「マジでお前ねえわ……」
「すまない」
げんなりした顔のエースの前で、いつもの表情のシュンが立っていた。
その手にはほとんど中身が空になったコーヒーカップが指に引っ掛かっている。
本来シュンの中に消えるはずであった焦げ茶の液体は、エースの足へと降りかかっていた。
そのせいで白のスキニーズボンはコーヒーと同色の染みを大きく広げている。
「……着替えてくる」
エースはため息と共に自分のカップを置いて立ち上がった。
「大丈夫っすか?エース」
「平気だ、んなに熱くなかったしな」
バロンとすれ違い、その後にミラがあっ、と声を漏らす。
「エース、今あなたの服を洗濯してるわよ」
その言葉を聞いたエースが信じられないような顔をして固まった。
「で、これになったのか。似合いすぎじゃね?」
「うっせえ黙れ」
ソファに不機嫌な顔で腰を下ろしているエースを指差し、ダンが隣のバロンに話を振る。
それにバロンは苦笑いを返した。
「ごめんなさい、エースが履けそうなのがこれしかなくて……」
「ないよりは、ましだ……」
すまなそうにするミラにそう言ったエースは、自分の足を唯一覆う短めのプリーツスカートを気にしながら足を組みかえる。
その様子を眺めていたシュンは無言のままエースの隣に座り、新しく煎れ直されたコーヒーを啜った。
「…………」
「…………」
二人の空気に他のブーローラーズが肩を竦めてそれぞれの場所へ戻っていく。
「似合うな」
「嬉しくねえ」
それだけで切れた会話の後、エースの方眉が跳ねた。
「だいたいな!俺だって好きでこんな格好してんじゃねえんだぞ!だいたいっ、元凶はお前だっつーの!」
ダンッ、と立ち上がってさらに地面を踏みつけたエースをシュンが目だけで見上げる。
それに僅か言葉に詰まったエースから目を離し、シュンは再びカップを傾けた。
「まあ、灰色は嫌いじゃないが」
「は……?」
まったく話の噛み合わない会話にまた沈黙が続く。
普段通り、カップをソーサーに戻したシュンが口を開いた。
「下着の話だ」
それにエースがとっさに短く翻るスカートの上から足を押さえる。
「っ……!てめ……!」
その上からシュンの手が触れると、褐色のような、少し血色の悪い肌が途端にカッと赤くなって震えた。
「筋肉はあるが、細い足だな」
「てっめええええ!触るな揉むなアホ毛野郎!」
そうして蹴り出された足は僅かに首を傾げただけのシュンに華麗に避けられ、代わりにソファの背凭れを蹴り押す。
「変態」
「どうも」
「ちっげえ!褒めてねええええ!」
がしゃん。
少し重い音がして、変に見慣れたコーヒー色が広がった。
甘い珈琲とほろ苦い牛乳
反発しつつ馴染むそれ