優しい声がした





「ははっ、ちっちぇ!可愛いなー」

「あ!ダン先輩ばっかりずるいっすよ!」

「もう、ダン!私だって……!」

「皆さん、ほどほどにしないとエースさんが……」

外から帰ってくると、やけに部屋の中が賑やかになっていた。

「どうした」

顔を覗かせれば、何かを膝に抱えているらしいダンが振り返る。

「よお!シュン、見てくれよ超可愛いだろ!」

「やめろダン!見んな馬鹿、うわっ」

その抱えていたものが暴れて膝から床へと転げ落ちた。

「……なんだ?」

皆がいる場に近寄り、転げたのを見下ろす。

淡い翡翠の髪色と、大きく、丸みを帯びてる目。

しかし、子供らしくなく緩やかにつり上がった目尻。

さらに、涙で少し潤んだアッシュグレーカラーの瞳、色味の違う肌。

「……エース、か?」

そうつぶやけば、中心で腰をさすっていた子供が不機嫌に顔を歪ませた。

「これは一体どうしたんだ」

とりあえず腰を落ち着かせて、状況説明に一番適しているだろうマルチョに尋ねる。

「ちょっと、いろいろありましたもので……。ミラさんがお遊びで作っていらしたらしい薬をダンさんとバロンさんがおもちゃにしてしまいまして、エースさんが実験台に。そうしたら……」

「エースが幼児化した、と」

「そうでございます」

マルチョはだいたい予想のついていた説明をして苦笑をした。

隣ではミラが宙に広がったディスプレイを触り原因を調べながら、時折女の子らしい表情でダンとバロンのおもちゃにされている子供、エースを目で追っていた。

可哀相だが、意外とその姿の方がミラに興味を持ってもらってるぞ、エース。

ぎゃあぎゃあと騒々しく騒いでいる三人を眺めていたが、散々遊び弄り回されているエースが疲れた顔でぐったりとしだしたのを見て止めに入った。

「そろそろやめてやれ、エースが死にかけているぞ」

そう言いながらダンとバロンの間を往来していた小さな体をすくい上げる。

「あ!なにすんだよシュン!まだこれからいっぱい……」

「見ろ、こんなにぐったりしている。お前達はエースを殺す気か」

ほら、とエースを見せれば、二人の顔が不満そうになりながら口を噤んだ。

半ば見せ物にされている状態の本人は、抵抗する力もないのか俺の腕にしがみついたままぜーはー、と乱れた呼吸を整えている。

「部屋に戻しておくからな」

それだけ告げて扉をくぐり、エースの私室へ向かった。

寝台へそっと下ろせば小さくさんきゅ、と今までより僅かに高くなった声が聞こえる。

「その姿じゃ何もできないだろう。今日は休んで……」

「却下。嫌だ」

「……」

意地っ張りに磨きがかかったわがままに思わず溜め息を吐きそうになり、そこで自分のパートナーのイングラムとエースのパーシバルをさっきの部屋に置いてきてしまったのを思い出し、結局溜め息は口から零れた。

「パーシバルを連れてくるから待っていろ」

そっと小さな頭をなでつけてそう言えば、エースは再び不機嫌な顔になる。

「……いらねえ」

「……」

まさか一番信頼しているだろうパートナーをいらないと言われるとは思わなくて心底呆れた。

「ここにいろ、やっぱり疲れた、寝る……」

どこまでわがままなんだと思いながら仕方なく寝台の脇に腰を下ろして、何かを探すように動いた指先に触れる。

そっとなぞれば優しく握り止められた。

「エース」

「……」

よっぽど眠いのか、まともな反応のできていないエースの髪をなんとなく梳いてみる。

さらりと指の間を抜けていく細い髪に、小さい頃、母さんにこうして寝かしつけてもらったことがあったと思い出した。

そうしながら、穏やかに寝に入った幼子の頬に手をすべらさせる。

いつも触れていたものとは違い、少し柔らかいそこを何度かなでて、また髪を梳いた。

ふと昔読んだお伽話の一部を思い出して悪戯心で顔を寄せる。

「荊姫、か……」

王子の口付けで魔法が解けて目覚めるのなら、とただ眠っているだけのエースに馬鹿みたいなことを頭の片隅で思いながら距離を縮めた。

小さなふっくらとした唇に重ねて、そっと離す。

「……寝ている、のか。当たり前だな……」

先ほどより穏やかな表情で身じろいだエースを眺めて、同じ寝台に頬杖をついて瞼を閉じた。

「……くっそ、起きてんだよ、ばあか……」





優しい声がした

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