世界と引き換えに…


『世界なんか、救わなきゃ良かった』

気付いたらそう呟いていた。一瞬で周りが静かになって、俺は何事かと、周りの景色をただ何となく見ていた顔を戻した
周りの奴らは驚いていた。そん時は何故だが分かんなくて「なんで驚いてんだ?」と訊いた。したら、バンと音を立ててミラが立ち上がって、イキナリ説教をするもんだから意味が分かんなかった。怒られる筋合いなんてねえ。そう思って、俺も立ち上がって反論すれば、隣に座っていたバロンも怒り出して意味が分かんなかった。唯一、冷静だったキースが止め、何故こんな事になったのか説明してくれた。そん時、初めて俺はそんな言葉を発していたことを知った
なんで俺は、そんな事を言ってしまったのか?疑問に思い、又周りの景色を見た

(…うぜぇ)

俺の視界に、ある人物が入って苛つかせる。1組のカップルだ。外で、しかも真っ昼間だというのに、人目を気にせずイチャツいている。見てて苛々する。つか、さっきから何回抱き合ってんだよ。あーまたキスしてる。ここ外なんだが?周りの眼とか気にしろ、馬鹿
…て、そういや俺はさっきからずっと彼奴等の事ばっか見てんだな。馬鹿らしい。つか、なんで見てんだよ!訳分かんねえ!!

『…はあ』

溜め息を吐いて、無意識にポケットからケータイを出す。画面を見れば何もねえ。マナーモード中つっても、バイブはする。さっきから一瞬たりともバイブはしてねえ事くらい知っている。癖だ。それでも、もしかしたらと何故か期待している自分がいて余計に溜め息が出る

『……』

俺はケータイの画面から、それに付けたたった1つのストラップに眼がいった。地球で買った物。いや、地球で彼奴が買ってくれた物だ


「例えば…。俺の名前[シュン]は此だ」


まるで昨日の様にあの日の光景を思い出してしまった


HEXに狙われていると知っていながらも、俺はその日地球に対しての好奇心に勝てなかった。だから誰にも、パーシバルにもばれないように、マルチョの家を飛び出した。いや、飛び出したつもりだった
シュンに後をつけられた事を知るまでは
吃驚したが、最初は気持ち悪かった。後をつけるって、ストーカーだ。確かそん時は「てめぇはストーカーかっ?!」て訊いていたな。シュンは首を横に振って「1人じゃ危ない」とか、まるで娘を心配する父親のような事、言ってたな。親か?!、彼奴は…。つか俺は女じゃねぇ。そん後は、「戻ろう」とかそんな感じの台詞をシュンが言っていたが、好奇心に勝てねえ俺は首を横に振っていた。説得させようとシュンは色々と言っていた気がするが、俺は首を横に振っていた。そんな俺に対して、シュンは折れて、どうしてそうなったのか覚えてねえが、シュンが地球を案内してくれた
機械技術はヴェスターに劣っていても、地球も中々面白いトコだった。そういや、アレ旨かったな。小さな公園に出ていた出店。確か、[くれーぷ]とかそんな名だったっけ?何を頼んだか忘れたが、生クリームとチョコが入っていて旨かったな。シュンが「よくそんな甘いの食べられるな」と苦笑いしていてムカついたけど!


俺はケータイに付けている唯一のストラップを親指で撫でた。俺が地球の文字で唯一読める文字を


(なんだ、これ…?)

シュンが厠に行っている間、デパート内にある文房具を見ていたら、ある不思議なモンが眼に入った。それはストラップだが、俺の知らない文字が付いている物だった。かたっくるしい感じで、画数が多い文字。地球人はこんな文字使ってんのか?

『何見ているんだ?』

『あ、シュン』

声をかけられ振り向けば、シュンが不思議そうに俺を見ていた。俺はよく分かんねえ文字の付いたストラップをテキトーに1つ取り、シュンに見せた

『なあ、シュン。これなに?』

『…漢字だな』

今はこんなのも売っているのか
そう呟きながらシュンは俺がテキトーに取ったストラップを見ていた。どうやら、このよく分かんねえ文字は[かんじ]という種類らしい

『地球人はこんな訳分かんねぇ文字で文章を書くのか?』

『地球人ではなくて、日本人とかアジア系の人が使用するな』

に、にほんじん…?あじあけい??意味分かんねえよ
そんな俺の顔を見てシュンは苦笑いしていた

『まあ、地球にも色んな種族がいて、一部の種族が使用する。で、分かるか?』

『んーまあ、何となくな。シュンは使うのか?』

『ああ』

…なんか難しい文字使う種族なんだな、シュンって。つか、シュンやマルチョは大丈夫そうだけど、ダンは大丈夫なのか?ぜってえ使えない文字とかありそうじゃん。よく生きてられるな、彼奴
俺は持っていたストラップを元に戻して、回転出来る棚を回した。回せば同じ種類だけど、違う[かんじ]が付いているストラップが眼に入る。どうやら、この棚には[かんじ]が付いたストラップを並べているようだ。あ、アルファベットもあった

『なあ、[かんじ]て此だけなのか?』

『いや、まだ沢山ある。これらは主に人名に使う漢字だ』

『人名…。名前、か?』

『ああ』

よく分かんねえけど、ここで売られているストラップは名前が付いているらしい。俺にはどれも意味の分かんねえ文字にしか見えねえけど
「そうだな」とシュンは言いカラカラと棚を回転させながら、ストラップを凝視した。そして回転を止め、1つのストラップを手にした

『例えば…。俺の名前[シュン]は此だ』

そう言って俺に見せてきたストラップには[駿]という文字が付いていた

『これで[シュン]て読むのか?』

『そうだ』

なんか、画数多くね?只でさえ[かんじ]て堅くて、なんつーか俺には馴染めねぇもんなのに、画数も多くなれば見ているだけでなんか憂鬱だ。シュンにはわりいけど…
そういや…

『なあ、思ったんだけどよ。シュン以外にも名前が[シュン]て奴いるよな?其奴等も全員この字なのか?』

何となくだけど、俺はそんな事を疑問に思ったから訊いてみた。ヴェスターじゃ、同じ名前だと同じ文字書くしな。地球でも…、いや、にほんじん…だっけ?まあ、シュンの種族もそうなのか?

『絶対違うとは答えられないが、必ずしも同じとは言えないな』

『は?意味分かんねえよ』

『[シュン]て読む漢字は此以外にもあるんだ。だから、必ずしも俺と同じではない』

…なんか、分かんねえ。つまり、あれか?例えば[シュン]て名前でも[かんじ]には今シュンが見せている[駿]て以外にも文字がある、て事か?

『意味分かんねえ』

『すまない。説明が分かり辛くて』

『そうじゃなくて…!なんで読み方は一緒なのに、違う文字があんだよ!』

じゃあ、なんだ?この棚に付いているストラップの中には[駿]て文字以外にも[シュン]て読める文字があんのか?!なんでそんな面倒な事やってんだ?!にほんじんって馬鹿なのか?!同じ読み方なのに、違う[かんじ]作ってよ!ほんと意味分かんねえ!
俺は頭を抱えた。意味が分かんなくて、頭がいてえ。そんな俺をシュンはクスリと笑った。ムカつく!だから睨みつけた

『…すまない。だが、漢字にはそれぞれ意味があるんだ。だから同じ読み方でも色々あるんだ』

『いみ?』

『そうだ。俺の[駿]という漢字には[すらりと背の高い]や[すばやい]て意味がある』

シュンに説明されて、俺は[駿]に触れた。この文字にはそんな意味があんのか。そんでもって、シュンの親はそれを理解してシュンに[駿]という文字をつけたのかな?

『…なんかさ』

『どうした?』

『[すらりと背の高い]は当たってねえな』

笑って言えば「悪かったな」と少し不機嫌な声で言われた。だから余計に笑えた。でも、[すばやい]はシュンらしいと思う。言わねえけど。そう思うと、何だかかたっくるしいこの[駿]て文字が、なんだか好きになっていた

『記念に買って帰るか』

シュンはそう言って棚を回した。そして、目当ての場所に止め、1つ取る。だけどシュンが取ったのは[駿]の文字じゃ無かった

『…なんで[A]なんか選ぶんだよ?』

『ルノ達が言っていた。こういうのは自分の名ではなく、好きな奴のを付けるのが普通だと』

『すきな…、っ?!』

シュンが平然と言うから意味がを理解してなかった。口に出して要約理解した。つ、つか!な、なにいってんだよ?!すきなやつって…!!顔が熱い。耳も熱いから、すっげえ赤いんだ
ああ!シュンの馬鹿野郎!!平然とそんな事やるな!スッゲェ恥ずかしい。だけど、それ以上に嬉しくて仕方ない。そんなことされたら、俺も…

『…い』

『なんだ?』

『俺も、此が欲しい』

地球の金を持っていない俺は、シュンに頼んだ。[駿]という文字がついたストラップを渡して。つか、恥ずかしい。それでもシュンは嬉しそうに微笑んで、自分の分と俺の分、2つのストラップを持ってレジに行った。そんて直ぐに俺の手元に[駿]が届いたから、俺はそれを直ぐにケータイにつけた


(懐かしい、な…)

俺は[駿]を撫でながら想い出に浸っていた。だけど、辛い。懐かしいと思ってしまっている事実が、そんでもってもう彼奴が隣にいない現実が辛い
あん時はただ早く平和になる事を祈っていた。爆丸の世界が、次には全次元の人々が。早く終わらせて、平和な世界でノンビリしてえ!と思っていたのに…。訪れた現実は、あの辛かった日々よりも俺には残酷だ
辛い。寂しい。淋しい。声が聞きたい。逢いたい。話がしてえ。好きだと言われたい。好きだと言いたい。抱き締められたい。抱き締め返したい。彼奴の体温を感じたい。彼奴の心音を聞いていたい
俺の望みは、願望は、ただソレだけだ。彼奴さえいればいいんだ。いれば全てが満たされるんだ。だけど、いない

『…こんな世界、いらねえ』

[駿]を強く握っても、シュンはこの場にいない。それでも触れて、彼奴の事だけをただひたすら、視界が歪んでも、想いだしていた














世界と引き換えに…














今すぐ誰かが、爆丸を使ってヴェスターでも襲ってくればいい。そしたら彼奴の事だ、ぜってえ来る。そうすれば、逢えるんだ。また、一緒にいられるんだ。誰か今すぐ、襲えよ!俺は不謹慎だけどそれを願う。だけど、そんな事する連中なんていねえ。つか、ヴェスターで爆丸持ってんの、俺らだけだ。その事実に溜め息しか出なかった。バックミュージックでミラやバロンが何か言っているが無視をして、俺はどうすれば又彼奴と一緒にいられるか、考えた
ああ、そうだ。1つあるじゃねぇか!ヴェスターが襲われる方法。その方法を見つけて俺は嬉しくなって、[駿]を撫でた。又彼奴に逢えるんだと思うと嬉しくて、ニヤケた

なんだ、簡単じゃねぇか
俺がパーシバルを使って、ヴェスターを襲えばいいだけだ!

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