※「いばらの埋葬」設定。時系列は連載終了後。

夜の暗さに町中とはまた違った明るさ。行き交う人々。普段は見られない物珍しい屋台。何もかもがなまえには新鮮で、あっちを見たり、こっちを見たりと一体どこを見れば良いのかが分からない。

「なによそ見してんだよ、はぐれちまうだろ」
「あっ、ごめん!……こういうの、初めてだったから……」

クロウに声をかけられ、慌ててなまえは歩みを速める。すぐ横を歩いていたはずのクロウは気が付けば少し距離の離れた場所におり、周りに気をとられてなまえは随分と歩みが遅くなっていたらしかった。しかし、本当になまえには何もかもが新鮮なのだ。今までお祭りというものに来たことがなかった。両親はなまえに無関心でこういった場所に連れて来ようとは一切考えず、また、なまえもそれが分かっているため連れて行ってほしいなどと口にしたことはなかった。誘ってくれる友人も、そもそも友人がいなかったのだからいるはずがない。だから、こうしてクロウが誘ってくれたことによりついに生まれて初めてお祭りというものを体験できている。

「それにしても、浴衣って中々歩きにくいんだね。追いつくだけなのに大変」

人混みを掻き分け、待っていてくれたクロウになんとか追いつきそうごちる。今回の件をシアンに話したところ、彼女は目を輝かせて「それってクロウちゃんとデートにゃん!浴衣を着た方がいいにゃん!」と浴衣がないなまえにわざわざ浴衣を貸してくれた。プラズマジカの他三人もシアンから話を聞き駆けつけてくれ、着付けや浴衣に合うようにと髪をまとめたりと彼女たちはクロウと良い思い出作りができるようにと手伝ってくれた。だからこそ、この姿は自分でも割と気に入ってはいるのだが、やはり普段と違って歩きにくくて仕方がない。

「ま、仕方ねーだろ。浴衣ってそういうモンだしな。…………けどよ、その、悪くねーとオレは思うぜ」

ちらりとなまえに視線を送ったかと思えば、慌てたようにクロウは視線を逸らした。ほんのりと頬が赤いのがこの暗がりでもよく分かり、なまえも顔に熱が集まるのを感じた。

(でも、確かに悪くないよね……)

クロウもなまえ同様、普段とは違い浴衣に身を包んでいた。彼の場合、ヤイバが手伝ってくれたらしい。成程、ヤイバならばそれぐらい楽なものだろうと納得したものだ。おかげで浴衣姿のクロウというレアなものを見ることができている。いつもとは違ったかっこよさがあり、正直なところ見惚れてしまうためあまりまともに見れないほどだ。

「ほら、行くぞッ!せっかく花火を見に来てるっていうのにこんなよく見えねえ場所から見たんじゃ意味ねーからな!!」
「……う、うんっ」

唐突にクロウに手を握られ、そのまま引っ張られる形で歩みを進める。一瞬驚いたが、出来る限り平然を装い言葉を返した。逸れないようにという意味合いもあるのだろうが、それだけではないのだとなまえは思いたいし、きっとそうなのだろう。現にクロウの顔は先ほどより赤い。これぐらいのことならば、既に何度も経験しているというのにああなっているということはそういう意味合いが含まれているに違いなはい。嬉しくなって手を握り返せば、クロウの尻尾がゆらりと一振りして、つい小さく笑わざるを得なかった。

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