恋唄一首


放課後
誰も居ないはずの教室で何度も百人一首の唄が聞こえてきていた。

「ちはやぶる・・・かみよ・・」
「神代も聞かず、竜田川。からくれないに、水くくるとは、だ」
「そう・・・だったな・・」
「・・・これで十回目だぞ」

そう言うと駿は小さく溜息をついて持っていた古文の教科書を机の上に置いた。

「しかたねえだろ・・・。大体、一週間で二十も覚えられっか」

エースもまた同じ机に教科書を置いた。

駿とエースは現在教室で百人一首の暗記をしていた。
もっとも、駿はもう全て暗記してしまっているので殆ど友人のエースが覚えるのを手伝っているようなものだ。
駿とエースは席が上下にある為、エースが後ろを向いて駿の机で暗記をしている。

「つか、何で古文の授業があんだよ。社会で役に立たねえだろ、これ。」
「基礎の知識としては必要なものだ。先人の意思を引き継ぐのも大事なことだぞ。」

駿がそう言うとエースは少し不満げな顔をした。
駿もまたそんなエースを見て少し苦笑した。

「・・・・なあ、駿」
「ん?どうした?」

下を向いて机の上の教科書を見つめていたエース
に駿は尋ねた。

「・・・駿はこん中で好きな唄とかあんのか?」
「一応あるが・・・、エースは?」
「・・・ある」

それだけ言うとエースは黙り込んでまた教科書を見つめた。
すると、駿はポツリと呟く様に言った。

「かくとだに・・えやはいぶきの、さしも草・・。さしも知らじな・・燃ゆり思いに・・・」
「駿?」
「俺の好きな唄だ・・・、どうも共感が大きくてな」

エースは顔を上に上げると駿はエースに顔を近づけた。
机を挟んでいるとはいえ、二人の間に殆ど距離はなくエースは顔を離すことが出来なかった。

「な・・・何だよ?」
「意味は・・・」

駿はエースの額に自分の額を合わせた。

「お前を思う俺の気持ちは言葉で現すことが出来ない・・・。それ程の思いにお前は気付いていないだろう・・・」

「しゅ、駿!?」

「・・・・俺の燃える様な思いに・・」

それだけ言うと駿は自分の唇をエースの唇に重ねた。

エースが目を見開いて驚くなか、駿は平然と次の言葉を述べた。

「・・・返事」
「は!?」
「返事が欲しい・・・」

駿の表情は真剣そのものだった。
そんな駿を見て、エースは赤面しながら少し黙り込んだ後小さな声で言った。

「・・・俺は十三だ」
「え?」
「だから!俺の場合は十三番なんだよ!!」

エースは勢いよく立つと走って教室を出ていってしまった。

そんなエースを見ていた駿はふとエースの教科書に目を落とした。
開かれていたページに書かれていた十三番の唄を見て、駿は微笑した。

「・・・・良いように、解釈するぞ」

そう呟くと、駿はエースを追いかける為走り出した。



恋唄一首


『筑波嶺の  峰より落つる  みなの川  恋ぞつもりて  淵となりぬる』

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