「本当に行ってしまうんですか」
「うーん…ごめんね」

カノンの表情が明らかに曇っていく。ごめんね、ともう一度今度は心の中で呟く。彼が私を引き留めようとしているのはよく分かる。私も出来ればこれから先も傍にいてあげたい。でもそれは無理なのだ。そしてカノンもそれを分かっている。

「やりたいって思うことができたのに、それをやらずにずっとここにいるの、気持ち悪いの。だから、ごめんね。行かせて」

三度目のごめんねに何を思ったのだろうか。カノンは困ったように笑い、私の手を取った。温かい手だ。私より年下なだけあって可愛らしい手な気がする。だが、それでいて少年らしいごつごつとした手。

「……きっとバノッサさん、怒るだろうなあ」
「うん、そうだろうね」

バノッサには何も言っていない。だからどういう反応をするのか安易に想像ができる。そしてそれをカノンが宥めるに違いない。宥めるのはカノンの役目のようなものとはいえ、私は彼を悲しませた挙句に最後の最後で彼の仕事を増やすなどなんて面倒な奴なのだろうか。

「それじゃあ、行くね。頑張ってやりたいことやってみる。そうしたら、また、君に会いに来るよ。だから、それまで、元気でね」

未だ私の手を取ったままだったカノンの手が、ゆっくりと、その時間すら惜しむように放れていく。そうして、はい、と笑顔で頷く。声が微かに震えている。この強がりめ。させているのは私なのだが。でも次に会う時は、悲しませることなんてせず、笑顔にさせてあげたいものだ。そのためにも、それまで、どうか元気で。

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