※「いばらの埋葬」設定。時系列は連載終了後?かも?
……また始まった。いつものこととはいえ大声で喧嘩を始めるクロウとアイオーンを見つめ小さく溜息を吐く。私の隣でヤイバも同じように溜息を吐き、ロムがいればな……と呟いた。大抵いつもはロムさんが喧嘩をおさめるのだが、今日は残業があるらしくまだ来ていない。となると私が止めなければならない。こういった場合、勿論ヤイバも止めに入ってくれるのだが、如何せん彼は喧嘩に巻き込まれることが多い。気が付けば三人で喧嘩している、なんてことは多々ある。つまりは余計に面倒になるだけだ。なので出来る限りは私だけで対処したい。
「ニートのくせにエラそうなこと言ってんじゃねぇッ!」
「神に喧嘩を売るとは……身の程知らずな小動物め……」
「あー、もう、ストップ!喧嘩はダメだっていつも言ってるでしょう!!……アイオーン、大丈夫?」
仕方なく二人の間に割って入り、アイオーンの様子を窺えば、心配ないという意味で大きく頷かれた。クロウの小言など彼からしたら痛くも痒くもないだろうが、それでも心配だった。何せ今回の喧嘩はどう考えてもクロウの方に非がある。アイオーンのこの態度も仕方ないというものだ。
「オ、オイ、何でオレじゃなくてアイオーンの味方するんだよッ!?」
「ずっと見てたけど今のはクロウが悪い。よしよし、あとでロムさんに叱ってもらおうねー」
クロウを無視してアイオーンの頭を撫でる。アイオーンは私よりずっと背が高いから背伸びをしなくてはならないし、それでもぎりぎり届くかどうかではあるのだが、なんとか彼の頭に手を触れれば完全に子供扱いではあるもののアイオーンは気持ち良さそうに目を細めた。ああ、こういうところがあるから悪いと思いつつもどうしても頭を撫でたりしたくなってしまう。
「なまえ!!!!」
「喧嘩するような人のことは知りません」
「クロウよ、嫉妬するぐらいならば大人しくしていれば良い。そうすればなまえもアイオーンばかり構いはしない」
不満そうなクロウをヤイバが宥めるが、正直なところ喧嘩しなくてもアイオーンを構ってしまうであろうことは内緒にしておこう。言えば余計にクロウの怒りを煽るだけだ。
「〜〜ッ 分かった、大人しくしてりゃイイんだろ!?」
「また喧嘩始めたらロムさんに言いつけるからね」
渋々大人しくなったクロウは小さな子供のようで微笑ましい。仕方ないクロウのことも撫でてあげよう。そう思ってアイオーンの頭から手を放せば、がしりとその手を掴まれた。アイオーンだ。随分と不満そうな顔をしてこちらを見ている。
「フッ……もう少し神の身体に触れ、その身を闇で包むことを許す……ッ」
「やいやいやいやいッ!!テメェはまだなまえを独り占めする気か!!!」
「小動物などの言葉に耳を傾ける必要はない……さあ、続けるが良い……ッ」
「ふざけんな!!!!」
「ええー……何でこうなるの……」
この様子では私とヤイバが何を言っても喧嘩は止まらない。いやむしろ悪化しかしないだろう。何だかもう嫌になってきて、唯一それを止めることができるロムさんが早くやって来てくれることを私はただ心から祈るのだった。