12

翌朝、なんとかベッドから身体を起こした私は部屋を出たところで王馬くんと鉢合わせた。
というよりも私を待っていたのだろうか、私を見るなり近づいてきた。

「おはよう名字ちゃん! 昨日は楽しかったね〜!」
「……おはようございます」
「あらら、おばあちゃんみたいに腰を曲げてどうしたの? もしかしてそのまま背中に乗せて食堂まで運んでくれるのかな? さすが名字ちゃん! いつも誰かのために動いてるだけあるね! そういうサービス精神に溢れてるところ嫌いじゃないよ!」
そう言った王馬くんは信じられないことに筋肉痛で悲鳴を上げている私の身体に飛び乗った……。


……その後のことはご想像のとおりで、私の弱々しい悲鳴を聞いて部屋から飛び出して来た最原くんに助け起こされ、偶然そこにいた入間さんに朝から聞くに耐えないハードな言葉を浴びせられた私は、王馬くんを置いて最原くんと一緒に食堂へ向かった。

結局王馬くんは何がしたかったのだ。
私に嫌がらせをしてお目付け役を辞退させようとしたのだろうか。
ただしこんなことに屈している場合ではない。
今日はみんなに伝えたいことがあるのだ。



「名字、それはどういう意味だ?」
「えっと……そのままの意味です。みなさんの動機ビデオを回収して、一所にまとめておいた方がいいと思うんです」
ちらりと王馬くんを見る。

私は食堂に集まったみんなに震える声を抑えながらある提案をした。
それは、いっそのこと動機ビデオをまとめて封印するということ。

「ふーん、名字ちゃんはどうしてそこまで動機ビデオを回収したいの?」
「あなたが何かを企む前に回収しておきたいんですよ……」
私の言葉を聞いた王馬くんはふーんと、なんとも曖昧な反応を示した。言いがかりだの酷いだのと言われる覚悟でいたのだが拍子抜けだ。


「集めたモノクマーズパッドはどこにいれるの?それを保管する場所は?確かに互いが互いの動機ビデオを持っているという状況よりも完全に封印してしまう方がいいとは思うけどネ」
「実は保管方法についてはもう話はつけてあります。
それと……保管は私がしようと思っています。打ち明けてしまいますと、私はすでに自分の動機ビデオを持っています。だから動機を保管することで自分の動機を見てしまうという危険性がないので適任だと思うんですけど…どうでしょうか?」
「ということはさ、コロシアイが起きちゃったら名字ちゃんが一番怪しいってことだよね!」
「王馬くんが集めるって言い出したらどうしようかと思ったけど……僕は、名字さんなら安心して任せられるよ」
最原くんは王馬くんの発言を無視して私の提案に乗ってくれた。信頼されているということが実感できて嬉しい。
「最原ちゃん酷いよ……。うわあああああああんっ! 酷いよ酷いよー!」
「全く公害レベルにうるさい男死ですね!」


最原くんに続き茶柱さんや百田くん、ゴン太くんたちも賛成してくれた。あまり納得のいっていない人もいたようだが、誰が自分の動機を持っていてどう利用されるかわからないといった状況よりもマシだと思ったのか、結局はその場にいた全員が一旦自室に戻って、モノクマーズパッドを持って再び食堂に集まった。

「はーい! お待たせー!」

上機嫌で食堂に現れたモノファニーは鍵がついた宝箱のような箱を手に持っている。
「ありがとうございます」
「アタイを頼ってくれて嬉しいわ!」

モノファニーは嬉しそうに去って行った。

「モノクマ側が用意した箱で大丈夫なんでしょうか!?」
「大丈夫だよ! こういうことに関してはフェアにいかなきゃゲームにならないからね!」
なぜか王馬くんからのフォローを受けて無事にモノクマーズパッドを集め終えた。

「これは責任を持って私が保管します」
「おう、任せたぜ!」
「名字さんなら安心して任せられますね!」
とりあえずここにいる人の分だけでも集められた。あとは春川さんと星くんか……。春川さんはきっとあの赤い扉の部屋にいるのだろうけれど星くんはどこにいるのだろう。

その箱を持って私は自室に戻った。
どこに置こうか迷った挙げ句ベッドの下にその箱を置くことにした。安直な考えだが隠し場所と言ったらベッドの下だろう。

ちょうど箱を置いた時、インターホンが鳴った。
最原くんかと思いながらドアを開けたが、そこにいたのは意気揚々としたキーボくんだった。
「名字さん迎えに来ました! 今日も王馬小吉監視作戦を決行します!」
「あ……わかりました」

自分から言い出したことなので仕方がないけれどどうしてキーボくんはこんなに乗り気なんだ。
朝からみんなの前で自分の意見を言うという大層なことを成し遂げたので今日はもう疲れたのだけれど、私の体力なんてお構いなしに王馬くんは動いているのだ。

どうして私がこんな役をしているのだろう。
ふとそんな考えが頭を過ぎったけれど、キーボくんに腕を引っ張られて一瞬のうちに掻き消えた。





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