お前はもっと大人になりなさいと幾度となく何人もの人に言われた。そのたびに自分を押し殺して、努力して、周りが望むものになろうとして。そうしたら、気が付けば周りが随分とつまらないものに思えて。もう何もかもが面倒で、そういうものだと思い込もうとしていたのに、

「貴女はそのままでいいじゃないですか。そのままが、いいですよ」

今までの私を否定するかのようにタスクくんは笑って言った。まるで魔法の言葉だと思った。今まで誰も言ってくれたことのない言葉。私を「私」にするための言葉だ。だからこそ誰も口にしてはくれない。

「……そんなの、初めて言われた」
「そうなんですか? 僕はそのままの方がいいですけど」

不思議そうに首を傾げる。あ、なんか今の可愛い。でも早く大人になりたい彼のことだから、これを言ったら彼は困ったように笑うに違いない。

(待って。可愛い?)

そんな感情はかなり久しぶりだ。可愛いものを可愛いとすら私はもうずっと思えなくなっていた。なのに、今のタスクくんを見て、確かに「可愛い」と思った。

「じゃあ、せめて僕の前だけでも、そのままのなまえさんでいてくれると嬉しいです」

だから自分のことを嫌いにならないでください、なんてタスクくんは言う。また魔法の言葉をそうして簡単に口にする。なんて子なんだろう。じわりと今まで忘れかけていた感情が少しずつ私の中に返ってくる。押し殺していたものが、解放されていく。ああこの子は魔法使いなのかもしれないな、とらしくないことを思わず考えてしまった。

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