「お前は七海の母親みたいだな」
ぽつり、と日向くんが言った言葉が全ての始まりだった気がする。私としては意外にも世間知らずな七海さんが放っておけなくて色々と教えてあげているだけのつもりだった。別に母親というレベルではなく、そう、友人に構っているだけ、ぐらいな。小泉さんと西園寺さんの方がそれに近い気がしていたのだが周り曰くそうではないようで、日向くんのその発言以降周りによる「母親」扱いが酷い。七海さんが一人でいれば「おい、娘が一人でいるぞ一緒にいなくていいのか」と言われたりするのだ。
「ごめんね、七海さん」
「……どうして謝るの?」
いつも通りホテルのロビーでゲームを楽しむ七海さんに謝る。七海さんはゲームから目を離し、首を傾げた。ああそうか突然と謝っても駄目だよね。なんのことかちゃんと言わないと。
「ほら、私が七海さんのお母さんだとかって話。みんなが私達を、こう、セット扱いしたりするでしょ」
「ああ、あれ。うーん、謝る必要はない…と思うよ。むしろ私の方こそ迷惑をかけちゃってるし、それに…」
そうして七海さんは考え見込む。言いたい言葉を探しているようだった。
「七海さん?」
「あのね、なまえさんって、温かいなって思って。だから私はむしろそういう扱いでも一緒にいられて嬉しいよ」
頬に熱が集まっていくのを感じる。嬉しくて、そして、恥ずかしい。なんてぽかぽかとして温かい気持ちなのだろう。きっと七海さんは特に深く考えずに言ったのであろうことは安易に想像できる。でも嬉しいのだ。私って結構単純なのかもしれない。
「そ、そうかな…えへへ、そう言ってもらえると嬉しいなあ。私も、七海さんと一緒にいられるのが凄く嬉しいんだ! だからこれからも一緒にいても、その、いいかな」
「うん。勿論だよ」
にこりとお互い笑い合う。七海さんは私を温かいと言ったけれど、私には七海さんがとても温かい。きっと今、周りからは私が母親ではなく七海さんが母親に見えているに違いない。