25


クラピカが電話を受け、ゴンとキルアが何やら話し合っている間、私はヒソカからの報告に頭を悩ませていた。

"彼はなかなか趣味が合いそうな男"というのはそのままの意味で取ってもよさそうだ。つまり、子どもを剥製人形にする趣味を持つ変態だということだ。ベクトルは違えどヒソカと同じ変態野郎だ。

それを踏まえて"能力は戦闘向きじゃない"という言葉の意味を考えると……

私は紋様がある肩を擦る。
リュフワの能力は相手をただ監視するだけではないはず。それだと弱すぎるのだ。このことに関しては何度も考えてきた。少なくともこの紋様を見たヒソカが興味を抱くほどの念能力の強さを持っているわけだ。それは念を習得した私も実感している。
今この瞬間にも私の身体はリュフワによって蝕まれているのは確かだけれど、戦闘向きではないのなら……。

剥製人形を作る趣味、非戦闘能力。

ある仮定が脳裏を掠めては打ち消していた。
恐怖で身が竦みそうだったから。
でも……。


念能力によって剥製人形を作っているのだとしたら……?


その可能性を強く意識した瞬間、全身が粟立ち、思わず自分の身体を抱いた。

私はすでに剥製人形になる準備が整っていて、あとは絶好の機会を待っているだけだとしたら……。


「おい名前、大丈夫か?」
レオリオの声にはっと顔を上げた。他の3人はまだいない。
「名前……顔が真っ青だぜ?体調が悪いのか?」
レオリオが心配そうに私の額に手を当てる。
「大丈夫……」
声が震えないように意識するも、掠れた声しか出なかった。
本当に大丈夫なのかよ…と心配してくれるレオリオに笑顔を見せる。うまく笑えているかわからないけれど。

大丈夫。
人形になりかけているだとかもうすぐ生物として死ぬかもしれないとか、ただの憶測だ。
もしそうなんだとしても……兄を見つけて、死ぬまでクラピカや皆の役に立てばいい。力になりたい。むしろ……仲間だと言ってくれたみんなとこのままお別れするなんて自分自身を許せない。
この仮説が正しいとしても、リュフワに近づきさえしなければ彼の念能力は条件を満たさないだろう。甘い考えかもしれないが、彼の性格と紋様が現れてからの期間を考えてそう確信していた。
リュフワは自分の目で私が剥製人形になっていくところを見たいはず。

だから今は……


電話を終えたクラピカと目が合った。彼は私に向かって微笑み、すぐに視線をそらして思い悩むように眉間にシワを寄せた。

彼の側にいよう。後悔しないように。




ゴンが旅団を止めたいとクラピカに訴えたことにより、私たちは旅団を討つことになった。

「まず旅団のアジトを張る役、中継係が1人」
「……オレがやるよ」
キルアがすっと手を上げる。
「運転手が1人。レオリオ頼めるか?」
「い!? お、おう」
「平気だよ。クラピカの側なら安全だから」
「おいキルア! まるでオレがビビって一瞬間があいたみたいなとり方すんな!」

私は……私は何をすればいい?考えながらじっとクラピカの顔を見つめる。
「ゴンは……敵の目をくらます役、錯乱係だ」
「そして名前は……」
そこでクラピカの言葉が詰まる。足手まといなのかな…私にできそうなことが少なすぎて困っているのかもしれない。私は必死でクラピカに訴えた。
「足は引っ張らない。お願い、私も力になりたい。私の能力も使えるかもしれないから」
身を乗り出して頼み込む。クラピカも含めて4人の視線が私に注がれた。

私は自身の能力を一通り説明した。キルアやゴンはへえーと目を大きくさせながら聞いていたが、クラピカは終始無言を貫いていた。

「……だから、私も偵察とか追跡は得意。キルアと一緒にアジトを見張るか、クラピカ達と一緒に旅団と対峙するかはクラピカに決めてほしい。私を、私の能力を、使って」
私は瞬きもせずクラピカを見つめる。他の3人もじっとクラピカが口を開くのを待っている。

「確かにその能力は偵察や追跡にはうってつけだな。わかった……名前は私と一緒に来てくれ」
クラピカは目線を下げたまま答えた。私でも役に立てるというクラピカの判断に少し嬉しくなる。
「うん……!」
私は勢いよく頷いた。

「さて……んじゃオレ行くよ」
キルアが悠々と立ち上がる。ついに旅団と対峙するんだと思うと少し怖い。けれど、私にできることならなんでもする。
「キルア……気をつけて」
「おう、任しとけって。名前も無茶はすんなよ」
キルアは何でもないかのようにニッと笑った。その笑顔も仕草もいつもどおりのキルアに見える。私もキルアを見習わなくては。キルアに笑みを返し、自分にできることを考えることに集中した。



*



キルアは名前に笑いかけたあと、クラピカの横を通り、ピタリと立ち止まった。
名前が作戦に思考を巡らしていることを確認して、クラピカにだけ聞こえる声でささやく。
「悔しいけど……旅団が相手じゃクラピカの方が勝手がいい。名前の側から離れるなよ」
「……わかっている。ありがとう、キルア」
クラピカが顔を上げてキルアの方に顔を向ける。その顔には微笑が浮かんでいた。今回のことだけではない。名前とクラピカを引き合わせたのもキルアだ。
キルアは一瞬目を見開いた。すぐに視線をそらし、おう、と小さく答えてから立ち去った。




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