紅く朱く、染めたとしても


『――っ?!しゅ、しゅん。なんだよ、これ…。どういうことだよ!!』

『…エース、か』

彼奴の背に向かって叫べば、ゆっくりと此方を向いて応えられた。顔は相変わらずの無表情で、それが今は凄く恐い。だけど何処にも視線を向けることが出来ねえから、シュンを見る。下を見てしまえば現実を受け入れそうで、受け入れたくなくて、俺は拒否した。だが、シュンの顔や服にも現実を受け入れらなきゃなんねえモノがあって、恐怖で震え視界が歪んだ

『…しゅ、んが。しゅんがやったのか…?』

『ああ』

肯定された。それが嫌で余計に視界が歪む
嘘だと言って欲しかった。シュンの身体を彩る色も、今シュンが持っている物も、下に広がる世界も、全部嘘だって、言って欲しい。その口から
だけどシュンはそういう事言わないで、無理矢理現実を叩きつけようとする。見たくねえ、シュンの持っている物を、無理矢理俺の視界にいれた。本来なら野菜や魚を切るソレは、紅く朱く塗れていた。その液体はシュンの手にを通り、ゆっくりと畳へと降下する
足の震えが酷くなって、立つのが精一杯になった。それでも立とうとするのは下の世界に行きたくねえからだ。必死に、自分を保とうとする。だけどシュンはこんな状況でも自分を保っていた。冷静で、無表情で、いつものシュンだった

『な、んで…?なんでこんなこと…』

渇ききってしまった喉で正直いてえけど、それでも俺は訊いてしまった。訊きたくねえし、現実を受け入れたくねえ。それでも、シュンが無実だという願望が少しでもあるんだ…。むしろ無実だと信じていてえ…!

『…耐えられなかったんだ』

『た、たえ…?』

『エースの事、認めてくれないから…』

シュンは淡々と応えた。だけど音色が切なくて、寂しく感じられて、俺は同情してしまう
シュンが今までどう説明してきたか分かんねえ。だけど、俺の事を認めさせようと奮闘していた事実を知り、不謹慎だけど嬉しく感じてしまった
嬉しい…。だけどこの現実をシュンがやってしまった事実を知ってしまい、傷みも伴ってきた

『だからって、ころすことなんて…』

『俺も最初はそんなつもりはな。だが、気付いたら握っていて、こんな状況だった』

よくある台詞をシュンは吐く。そんなのただ単に言い逃れしたい奴の言い分かとずっと思っていた。だが、そう吐くシュンにはそんな風には思えねえ。此奴の、本心だ…
シュンが視線を下に移すから俺も移してしまった。映る世界はとても惨劇だ。ドラマや映画の世界でしか知らない世界だ
人が2人、横たわっている。腹から紅い液体を流し、畳を染め、人が横たわっている。その間に立っているのがシュンだった。その紅を少し身に纏っていて立っていた
此奴は、自分の両親を自分の手で殺めたんだ。そう理解してしまったら背筋が震え寒気のような冷たさが背後から襲ってきた

『どう、すんだよ…』

『そうだな。取り敢えず、警察にでも連絡するか』

シュンは冷静だった。そう放つとこの場を離れようと足を動かしていた
俺の脇を通り、気付けばその背は廊下へと向かっていた。そんなシュンを俺は追いかける
シュンの行動は素早かった。追いかけた先には黒電話があってシュンは受話器を握っていた。手はダイヤルを回そうとかけている。それを見た俺は何も考えずにその手を止めていた

『エース…?』

『やめろ…』

『…っ?』

『サツに連絡すんな!!』

手が震える。声も震えていた。歪んだ視界から溢れた水が頬やシュンの手を握った手を濡らした。それはシュンが人を殺したという事実からなるモンじゃねえ…!
人を傷つけるのは悪いことだ。殺めてしまうなんて、一番やってはいけないことだ。そういう場合、素直に警察に言うんだ。罪を認め、償うものだ。そう餓鬼の頃、誰に教わったか覚えてねえけど、何度も言われた台詞。覚えているし、分かっている。罪の重さも、表現出来ねえけど、分かってる。それでも、それでも俺は…

『隠そう』

『えっ…?』

『隠そうぜ。畳だって今から掃除すれば間に合うかもしんねえ。死体だって、シュンの家の庭ひれえから…。埋めちまおう』


全て何事も無かったかのように、綺麗さっぱり隠しちまおう


それが俺の答だ
シュンはその考えが嫌なのか、首を横に振っていた。シュンは真面目でマトモな人間だから、ちゃんと罪を償おうとしたいんだ。それは正しい考えだと分かっている。それでも嫌だから、俺はシュンの手を強く握った

『エース…』

『いや、なんだよ。シュンと離れ離れになんのが…』

警察に言えば、シュンは犯罪者扱いだ。罰金だけですむ様な話じゃねえ。牢屋にぶち込まれる。だが、本当にそれだけなのか?死刑判決だって出てしまうかもしんねえ…。そんなの、嫌だ!シュンと離れたくない…
大体、シュンは何1つ悪くねえんだ!俺の事、認めて貰おうと頑張ってただけなんだ。認めようとしない、彼奴等が悪いんだ。そうだ、シュンが償うべき罪なんて何1つねえんだ…!

『だが、俺は犯罪者だ。エースの側にいる資格なんてない。それに隠すとなれば、お前を巻き込む事になってしまう…』

『犯罪者とか資格とか言うなよ!それに巻き込まれたって構わねえ!!シュンが好きで、側に居てえんだよ!!』

[だから何処にも行くな]という気持ちを込めて、俺はシュンの手を握った。覚悟なら出来ている。周りになんて言われようが、思われようが、俺はシュンと一緒にいる事を選択したいんだ。そんな俺を、シュンは切なそうな眼で見ていた
がチャリと受話器を置く音が聞こえ、掴んでいた手を引っ張られる。抵抗も何もせず流れるままやられれば、背中に重みを感じた。額や頬を擽られ、俺は離された手を首に回す

『…すまない、エース』

小さく震える声で呟くシュンは、俺に体重を少し預けた。重さに耐えつつも力を込めれば、違う意味で頬が濡れていた














紅く朱く、染めたとしても














見つかってしまったら逃げればいい。一緒に。遠く遠く、何処までも。隠れて、逃げて、また隠れて。それを繰り返せばいい
例え逃げた先が地獄だったとしても、シュンと一緒なら何1つ恐くない

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