「師叔!貴方はまたこんな所に!!」
声をかければ、一瞬驚いた顔をして彼はこちらを見た。しかし声をかけたのが私だと分かると、すぐさまそれは安堵の表情へと変わる。
「何だ、なまえか」
「何だとは何ですか!」
随分と失礼な物言いである。だが師叔はそんなことを気にも留めず昼寝の体勢に入ろうとした。慌てて腕を掴み、それを阻止すれば不服そうな顔をされた。そんな顔をしたいのはこちらの方だ。
「さあ、元始天尊様のもとへ戻りますよ」
「断る」
「師叔!!」
師叔は私の腕を振りほどき、今度こそ昼寝の体勢に入った。無論、そう簡単にはい分かりましたそうしますと師叔が私の言うことを聞くとは思っていなかった。今まで何度もサボった師叔をこうして連れ戻しに来ているが、いつもこうだ。私の話をまともに聞いてくれたことなんてない。
「大体、何故こうも何度もなまえがわしを連れ戻しに来るのだ。おぬしは普賢の弟子であろう。わしを構っている暇があるならば普賢のもとで修業をしたらどうだ」
「その普賢師匠から、師叔を元始天尊様のもとへ連れて行くよう命じられているんです。
貴方がサボるたびにです。おかげで今回は貴方を連れ戻さねば暫く私の修業はお預けだとも言われてしまいました。ですから、師叔には戻ってもらわねばならないんです。私の修業のためにも!」
「普賢の奴め…」
はたしてこれで師叔は聞いてくれるのだろうか。否、私の修業がかかっているのだから聞いてくれなければ困る。期待を込めて師叔を見つめれば、上半身を起こし、考えに耽り始めた。そうして、考えをまとめたのかこちらへと顔を向ける。
「よし、では、おぬしもサボれ」
「は?」
「わしと共にサボるのだ。わしは戻らぬ。おぬしは戻れぬ。ならばサボってしまえばよかろう」
ぐらり。一瞬、眩暈で世界が歪んだ気がした。ああそうだこの人は私が修業を受けられずともどうでも良いのだ。そういう人だ。自分が良ければそれで良し。前々から分かっていたじゃないか。期待する方が間違いだったのだ。
「あのですね、私は修業を、」
「修行などせずともなまえは今のままで十分だ」
「そういうことではなくっ」
「それに、おぬしとてわしとサボるのも悪くないと思っているのだろう」
お前の考えなど見通しているのだぞと言いたげに師叔は笑っている。何を、と呟くがその声は自分でも驚くほど掠れていた。きっとこの笑みだ。師叔のこの笑みがいけない。私は師叔に笑われると弱い。そしてそれを師叔も理解している。私が何度連れ戻しに来ても師叔を連れ戻せないでいる理由なのだから。だって、師叔と一緒にいるのは、嫌いじゃなくて、むしろ、一緒にいたくて。だから、こんな誘い、断れるわけがないのだ。