染めても渡さない!


『シュン!帰ろーっ…』

放課後、掃除を終わらせ、校則ギリギリの速さで教室に戻れば、普段眼に入る阿呆毛が入らなかった。教室内を一通り見渡しても、彼奴は居なかった

(なんだよ…。先に帰ったのかよ)

そう思うと溜息が出て、力が抜けた。何のために急いで掃除をしたのか分かんねえ
俺とシュンは掃除当番の日が別だ。俺がある日はシュンは休みで、シュンがある日は俺は休み。シュンが当番の日は楽だ。終わるまで彼奴を待てばいい。だが、俺が当番の日は厄介だ。シュンが俺を待つことなんか無い。もともと、一緒に帰る約束なんてしてねえしな。だが、何かとシュンは先公や友人に捕まっているから一緒に帰れた。今日もそれを狙ったが、彼奴はいない
もしかしたらと小さな希望で彼奴の机の周辺を見るが、荷物さえ無かった。あ、机ん中空っぽじゃん。確実に帰りやがった。確定されると余計ダラケた。気が付けばシュンの席に座り、机に頭を預けていた。あ゛ー。帰るのめんどくせえ…
ズボンのポケットからケータイを出し机の上に置く。するとランプが点灯した。それは着信かメールが着たことを示す光だ。今はそんな気分じゃねえが、ケータイを開けばメールが1件受信されていると表示された。どうせメルマガかなんかだろうとポチポチとボタンを押していけば、受信ボックスを表示する画面に、専用のボックスに1件メールが入っていた

『っ?!』

――ガタッ!

大きな音をたて、俺は起き上がる。ウソ、だろ…?!と小さく呟いていた。驚きと興奮が交ざり、気付けばケータイを両手で触っていた。震える手でポチポチとメールを開く。最初は怖くて眼を瞑っていたが、ゆっくりと開き、短く書かれた文章を追った

「急に委員会活動が入ったため、今日は一緒に帰れない
すまない」

たったの2文だが、俺は何度も眼を追わせた。読めば読むほど嬉しくなり、ケータイをぎゅうっと握った。なんだよ、もう。先に帰ったかと思っちまったんだぜ?委員会かよ、馬鹿。ああ、つかさ、この文読んでると、まるでシュンが俺と帰りたかったって言っているように聞こえんだけど。俺もシュンと一緒に帰りてえ…!ま、待ってみるか…?一緒に帰りたいし、シュンも帰りたかったみたいだし…
俺はシュンにメールを送ろうと考え返信機能を使い、本文画面まできた。だが何て打てばいいんだ?[一緒に帰りたい]とか率直な言葉を使って困らせるのは嫌だしな。俺は悩みつつ手を動かした

「委員会お疲れ様だな
どうせ暇だから、待とうか?」

出来上がった文は上から目線な言い方で嫌になる。だが、それ以外思いつかねえ。このまま悩んで、気付いた時にはシュンが帰っていたら嫌だから、俺は仕方ねえが送信ボタンを押す。送信中画面用のムービィが流れ、5秒後には送信完了と在り来たりな文字が表示された
ついに送ってしまった。文が気に入らねえから後悔する。こんな文でシュンを不愉快な気分にさせちまったら嫌だ。今は彼奴の心の広さを信じる
シュン、気付くかな?つか、マナーモードだから、もしかしたら気付かねえか!シュンの事だ、委員会活動に集中して気付かねえ事だって有り得る。くそっ!委員会活動している場所何処だよ!知ってたらその場で待ってたり、シュンの手伝いが出来んのに!何も出来ない自分に苛々してきた。そんな中、机に置いたケータイが光る

『きたっ』

素早く右手で掴み、両手で支えるように持つ。右手でボタンを打っていけば、専用のボックスにメールが1件ある事を表示してくれた。良かった。気付いてくれたんだ!嬉しくなる。だが、もっと気になるのは内容で俺はメールを開いた

「良いのか?もしかしたら、遅くなるかもしれないが…
それでも待ってくれるなら、俺は嬉しい」

一瞬、ケータイを投げてしまいそうになった。な、なんだよこれ!もう一度眼を追わせてみるが、顔に熱がいくのが分かる。恥ずかしいというか、嬉しいというか。今の感情を表す言葉を俺は知らねえから、例えられない。ただ、シュンが俺と帰りたがっている事実を受けとめれば至福以外なんもねえ

「構わねえよ
俺もシュンと帰りてえから」

気付けばそう打って送信ボタンまで押していた。急いでキャンセルボタンを連打するがそれよりも早くメールは送信されてしまった
まずい。なんか、ハズいんだが。あんな文を見てシュンはどう思うんだ?俺の事、変な眼で見なきゃいいけど…。それで今の関係が崩れ、嫌われてしまったら…。ズシンと身体が重くなった。後悔ばかりが残る。それでもケータイは呑気にメールを受信していた
期待よりも不安が増した自身で画面を見ていく。さっきよりも格段に遅くなった行動だが、直ぐに直前までの画面まできてしまった。見たくねえけど、それでもシュンは返信してくれたんだ。その優しさに対して素直に喜び、俺はボタンを押す

「エースと同じ気持ちで吃驚したが、凄く嬉しい
なら、俺は早く終われるよう努めるだけだ

もし早く終わりエースが暇だったら、帰りに茶でもしないか?
待たせてしまった詫びをしたい
返事は直接訊きたいから考えといてくれ

では、一旦失礼する」

メールを一通り読んで安堵の息を吐いた。良かった、嫌われてねえ。その事実だけで俺は生きていける。それから、シュンと同じ気持ちだった事に俺も吃驚した。こんな事なら、普段からちゃんと言えば良かったな。そしたら互いに負担とか無かったハズだ。だから待たせる事に詫びなんかしなくてもいいのに。わざわざ茶に誘わなくても…

『はああぁぁっ?!!』

ガタガタと音をたて俺は立ち上がっていた。そんな俺を不審な眼で見る奴等がいて恥ずかしくなり、大人しく座る。眼線が無くなった事に安心し深く息を吐き、俺はもう一度メールを追った

(誘われてる…)

平然と書かれた文章には、俺を茶に誘う一文がしかと書かれていた。なんだよ、これ…。何考えてんだよ…。これじゃまるでデートじゃねえか…
ビクリと身体が震え、体内の熱が一気に上昇した。それに耐えきれない所為なのか、俺は机に頭を突っ伏した。恥ずかしい。何、考えてんだよ…。でも、嬉しい。彼奴が誘ってくれた事が。誘われる事も、いや、シュンと何処か行く事さえ初めてだ。だから返事は決まってる
つか、茶って何処行くんだろ?…そういや最近この辺に喫茶店出来たよな。種類が豊富らしいし、行ってみてえ。だが、行くならシュンの好きな所がいい。彼奴のお気に入りの場所に行きたい。オススメのもんとか好物とか知りたい。いや、シュンの事もっと知りてえ。小さくても構わねえから、知りたい。だから、シュンが選んだ店にしよう。俺はどんなに遠くても構わねえから
この後の事を考えると顔がニヤケた感覚がした。やべえ、こんな顔シュンには見せらんねえ。俺はシュンが終わるまでに落ち着くために、一眠りでもしようかと考え眼を瞑った。ゆっくりと深呼吸をすれば眠気が襲ってきて、いい具合になってくる

『グリット君!ちょっといい?!』

今にも夢の世界に行ってしまいそうな俺を現実に戻すのは甲高い声だった。耳がいてえ。顔を上げれば見知らぬ女が俺を睨みつけていて苛っとする。なんだ?この女…。俺は頭ん中をフル回転させるが、自分の友人でも無ければ、シュンの友人でも無い事しか分からねえ。まあ、そんだけあれば充分か…
つか、なんで起こすんだよ、この女!折角いい気分だったのに…!シュンの机で寝るんだぜ。夢に出てきそうじゃん。それにこのまま思いっ切り寝ちまって、シュンが起こしてくれるとか…。そういうシチュエーションがあったかもしんねえのに!腹が立つ!!
ムカつき俺も其奴を睨みつけるが、あんま効果がなさそうだ。此奴は睨んだままだから。別にどうでもいいが…。つかさ、此奴無視っていいか?俺にとってどうでもいい人物なんだ。構わなくてよくね?それでも此奴は「ちょっと来て!」と耳が痛くなる音を発してきた。仕方なく俺は立ち上がる。溜息を吐きつつ、俺はシュンの席から離れ此奴について行った。名残惜しくて、教室から出る前に彼奴の机を見つめた
廊下を渡り、外に出る。行き先は学食の様に思えたがスルーされた。何だか五月蠅い声が聞こえるのは格技場の隣を通っているからか。俺としては呑気にそんな事を考え、此奴の後をついて行く。その所為で、俺の背にはいつの間にか壁があった。猫の額程の空間に俺と其奴は立っている。唯一の逃げ道は其奴が立っている場所しかない。何故こんな所まで呼び出したのか、そして俺には逃げる気もねえから、ただ黙って突っ立っていれば、ゾロゾロと人が現れた。十数人だろか、其奴等は全員じゃねえがバットやパイプなどの武器を持っていて、全員女だった。そんでもって、俺の友人もシュンの友人もいねえ

『グリット君。ずっと言いたかったわ。あんた気持ち悪いわよ!』

俺を呼び、この場に連れてきた張本人がそう言い放つが、何故こんな奴にそんな事を言われなきゃなんねえんだ?そう疑問に思いつつ、結局はどうでもいいから溜息しか出なかった

『それがどうした?』

『ど、どうしたって…?!こっちは気持ち悪いって!』

『だから何なんだ?』

「気持ち悪い」と言えば俺がショックなり、落ち込むなりと此奴は思っていたみたいだが、別に他人にどう思われていようが気にしねえ。大体、今の今まで俺はシュンに「気持ち悪い」と言われた事ねえし、類似する単語を吐かれた事さえねえんだ。だから俺は気持ち悪くねえ。シュンがそう思わないなら、構わねえ

『な、なんなの貴方!頭可笑しいんじゃないの?!』

『あ、そう。別に…。シュンがそう思わなきゃ、俺はそう思わねえよ』

『っ…』

誰に何て言われようがどうでもいい。シュンに嫌われないなら何だって構わねえ。それでもし、シュンに「気持ち悪い」とか言われたら直すだけだ。他人がとやかく言おうがどうでもいいんだ

『あ、あなた…。やっぱり風見君の事が好きなのね?』

『ああ、そうだよ。つか、何だ?てめえら、シュン狙いか?』

『ええ、そうよ!でもね、貴方が邪魔なの!』

「だから、消えて貰うわ」
何処かで聞くような在り来たりの台詞を吐き、其奴は後ろを見た。1人の女とアイコンタクトでもしたのか、女は其奴にパイプを投げる。其奴はそのパイプを掴み、俺を見る。パイプを掴んだ腕を伸ばし、嘲笑うかの様に放つ

『言っとくけど、此処にいる皆、貴方に対してムカついてんの。誰も容赦しないわ』

ニヤリと笑い、其奴はパイプを両手で掴む。腕を振り上げ、俺をソレで殴る様に思いっきし、降下させてきた。だが、俺はソレを難無く避ける。すると小さく舌打ちされた
舌打ちすんならしない程度の喧嘩でも身に付けて来いよ。てめえの動きはモーションが大きすぎて分かり易いんだ。大体パイプで殴られそうになってこっちが怯むかと思ったのか?馬鹿か、誰が怯むか!
俺は反撃するために地面を蹴った。そのまま右腕の裾にあるモノを素速く出し、風を斬る

『っ?!』

互いに動きが止まる、一瞬の沈黙状態。だが、それを破ったのは、地面に一点の赤色が現れたからだ。女は震えた手で頬を触り、自分の手を凝視する。その眼は次に俺を映し出した

『な、なにを…?』

『別に。そっちが容赦しねえならこっちも容赦しねえだけだ』

「ま、元々容赦しねえけどな」
そう放ちながら俺は裾に隠し持っていたカッターナイフを見せ付ける。ソレは先ほど斬りつけた所為で刃先が赤く染まっていた。だが、此奴はそういう運命を辿ってきた俺の相棒だ。今更見慣れた色を見ても、相棒を染めても、気にしねえ
女が驚愕し、ダラダラと泣き始める。後ろにいる奴らも震え、俺を人外でも見ているかの様な眼で見てきた。それでも構わねえ。今度はこっちが嘲笑う番だ

『てめえらみたいなのに、シュンは渡さねえ。それでも近付きてえなら…。俺を倒してからにしろ!』

又地面を蹴り、俺は斬りつける体勢に入る。風が裂かれ、赤く染まり、叫び声が響く。それでも構わねえ。俺は無我夢中で斬っていった














染めても渡さない!














泣き叫ぶ声を聞く中ケータイが震え始めた。それはメールじゃなくて電話で、彼奴専用のバイブだ。委員会、終わったのか?つか、このままじゃ、待つ側が待たせる側になるじゃねえか!許さねえ…!
ナイフを握り締め、振りかぶる。彼奴を待たせる事にさせた此奴等が許さねえ。ムカつくが短時間で終わらせるために、今の苛つきも混ぜ、俺はこの腕を振り落とす

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