「クロウとはどうだったのだ?」

何の前触れもなくそう言われ、飲んでいた美味しすぎる水でむせてしまった。流石にこれにはヤイバもまずいと思ったのか、大丈夫かと私の背中をさすってくれた。

「……と、突然と何なのっ!?というかどうだったって何が!?」
「いや、昨日は二人で夏祭りに行ったのだろう? 故に、うまくいったのかどうか気になってな」
「クロウに聞けばいいじゃない!」
「そのクロウがまだ来ておらぬではないか。それに、お主はあまりこの件を他の者たちに聞かれたくはないだろう?」

確かに、今スタジオにいるのは私とヤイバだけでクロウもいなければアイオーンとロムさんもまだだ。他の誰にも聞かれずに昨日のことを聞こうと考えれば、こうして二人きりである状態の方が良い。ヤイバが聞いてくるのも当然といえる。

「それで、どうであった?」
「ど、どうって……言われても、その、楽しかったよ」
「ふむ。ということは、クロウは首尾良く事を運んだということか」

故にあの背丈の小さき者にしては、などとヤイバは続けるものの昨日のことを思い出し始めた私の耳には殆ど入ってはこなかった。手を繋いでお店を回ったり、花火を見たり、それに――――……

「おい、なまえ?」
「きゃあっ!?」

声をかけられハッとすれば何故か目の前にクロウの顔があり、ついクロウを突き飛ばす。やってしまったと思った時にはもう遅く、クロウは声をあげて床に尻餅をついているところだった。どうやら私が昨日の出来事を思い返している間にスタジオに来たらしい。

「クロウ、無事か?」
「ごごごごごごごめんっ!びっくりしちゃって!!」
「ったく……考え込むのもいいけどあんまりぼーっとすんなよな!」

ぶつくさと文句を言いながらクロウはヤイバの手を借りて立ち上がる。クロウには悪いが、本当にとても驚いてしまったのだ。何せ、昨日のことを思い返していてちょうど目の前に現れるものだから心が追い付かなかった。

「う、うん……そうだね……」

とりあえず一旦昨日のことを忘れよう。そう思いつつ返事をするものの、一向に昨日のことが頭から離れない。むしろこうしてクロウが目の前にいることでより一層鮮明に思い出してしまう。

「なまえ、お主……」
「え?」

ヤイバが何かに気付いたような顔でこちらを見てきて、もしや分かりやすい顔をしているのだろうかと慌てて両頬に手をあてる。すると、ほんのり熱くなっていて、私の顔は赤くなっているらしいことが分かった。やはり、顔に出ていたらしい。

「何をそんなに赤く……」

クロウもそれに気が付き、そう口にしたが途中で何事か勘付いたらしく、口を噤むと彼の顔もまた赤くなる。そうして、それを隠すように顔を逸らす。きっとクロウも昨日のことを思い出してしまっているに違いない。

「…………お主たち、随分と昨日は楽しんだようだな」

呆れたように溜息を吐き、ヤイバはそう呟く。赤くなる私たちを見て、ヤイバも気恥ずかしくなったのか少しだけ赤くなっていた。ああ、アイオーンとロムさんがやって来るまでにこの赤さは消えてくれるのだろうか。

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