赤く燃える愛を貴方に





暗闇に不気味な紅が広がっていて、その中をただ手の引かれるまま駆け抜ける。

「こっちだ……!」

西洋文化の入り混じり始めた世の中で多くなり始めた服装を翻し、足場の悪くなった道と立ち込める嫌な臭いに眉間に皺が寄った。

はっ、はっ、と自分の口から短い呼吸音が繰り返され、とても耳障りだ。

さらに頭上ではずっとサイレンが鳴り響いていて鬱陶しい。

「っ、うあ!」

ずる、と嫌な感じに足が滑り、まずった、と思ったときには地面にすっ転んていた。

その拍子に繋がれていた手が離れる。

「エース!」

半瞬遅れて足を止めたシュンが俺の名前を呼んだ。

「馬鹿野郎!俺に構ってんじゃねえ先に行け、死にてえのかっ!」

「立てるか?」

俺の言葉なんかひと欠片も聞いていないのか、シュンは俺の傍らに戻ってきて膝をつく。

肩を貸されて立ち上がろうと力を入れると激痛が走った。

「っあ……」

「痛めたか……」

煤で薄汚れたシュンの顔が険しくなったのがわかって、大丈夫だと首を振る。

「行くぞ」

俺に合わせてゆっくりと歩み始めたシュンに苛々が募った。

それに拍車をかけるように、近くの建物が騒々しい音を立てて崩れ落ちる。

足元にまで火の塊と粉が飛んできた。

この道が塞がれれば防空壕へと続く道がなくなる。

「てめ、先に、行けって……言って」

「お前を置いて行けるわけがないだろう、話すと体力を消耗する」

いつもの冷静な顔でそう言ったシュンは一瞬俺を見て薄く笑みを浮かべた。



「もうすぐだ……」

それからひたすら歩いて、声に顔を上げれば目と鼻の先に防空壕の入り口が見えている。

シュンの顔を見ればなんだか強張った表情が返ってきた。

「……エース、先に行け」

「えっ?シュン……?」

思いもよらない言葉に唖然と見つめていれば、シュンに口付けられる。

今までしたことがない西洋映画のようなものに体が追いつかず、倒れないように縋りつく。

名残惜しそうに下唇を食まれ舐められ、口が離れた。

「っは、おいっ……シュンどういうこ……」

「すまない」

どん、と突き放されて遠ざかりながら、切ない笑みのシュンの表情が目に焼きつく。

「しゅ……」

名前を呼び終える前に、言葉に出来ないほどでかい爆音が鳴って、今まで俺達がいたその場所に赤が積み上がった。

あ い し て る

静かにあいつの唇が弧をえがいて、確かにそう見えた。

終戦二日前の話である。





赤く燃える愛を貴方に
夢の中で会いませう



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