14


それは一瞬のことだった。

横にいるキルアの気配が消えたと思ったら、次の瞬間には例の刃物のような手でポドロの身体を貫いていたのだ。


そのままキルアは扉の外に消えていった。

扉の前で振り向いたキルアの顔を見た時、ドクンと心臓が跳ねた。この世の全てを敵だとみなしたような目に怯えてしまった。一番辛いのはキルアなのに。
私は声をかけることもできずにただ去って行く後ろ姿を見ていることしかできなかった。



キルアのことを考えていて講習の半分も聞いていなかった。
講習のあと、心ここにあらずな私の様子に気づいていたらしいクラピカが声をかけてくれた。
「キルアが心配か?」
間髪入れずに頷く。
それを見たクラピカは一度ゆっくりと瞬きをした。
「ゴンがイルミにキルアの居場所を聞き出そうと躍起になっている。名前も行くのだろう?」
うん。
そう答えようとした時、またあのねっとりと嫌な視線を感じた。
しかも今回は前より強く。

クラピカもその視線に気づいたらしく後ろを振り向く。同時に肩を捕まれ、視線から死角になるようにクラピカが立ち塞がった。
クラピカの背中越しにその姿がみえた。にんまりと笑みを浮かべたヒソカの姿が。

「くくく 君たちは本当に仲がいいね」
私はクラピカの前へ出た。用があるのは私の方だ。クラピカを巻き込むわけにはいかない。
「ヒソカ……要件は何?」
「そう突っぱねるなよ ボクは君に伝えたいことがあるんだ その肩のことでね」
一層笑みを深くするヒソカ。私は目を見開いてその顔を見ていた。やはりこの紋様について何か知っているのだ。

私は一歩ずつゆっくりとヒソカに近づく。
「名前……!」
クラピカがなにか叫んだように思ったが私の耳を素通りする。

知りたい。
どんなことでもいい。
情報がほしい。

ヒソカは口元を私の耳に近づけて囁く。

クラピカはただそれを見守るだけだった。
そういえば、クラピカもヒソカとの試合の最中に何か囁かれていたな……と後になって気がついた。だからこそ無闇に動けなかったのかもしれない。

この時クラピカが私の名前を呼ぶなり私の手を取るなりしていたらその後の私の行動は変わっていただろうか。
仮定の話をしたところで意味がないことは承知している。どちらにせよ、選択をするのは自分なのだ。

どれが正しい選択かなんてその時にはわからない。ならばせめて自分で選んだ道に責任を持つべきだ。
…後悔をしていないと言ったら嘘になる。それでも私はその選択をしていただろう。



次の日、私はクラピカ達の前から姿を消した。




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