16


「あの人、クラピカの知り合い?」
センリツの声に後ろを振り向く。

目に写ったのはスカートを翻し走り去る小柄な女性だった。

その瞬間、心臓がどくっと大きく跳ねた。
フードを被っていて顔は見えなかったがその後ろ姿が彼女と重なる。
「なぜそう思った」
「心音よ。あなたを見てひどく動揺していたようだわ」
ずっと持ち合わせていた疑問が確信へと変わっていく。

彼女は確かに生きている。そしてここ、ヨークシンに来ている。


暫く彼女が消えた方角を見つめていたが、視線を元に戻す。
「リーダー達と合流するぞ」
姿を消した彼女が脳裏を掠めるが軽く頭を振り消し去る。
今はいるかもわからない人のことを考えている場合ではない。
俺はただ任務のことだけを考えてリーダー達のもとへ走り始めた。





*





セメタリービルから離れ、これからどうしようか考えていた時、携帯電話が鳴りはじめた。
鳴り響く着信音が煩わしくて素早く音の源を取り出す。
画面に表示される名前に眉をひそめながらも通話ボタンをタップした。

『……腕の紋様は解けたかい?』
「…………」
『………まあまだ彼の監視下にいるんだろうね オークションは始まったばかりだ キミに有益な情報を与えよう』
「ヒソカ……代わりに何を望んでるの?」
『ククク察しがいいね でも今回はボクがそうしたいだけだから何も望まないよ 簡単にキミに死なれては困るからね』
ヒソカの不気味な笑い声が耳元で響く。


ヒソカはハンター試験の直後、腕の紋様が"念"によるものだと教えてくれた。そしてその念というものが私の身体を蝕んでいることも。私の身体はいつ壊されてもおかしくない。それが精神的なものか肉体的なものかはわからないけれど、ヒソカにそう言われて私自身納得せざるを得なかった。
私には時間がない。

ヒソカの話を聞いた私は直ぐにリュフワに関する調査と念の修行を行った。この紋様は十中八九リュフワの念によるものだ。ただ、この念がどういった類のものなのかはほぼ何もわかっていない。



突然のヒソカからの連絡に戸惑いを隠せなかった。ヒソカと話すのはあのハンター試験直後以来だ。
警戒しつつも私は大人しく指定された場所へ向かった。
虎穴にいらずんば虎児を得ず。危険を承知で行動しなければ何も得られない。


「やあ」
ヒソカが相変わらずの不気味な笑顔を私に向ける。
「自分なりに試行錯誤しているみたいだね 可愛い子には旅をさせよ 果実の成長は早いねぇ」
「用件は……?」
「釣れないなあ」
ヒソカはそう言いながらも絶えず笑みを浮かべながら座り直す。

ヒソカはリュフワがすでにヨークシンに来ていること、可笑しな仮面を着けていることを私に伝えた。

ヒソカが何を企んでいるのかは分からない。おそらくリュフワを値踏みしようとしているのだろう。
軽く礼を述べて立ち去ろうとした時、ヒソカが再び口を開いた。

「名前、最後に一つ」
無言で振り向く。立てた膝に手に置き、その手の甲に顎を載せてこちらを見ているヒソカと目が合う。

「彼もヨークシンにいる」

私はその言葉だけで誰のことを言っているのか察した。一瞬だけ見た彼の姿が瞼の裏にはっきりと残っている。
「どうして……知ってるの?」
なんとか出したその一言は掠れて聞こえた。
「その口ぶりだと彼がここにいることは知っているみたいだね 彼と連絡を取っているんだよ 会わないのかい?」
「もう……連絡取ってないから」
自然とヒソカから視線を外す。
キルアがあんなことになったのにいきなり姿を消して……。あの4人に今さら会わせる顔もない。
向こうも呆れて私と会うつもりもないだろう。

「そうかい 残念だね」
ヒソカはそう言うと片手を上げた。
それを合図に私はその場を去った。


*


名前がそこを去った十数分後、青年が綺麗な金髪をなびかせて姿を現した。
「早かったね」
青年は以前よりも大人びていて、その立ち振る舞いからは冷酷ささえ感じ取れる。
ヒソカは彼の姿を見て笑みをこぼした。





[list]
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -