10


結局、クラピカは私の問いには答えなかった。

そのあとは本を読んだりキルアとゲームをしたりしているとあっという間に時間が過ぎていった。

「よーし! 行こう!」
ゴンの掛け声とともに部屋を出る。
大きな石に追いかけられたり壁に挟まれそうになったり、多数決をしながらハードな障害物競争をこなしているようだ。


「はぁ……はぁ……残り時間も少ねぇ……いけんのかこれ……」
みんなの後ろを歩くレオリオは体力の限界も近いようだ。
私は前を阻む扉に目を向けた。
「レオリオ大丈夫。これで最後みたい」


"最後の分かれ道 ここが多数決の道 最後の分岐点。
それでは扉を選んでください。
5人で行けるが長く困難な道 3人しか行けないが短く簡単な道。長く困難な道は45分 短く簡単な道は3分でゴールに着きます。
長く困難な道なら○ 短く簡単な道なら×を押してください。"

冷え切った部屋が静寂に包まれる。

ゴクリと誰かが喉を鳴らす音が聞こえた。

「……さて、先に言っておくぜ。オレは×を押す。そしてここに残される側になる気もねぇ」
「オレは○を押すよ。やっぱりせっかくここまで来たんだから5人で通過したい。何か方法があるはずだよ」
「おいおい残り時間は1時間もないんだぜ。短い道を選ぶしかないよ」
「私はゴンに賛成だ。全員でゴールできる方法を探したい」
×に2票、○に2票
「名前はどっちに投票するの?」

私の解答で多数決が決まる。
「私は……」
4人の視線が私に集まる。


「○を押す。この5人でゴールしたい」
自身の変化に自分でも驚いている。
以前の私だったら迷いなく×を押していただろう。ハンターになるためなら、それくらいは覚悟の上だ。

でも今はみんなでゴールしたいと思っている。
この中の誰かを傷つけてハンターになるという選択肢は存在しない。

「これで○の方が多くなったね!」
「でもどうすんだよ? この残り時間じゃ間に合わねーよ。最悪5人とも失格だぜ」

「何か……何か方法があるはず……」
ゴンが腕を組んで唸る。

5人で長く困難な道から入ってゴールする方法……私も頭をひねるが良い解決策は思い浮かばない。

「そうだ!」
ゴンが声を上げ、用意されていた武器を手に取る。
「これで壁を壊せばいいんだよ!」

「あ……そうか。長く困難な道から入って壁を壊して短く簡単な道へ出る」
「そう! それならみんなでゴールできるよ!」
「けどよ、そんな簡単に壁を壊せるのかよ?」
「きっと大丈夫! 試験官が素手で壁を壊したりしてたからさ、道具さえあればいけるよ!」
「なるほどな……一か八かだがやってみる価値はあるだろう」

極限の状態でそんなことを思いつくなんて…ゴンはすごい。


手をマメだらけにしながら壁を破壊した私達はキルアのスケボーを土台に5人全員が乗れるソリを作った。

「よし! じゃあ行くよ!」
ソリはもの凄いスピードで坂を下っていく。
しっかり捕まっていないと振り落とされそうだ。

「名前、」
名前を呼ばれたかと思うと、腰に手が回って引き寄せられた。
「振り落とされんじゃねーぞ」
キルアが口の端を上げて笑う。
「……ありがとう」


こうしてギリギリゴールした私達とその他の合格者は船に乗り込んだ。


第四時試験はお互いのプレートを奪い合う試験だ。
私は知らない番号を引いてしまった。
気がついたらみんなプレートをしまっていたから探すのに苦労しそうだ。

「よ、名前」
「キルア……」
キルアがすとんと私の隣に座る。
「さっきはありがとう」
「ん?」
キルアは何のことかと考えを巡らせるように首を傾げる。
「ソリで私を支えてくれたこと」
「ああ、お前すぐ飛んでいきそうで危なかったんだよな」
「そんなに弱そうに見えるかな」
私は少し肩を落とした。これでも一応鍛えてはいるのだけれど。
「んー、弱そうというか心配になるんだよな。妹みたいで」
「私キルアより歳上なんだけど」
キルアは意地悪く笑ったが、すぐに真顔に戻った。

「……名前は何番引いた?」
キルアになら…言ってもいいかな。もしキルアのターゲットが私でも、全力で戦った結果なら奪われてしまっても諦めがつく。それにキルアなら告げ口をするなどの心配もない。

「……198番」
「まじ?オレ199番」
そう言ってキルアはターゲットの番号が書かれたカードを出した。
「連続した番号ってことは…」
「あの三兄弟の誰かだな」
よかった……およその検討がついたことでプレートを奪いやすくなった。

「なあ名前、ターゲットも近いしさ、オレと組まねえ?」
私は首を傾げる。
「私と組まなくてもキルアなら簡単にプレートを奪えるでしょ?」
「そうだけどさ、正直に言うと名前が戦うところ見てみたいんだよね。噂によると結構動けるみたいじゃん?」
「どこの情報?」
「秘密」
キルアはペロリと舌を出した。猫みたいだ。隠す理由がわからずに疑問を抱くが、断る理由もない。
「わかった。しばらく身体を動かしてなかったからなまってないといいけど」
私としてもキルアが一緒にいてくれる方が安心だ。
私とキルアは微笑みあった。



「それじゃあ、また1週間後に」
「名前、気をつけてな」
クラピカが心配そうに私を見る。
「大丈夫。もう怪我も治ったし、キルアと一緒に行動する予定だから」
私の言葉を聞くと、クラピカは目を見開き、一瞬間をおいて口を開いた。
「そうなのか……なら安心だな」
そう言ったクラピカは微笑んでいるけれど、心なしかいつもよりも弱々しく見える。
心配しているのかと思った私は大丈夫だよと示すようにクラピカに笑顔を見せてゼビル島に足を踏み入れた。



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