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「名字さん……見つけた……!」
「は……え……!? な、何事ですか!?」
「虫さんの良さを分かってもらう……!」
勢い良く詰め寄ってきたゴン太くんに逆らう術なんてなく、私はそのままゴン太くんの研究教室に連行された。


王馬くんが出ていったあともハトの看病を続けていた私は、穏やかな時を過ごしていたはず。
あれは夢だったのか……鬼のような形相のゴン太くんに連行されている今が夢なのか……
要するにワケがわからぬまま私はここまで連れて来られたのだ。


「名字ちゃんも来てくれたんだね〜!」
ゴン太くんの研究教室で待ち構えていたのはニコニコ笑顔の王馬くんだった。
彼の姿を見た瞬間に私は理解した。

また王馬くんの悪巧みだ。

「名字ちゃんは、昆虫のことを動物を手懐けるためのエサとしか思ってないんだよって言ったらゴン太が今までにないくらいの勢いで名字ちゃんを探しに行ったから殺されちゃってないか心配したんだよー」
王馬くんはやはりゴン太くんを騙して良からぬことを企んでいたのだ。
彼から目を離すべきではなかった。後悔しても遅い。こうなってしまっては後の祭りだ。

「名字さん……すみません。王馬小吉監視作戦の指揮官でありながらボクは彼を止めることはできませんでした……」
キーボくんも捕まったみたいだ。自称王馬小吉監視作戦の指揮官であるキーボくんはしょんぼりと肩を落としているが、あのゴン太くんに見つかったが最後、よっぽどの人じゃないと逃げ切れないだろう。

「名字さんも捕まっちゃったんだ……」
白銀さんが苦笑しつつ声をかけてくれる。

他にも茶柱さん、夢野さん、アンジーさん、最原くん、真宮寺くんの姿があった。

「ククク……王馬くんにしてやられたヨ。彼は動機を集めて上映会を開くみたいだネ」
真宮寺くんの言葉に耳を疑った。動機の交換だけでは飽き足らず上映会を開くなんて……。彼はどこまで場を混乱させれば気が済むのだろうか。

「まだ全員は揃ってないけどこんなに集まれば十分昆虫でなごもう会はできるよね!」
「そうだね。じゃあゴン太はこいつらに虫さんの素晴らしさを教えてあげてよ。オレはちょっと用事があって外出しちゃうけど、途中退室させちゃダメだからね」
「どこに行くんですか?」
「名字ちゃんの部屋に忍び込んで荷物を持ってくるんだよ。もちろんまだ回収できていないヤツの分もね。にしし……オレは悪の総統だからピッキングくらいは楽勝なんだよねー」

そんな……ピッキングができるなんて初耳だ……!

「ちょっと待ってください……!」
私は王馬くんに手を伸ばすが、ヒラリとかわされてしまい、彼はそのまま教室を後にした。


彼のあとを追おうと扉に手をかけるが、肩を掴まれて身動きが取れなくなった。
「名字さんも! なごもうよ!!!」
そんなゴン太くんのかけ声とともに、昆虫でなごもう会が始まってしまった。


他の人がどうしていたかなんて知らない。

私はルーちゃんを守るためにひたすら、約二時間ほど、うずくまっていた。
その間考えていたことはただひとつ。



王馬小吉……許すまじ……!



「うわ……虫さんだらけ! 酷い……いや、素敵な事になってるね!」
「帰ってきたんだね! 王馬くん! だったら一緒になごもうよ! なごむ……実になごむよ!」
「とてつもなくそうしたいんだけど、今日はこれくらいにした方がいいんじゃないかな?虫さんも疲れたみたいだしね」
「あ、そっか……そうだよね」
王馬くんに促されたゴン太くんはここらで止めておくのが紳士的だと言って昆虫を片付け始めた。


「おーい、そこでダンゴムシみたいにうずくまってる名字ちゃーん。大丈夫ー?」
ビクッと肩がはねた。
王馬くんの声があまりにも近かったのだ。

昆虫の羽音も聞こえなくなってきたため、私は顔をあげた。
と同時に王馬くんを睨む。他人に向かってこんな顔をしたことがないってくらいの形相で睨んだ……つもりだ。
けれど2時間も同じ体勢でうずくまっていた私の身体は思うように動かないばかりか精神的にも疲れ切っていてぐったりすることしかできなかった。

「どうして……こんなこと……」
「ごめんね。途中で予定外のトラブルに遭って遅くなっちゃった」
そう言って王馬くんは動けない私を立ち上がらせようと手を差し出してくれた。

しかし、私はその手を掴む気にはなれなかった。こうなったのも元はといえば王馬くんのせいなのにこの手を掴むのは複雑な気分だ。

「大丈夫? 名字さん、立てる?」
すかさず最原くんが手を差し伸べてくれる。私はありがたくその手を借りて立ち上がった。
「いたたたた……最原くん、ありがとうございます」
最原くんの両手を掴んでなんとか立ち上がったものの、生まれたての小鹿のように足がプルプルと震えていて一人では立てそうもない。

「このまま掴んでても大丈夫だよ」
そんな様子の私を見て最原くんは優しく声をかけてくれる。私はお言葉に甘えてしばらく最原くんにしがみついていた。

「あらら……嫌われちゃったかな。でも大量のモノクマーズパッドをゲットできたからいっか。ここにいない連中のも含めてね!」
「だから……余計なお世話なんだよなぁ」
白銀さんのため息と私のため息が重なった。

私のヒットポイントはゼロに近い。これ以上負荷を与えられても尽き果てるだけだ。
「じゃあ夜も遅くなってきちゃったし始めようか」

王馬くんがそう言った直後、
「そこまでです! これ以上キミの好きにはさせません!」
キーボくんの声が教室中に響き渡った。
彼は自身の録音機能で王馬くんの企みを録音していたのだ。
そんなことなら早く出してほしかった…という言葉は飲み込む。これが決定的な証拠となり、王馬くんによる動機上映会は中止せざるを得なくなった。


王馬くんはゴン太くんと一対一で昆虫でなごもう会をする羽目になってしまった。少しかわいそうだが自業自得だろう。

私達は重い身体を引きずって寄宿舎へと戻った。



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