呟いた想いは伝わらない


『シュ、ン…?』

マルチョの家で生き抜きがてらみんなで[ぼーりんぐ]とかいう競技で遊んでいたが、俺は何となくキリがよくなったから出てきた。ただ1人になりたかったのか分かんねぇ。与えられた自室じゃなくて、全員が集まる場所の扉を開けば、其処には1組の先客がいた
風属性バトラーであるシュンとそのパートナーであるイングラムだ。シュンはソファに腕を組んだまま座っていて、イングラムは机の上に球体でいた

『んだよ。なんでお前は一緒にやんねえんだよ!』

『……』

別に話さなくてもいいが、入った瞬間に無意識に俺はシュンの名を呼んでしまったから、テキトーに話を振ることにした。だが、返事も無くて苛ついた

『てめえ!人が話しかけてんのに、なんとかい…?!』

ズカズカと歩いてシュンの前に来れば、其処でやっとシュンの眼が閉じられているのに気付いた。…ね、てるのか?腰を下ろして眼の高さを一緒にすれば、小さくだが鼻息が聞こえ、肩が上下に動いている。寝ているな、此奴

(疲れてんのか?)

正直、地球に着てから俺はシュンと全然話してない。いや、シュンが誰かと話している処を見ていない。いつの間にか居なくなっていて、気付いた時には後ろにいる。それが最近の日常だ
人とつるむのが苦手なのか、それとも今の現状に備えて準備してるのか?どっちなんだ?それとも、それ以外か…?何となくだが、そんな事を思った。だが、つるむのが苦手なハズねえな!だったらダンみたいな奴と長い付き合いなんて出来ねえもんな。なら、準備か…。俺は1人、勝手にそう解釈した

『って、お前眼に隈が出来てんじゃねえか!無茶しすぎじゃね?』

全然見てなかったから気付かなかったが、今は眼線を合わせて顔を近くで見ているから分かった。いや、凝視しなきゃ分かんねえか。薄くだけど、シュンには隈があった
それを見て、俺はさっきの解釈が正しかったと感じた。シュンの事だ。毎日朝早くから遅くまで、バトルの事考えてんだろう。遊んでいる暇なんて、ないもんな。シュンの中では…。だからって、眼に隈作るほどがんばんなよ、馬鹿野郎

『…少しは頼れよ』

俺達は、何のための仲間なんだ?確かに、シュンの性格上[頼る]てもんは無縁の様な存在だ。プライドだって、たけえ
だけどよ、少しくらい頼ったってイイじゃねえか?そんだけ、俺達の仲って薄いもんなのか?何か悲しくて眼がいてえ…

『なあ、パーシバル…』

『なんだ?』

『誰も、来ねえよな?』

立って扉の方を向く。彼奴等が今、下の階で遊んでいると分かっていても、俺は不安だからパーシバルにも訊いていた。問われて肩に乗ったパーシバルは俺の肩から離れ、扉まで行く。少し周りをフヨフヨと浮き、戻ってきた

『誰も来そうにないな』

『そうか』

すまねえと吐いたときにはパーシバルは球体に戻って、視界から消えた。俺は一息吐いて、シュンの方を向く
誰もいない。当分誰も来ない。そう分かっていても、心臓が高鳴る。これからする事は悪いことか分かんねえ。だけど、したい。その感情が勝って、俺はさっきと同じ様に腰を下ろした
シュンの顔をジッと見る。眼は開いてないけど、整った顔だと思う。そんなシュンに、俺は右腕を伸ばした。ゆっくり、ゆっくりと腕を延ばす。手先なんかすっげえ震えてる。心臓はバクバクとうっせえし、視界は泳ぐ。神経は耳に集中して、誰も来ない事とシュンが起きねえ事だけを祈った。そんな伸ばした腕から、右手の中指が一瞬、シュンの髪に触れた

『?!』

触れただけでも、心臓がビクッと振動し、伸ばした腕を直ぐに引っ込める。恐る恐るシュンの顔を見る。シュンの眼は未だに閉じられている。寝ている。そう分かると、やっと息が吐けた
安心して又腕を伸ばす。又、右手の中指がシュンの髪に触れた。ビクッと身体が震えるが、腕は引っ込めねえ。起きねえ!是ってえ、起きない!!そう信じ、意を決して、俺は腕を伸ばしてシュンの髪に触れた

(意外と、サラサラしてる…)

シュンの髪は見た目や想像とは違って、絡まる事無く俺の指を通した。俺の髪質とはちげえ。なんか、こういう髪質だったら良かったな。そんな事を思いながら、俺の手はシュンの髪を通しつつ上にもっていく
ポンと手をシュンの頭に乗せる。そして俺は、シュンの頭を撫でた。餓鬼が親に褒められた時に撫でるような撫で方だ、多分。正直、俺には餓鬼の頃の記憶なんてねえ。だから、想像とかで、俺はシュンの頭を撫でた
いつもご苦労様と、無茶しすぎなんだよ馬鹿!という気持ちを込めて俺はシュンの頭を撫でた

(…?)

シュンの表情が少しだけ和らいだ様に見えた。微笑んでるのか?なんかさっきよりも幸せそうに寝ている…。いい夢、見てんのか?なら、いいな

『その夢に、俺も出てるといいな…』

呟いた言葉をかき消す事なんかしねえ。今、ここに誰もいねえんだ。もしかしたら、聞いてんのはパーシバルがいるかもしんねえけど、彼奴は俺の事知ってっからいい
気持ちよさそうに、和らいだ顔をして寝ているシュン。それを見ていたら、抑えていた感情が爆発してきた。シュンの頭に乗せた手を離し、俺は又部屋を見渡す。誰もいない、静かな部屋。誰も来ない事だけを祈り、俺はシュンを見る。そして、そんなシュンの両頬を両手で包んだ
ゴクリと唾を呑む。触れた頬の感触をこれでもかってくらい味わう。起きねえ、よな?つか、起きないでくれ!又同じ事を祈ってシュンの顔を見る
どうして、此奴はこんなに格好いいのだろうか?気付いた時には、シュンをそんな眼で見ている自分がいた。当時はそんな自分が気持ち悪かった。男相手にそんな感情を持つなんて!と鬱になりかけた。それでも、感情は素直で、シュンの隣を欲した。パーシバルに「お前は彼奴の隣にいる時が、一番幸せな顔をしている」と言われた。自分の表情なんか分かんねえけど、俺はこの感情を棄てない事にした。幸せだった。いや、今も幸せだ。だが、俺は欲深いのか、それ以上が欲しくなってしまった
シュンに顔を近付ける。ドクドクと五月蠅い心音と震える身体を無視し、近付ける。互いの鼻が触れ、そこで俺は近付けるのを止めた

『シュン、わりい…。でも、俺の最初はお前がいいんだ…!』

呟いて、俺は意を決して、行動に移した。止めていた顔を一気に近付ける。眼を瞑り、俺が今欲しかったモノに触れた
触れた瞬間に幸福感と罪悪感の2つが訪れる。シュン、わりい。そう思っても、俺は離す気にならねえ。シュンの感触をこれでもかってくらい味わう事にする。甘いのか、酸っぱいのか、正直分かんねえ。軟らかいような、少しざらつくような感触がする。だけどそれ以上に、熱い顔や身体と今にも死にそうな心臓の所為で、マトモに味わえない。本当なら、触れて、一瞬だけだと決めてたのに、俺はちゃんと味わいたい為なのか、それとも離したくないっつー願望の所為なのか、中々離す行為には移れねえ。むしろ、もう首に腕を回していた。体重も少なからず、シュンにかかっている。起きてしまう!と分かっていても、俺はシュンに押し当てていた

『――っ?!』

一瞬、シュンが動いたような気がして、俺は反射的に身体を離す。シュンを起こしてしまったのか?バ、レたのか…?ドクドクと波打つ心音が聞こえる中、俺はシュンの顔を見る。この眼が開いてしまったら、俺はどうすればいいんだ?何て言えばいい?むしろ、伝えた後の方が恐い。そんな不安の中、俺はゴクリと又唾を呑む。だが、一向にシュンの眼が開かない処か、此奴は規則正しい寝息を発していた

『…起きねえのかよ』

あんな事したのに、気付かないなんてどんだけだ?だが、起きてたらマズいので、今は起きていない事実に安堵する
寝ているシュンの頬に手をあて、円を描くように撫でる。気持ちがいいのか、くすぐったいのか、シュンが笑った。そんな表情を見ていたら、気付くと俺は言葉を発していた

『…なあ、シュン

お前と両想いだったら、いいのにな…』














呟いた想いは伝わらない














よく見ると、シュンの唇が少しだけ光っていた。恐る恐る自分のモノに触れたら、微かにだけど濡れていて、嬉しいような恥ずかしいような感情がこみ上げてきた。そして又、俺は触れたいと思ってしまい、頬に手をあてようとするがパーシバルに止められた
もう、時間か…
これ以上1人で居たら、彼奴等だって不審がる。それ以上に、次もシュンが起きない可能性なんてねえ。残念だけど仕方ねえ。立ち上がって俺は扉に向かった

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