01

ここ、どこだろう……誰かいないの……?

私はなぜか知らない学校の教室で机に突っ伏して寝ていた。覚醒しない頭でぼんやりと自身の置かれている状況を把握しようとしてみるが、全くわからない。

チチッチチッ

「ルーちゃん……」
ラットのルーちゃんは私の相棒だ。どうやらこの子が私を起こしてくれたみたいだ。
ルーちゃんがそばにいることでひとまず安心した私は彼女を専用のウエストポーチの中へ入れ、教室を出ようと扉を開ける。

「「おはっくまー!」」

「きゃあ!?」
扉の前には喋るクマのヌイグルミがいた。
そのクマ達はさんざん喚いて才囚学園やらギフテッド制度やらを説明し始めた。
そんなことは知っている。不本意ながら私は超高校級の動物トレーナーなのだから。

とりあえず他にも高校生がいるみたいだから探してみよう。廊下を進むと、別の教室にたどり着いた。中から賑やかな声が聞こえてくる。


「おーい! 待ってよー!」
「やめてください! ボクに近付かないでください!」
扉を開けると、小柄な男の子が妙な格好の人を追いかけていた。

「…………」
そして私はそっと扉を閉じた。
私のコミュ力ではあんな騒がしい人たちに話しかけることはできない。先程の光景は見なかったことにして、他にもっとまともそうな人を探すことにしよう。

しかし……
「にししっキミも高校生だよね?」
いつの間に背後を取られていたのか、小柄な男の子が笑顔で私の腕を掴んだ。彼の有無を言わさぬ態度に私はなす術もなく先程の教室へ連れ戻された。


「……それで、何をしていたんですか?」
「何って、オレはロボットと友達になりたいんだよー」
「ロボット……?」
「なんですか……? 君もロボット差別ですか?」

どうやら彼は超高校級のロボットでキーボというらしい。彼が本当にロボットなのか。最近ではAIが街中でも見られるようになってきたが、ここまで発達したAIは見たことがない。ひどく感心した私は彼を近くでまじまじと見つめる。ロボットとなら緊張せずに話せるかもしれない。

「あの、そんなに見られると恥ずかしいのですが……」
「あはっ、ロボットのくせに恥ずかしさを感じるんだね!」
小柄な少年はそのよく回る口でキーボくんをイジり始める。二人がやいやいと言い合っていて私が入るスキがない。だんだんキーボくんがかわいそうになってきたので私は二人の間に割り込んだ。

「あ、あの……! キミの名前も教えてくれませんか……?」
「ああ……キミまだいたんだ」
「え……」
まだいたんだって……去ろうとしていた私を引き戻したのはキミなのに!?
しかし、目の前の彼はあまりにも失礼な態度に唖然とする私にお構いなしである。

「オレは王馬小吉だよ。超高校級の総統なんだー」
「総統……?」
不思議な肩書の高校生もいるものだ。

「私は名字名前と言います。超高校級の動物トレーナーです。ちなみに……」
そう言いながらポーチからルーちゃんを出してあげる。
「彼女はラットのルーちゃんです」

ルーちゃんを見た王馬くんは目を輝かせている。
「わぁ〜! ドブネズミだ〜!」
「ラ、ラットです! ルーちゃんに失礼ですよ! ラットは誤解されがちですが賢いんです! においを嗅ぎ分けることができますし、芸を覚えることもできるんですよ! しつけすればトイレの場所だって……」
「あの、ボクも触っていいですか?」
熱弁する私を遮って、キーボくんがおずおずとルーちゃんを指差す。危ない危ない、初対面の人に語りだすところだった。

「大丈夫ですよ。ルーちゃんは賢いですから、他の人も怖がりません」
「人じゃないでしょ、ロボットだよ! 無機質な物に触れられて大丈夫なわけないよ!」
「もうキミは黙っててください!」

王馬くんはひとつのアクションごとに表情を変え、他人をイジる。キーボくんが怒るのも無理はないだろう。

ルーちゃんを手のひらに乗せてキーボくんに差し出すと、彼は恐る恐る指を出した。ルーちゃんは逃げ出すこともなく、じっとしている。
「頭をなでても大丈夫ですよ」
「えっと、こうですか?」
キーボくんは何を勘違いしたのか私の頭をなで始めた。

「わ、私の頭じゃないですよ!」
変な人が多いなあ…やっぱり人間、とロボットは理解不能だ。動物と接している方が何倍も良いと実感した。



*



これは私の狂った物語のはじまりだ。

しかし、呑気にルーちゃんを撫でる私は、そんなこと知る由もなかった。




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