薬…しかもハードクール?!それじゃあ意に反して決壊しちゃうっちゅう話!!)


-end-

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まずは常識教えてあげてくれ←

この夢主の希望就職先はやはり花屋『マンドラゴラ』

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