「手、繋ごうぜ」
さり気ない、極自然な仕草で、ほら、と手を掴まれる。返答する暇さえなかった。だが、暇があったところで断る理由が「恥ずかしい」という感情以外見つからない。そもそもこれは逸れないようにという意味合いでのものだ。少しでも気を緩めればお互いがどこにいるか分からなくなってしまいそうなほど、こうも人が多いと手を繋ぐという行為は合理的な判断と言える。現にムゲンやライラたちとは逸れてしまった。ここでレイとも逸れてしまえば合流するのは更に面倒なことになる。
(けど、やっぱり恥ずかしい……っ)
繋がった手から、レイの体温が伝わってくる。レイは逸れないようにという理由からであり、それ以外の理由なんてない。しかし、私はそうじゃない。好きな相手と手を繋ぐだなんて、どきどきしないわけがないではないか。思ってた以上にレイの手は大きいなとか、私と違って男の子の手だなとか、ムゲンたちには申し訳ないけどそんなことばかり考えてしまって彼らを捜すことに集中できない。無論、レイはそんな私の気持ちなんて知らずにムゲンたちの名前を呼んでいる。レイの行動こそが正当なものではあるものの、少しぐらい女の子と手を懐いでいるんだから意識してくれてもいいのにと心の中で悪態をつく。とはいえ、レイがそんなことを考えるだなんて思えない。残念ながら、彼は異性にあまり興味がないらしい。そんなことよりもバトスピ等のことが頭の中の大半を占めている。
「……うーん、見つからないな」
「そうだね……一度、一番星号に戻ってみた方が良いのかも」
そうだな、とレイは頷くとふと視線を繋がった手へと向けた。視線はそのまま、黙って何かを考えているようだった。何を考えているのかは分からないが、必死に抑えていた恥ずかしさが急激に身体中を駆け巡る。それに加えて緊張で手に汗をかきそうだった。いや、もしかしたら既にかいているのかもしれない。そう考えると情けなくて余計に恥ずかしい。
「レ、レイ?」
「えっ……あー、悪い、何でもない」
どこか慌てたようにレイの視線が逸らされる。それと同時に、繋がれたレイの手の力が少し強まった。まさかの行動に胸の高鳴りが早くなる。こんなことがあるなんて、気のせいだろうか。でも、勇気を出してこちらからもちょっとだけ繋ぐ手の力を強めれば、更にレイの手の力が強まったのは、気のせいではないだろう。