01


ハンター試験の会場は400人ほどの人で埋め尽くされていた。

異様な雰囲気のその中で、俺は見つけたのだ。


赤い目を持つ少女を。




*




「その目はどうしたんだ」

いきなりそう話しかけてきた青年は、切羽詰まったような表情で私を見ていた。

「………」
意味がわからずじっと青年の顔を見返していると、彼は我に返ったように口を開いた。

「……聞き方を変えよう。お前の目は元から赤いのか?」
私はコクリと頷いた。
普段は面倒くさそうなことは無視するのだが、この青年があまりに必死な目をしていたので答えてあげた。

大きく見開かれた瞳に吸い込まれそうだ。


「クラピカー!その子友達?」
青年の後ろからツンツン頭の少年と背の高い男性が走ってくる。

「いや、そうではないのだが……」

「おお!?おおぉ!?」
クラピカと呼ばれた青年が答えようとした時、あとから来た男性に肩を掴まれた。
「嬢ちゃんみたいなかわいい子もハンター試験を受けるのか!?はぁ、ハンター試験は奥が深ぇなあ」
「レオリオ!今すぐ彼女から離れろ!」
クラピカが男性の肩を押し、私は解放される。
「そんなことで奥が深いもあるか!いきなり女性に掴みかかるなど節操のない……」

「キミもハンター試験は初めて?」
クラピカと男性の口論を他所に少年に問いかけられ、私はコクリと頷いた。

「オレもハンター試験は初めてなんだ!頑張ろうね!オレはゴン!」
そう言って手を差し伸べられる。私はその手を取った。小さいけれどしっかりと力が入っていて頼もしい手だった。
「おいゴン、抜け駆けはずるいぞ!オレはレオリオってんだ。よろしくな」
「私はクラピカだ。先程いきなり声をかけたこと、非礼を詫びよう」


三人が自己紹介を終えた時、会場全体にベルが鳴り響いた。

「これにて受付時間を終了いたします。第一次試験は、二次試験会場まで私についてくること」
試験官が歩きだすとともに、他の受験生も動き始め、私もあとに続いた。

「なぁ嬢ちゃん、名前なんて言うんだ?」
どうやらこの三人組は私について来るらしい。
「名前」
「名前かぁ。それにしても名前は容姿といい服装といいお人形みたいだなあ」


「人形……」

私は人形……


私は……


「名前、大丈夫か?」
クラピカが心配そうに顔を覗き込んでくる。
「……うん」
私は動揺を悟られまいと再び前を見据えた。


その時、スケボーに乗った少年が私達を追い越した。
「おいガキ汚ねーぞ!そりゃ反則じゃねーか!」
「何で?」
その少年は不思議そうにレオリオを見ている。
ゴンもクラピカもその少年の肩を持つような発言をしたため、レオリオ達はちょっとした言い合いになっていた。

「お前、何歳?」
「オレ?オレは12!」
「オレと一緒か。お前は?」
キルアは私の方を向いてそう尋ねた。
「15歳」
「15!?同い年かと思ったー」
身長も低いし服装のせいもあるだろうけど、さすがに12歳はないでしょう……。
「あ、ごめん、怒った?」
少年は大して反省している素振りも見せずにあっけらかんとしている。私は少しムッとして黙り込んだ。

「あ、名前もそんな顔するんだ!かわいい!」
「怒った顔もかわいいなー!」
ゴンとレオリオがにかっと笑いかけてくる。
予想外の二人の言葉にどう返していいのかわからず、私はクラピカの後ろに隠れた。
「ゴンはともかく、あまり女性をからかうものではないのだよ」


キルアも加えた私達5人は暫く一緒に走っていた。


「名前は、どうしてハンターになろうと思ったの?」
「兄を…探すため。そして、アイツを捕まえる」
それを聞いたクラピカの瞳がわずかに揺れた。
「アイツ……?」
「私は幼い時人形師リュフワに拾われて、ソイツが経営する孤児院で育った。だけど、ソイツはお気に入りの子どもを剥製人形にする悪趣味の持ち主だった。兄もソイツに呼び出されてから消息不明……。
ある時強盗が入って、屋敷は燃えた。私はそこで意識を失った。目を覚ましたら何もかもがなくなっていて、必死で兄とソイツを探したけど見つからなかった。兄はもう生きていないかもしれない。だけど私は……ハンターになって兄を探し、ソイツを捕まえる」
ぽつりぽつりと口から出てくる私の話を、4人は真剣な顔をして聞いていた。

神妙な面持ちのクラピカが不意に口を開いた。
「私が名前に声をかけたのは、瞳の色が赤かったからだ。……クルタ族固有の緋の眼は、感情が昂ぶると瞳が燃えるような深い緋色になるんだ。この緋の輝きは世界七大美色の1つに数えられているほどだ」
「それで幻影旅団に襲われたわけか」
「幻影旅団……」
私のつぶやきに、クラピカが反応した。
「幻影旅団を知っているのか?」
「リュフワの屋敷に入った強盗が幻影旅団……。クラピカにとってあの人等は憎き敵かもしれない。だけど私にとっては、私をあの屋敷から解放してくれた人達。あの人達がいなかったら私は今頃剥製人形になっていたと思う……」

クラピカは複雑な表情を浮かべる。

「かと言って感謝しているわけでもない。所詮は盗賊、屋敷の火事で死んでいた可能性もある。私は、偶然が重なって生きているだけ」

「名前とクラピカって境遇が似てるんだね」
「旅団っていう共通点もあるしな」
「あぁ……そうだな」
そう答えたクラピカは眉を寄せてなんとも言えない複雑な表情をしていた。


「お、見ろよ、出口だぜ」
前からは明るい光がさしており、永遠と思われた階段も終わりを告げた。




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