「君を連れてはいけない」

イオスの顔を見つめなまえは暫し考える。自由騎士になると聞いた時は勿論自分も連れて行ってもらえるものだと思っていた。だが連れてはいけないという。そこには何か理由がある筈だ。とすれば、思い当たる理由は一つしかない。

「私が、女だからですか」
「そうだ。君は女だ。男じゃない」

確かになまえは男ではなく歴とした女であるが、黒の旅団に所属していた一人である。女だからと軽んじて見られたこともあるがそれでも腕はイオスに次ぐものを持っていた。それをイオスも知っている筈なのだ。なのに何故、女だからと外されねばならぬのか。

「女だ男だなんて黒の旅団にいた時には関係ありませんでした」
「だが、今度は自由騎士団だ。今までと違う」
「シャムロックさんがそう言ったわけではないですよね。結局はただ隊長が言っているだけじゃないですか」

そう言えばイオスがおもむろに目を逸らし、口を閉ざした。やはりそうかと一人内心納得する。こんなことを言い出すのは誰かと考えてみれば、イオスぐらいしか思いつかない。シャムロックはなまえが行きたいと言えば受け入れてくれるだろう。ルヴァイドは最初は拒否するかもしれないが、それでも最終的には頷いてくれるのを共に過ごしてきた時間から知っている。どういうつもりだとの意味を込めてイオスを睨み付ければ、観念したように再度彼は口を開いた。

「……僕は、君を連れていきたくないんだ」
「何故ですか。私には居場所なんてないんです。私は隊長とルヴァイド様と共に生きたいです。最期まで共にしたいです」
「僕は、そうじゃない」

相変わらず逸らしたままのその目に不安の影が垣間見える。何を不安がるのか見当もつかない。腕は確かだ。なまえに太刀打ちできる者の方が少ないことを理解している筈なのに。

「君には、安全な場所で、安全に、普通に暮らしていてほしい。僕らと一緒では、駄目なんだ」

君が傷つくのを見たくはないんだ、と悲痛な声で呟く。そんなイオスを見つめ、なまえはかぶりをふった。安全な暮らしなど求めてはいない。ただ二人と共にいられればそれでいいのだ。それをイオスは理解してはいない。しかしそれをいくら説いたところで理解してはもらえないだろう。そしてこの男にいくら説かれたところで、なまえもそれを理解しないだろうことはあまりにも明白であった。

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